ビューティ

「YSL」はコロナによる“リップ不況”をどう乗り越えるのか? 新事業部長が描く戦略

 日本ロレアル傘下の「イヴ・サンローラン(YVES SAINT LAURENT以下、YSL)」が新事業部長の下、スキンケアの強化を掲げ新たな戦略を進めている。近年はメイクアップ、中でも艶やかな仕上がりとみずみずしい発色が特徴の“ルージュ ヴォリュプテ シャイン”を中心としたリップカテゴリーがけん引し、5年で売り上げが4倍と急成長したが、今年に入り多くのブランド同様、新型コロナウイルスの影響は「YSL」にも及んでいる。5月に就任した長谷友紀子・新事業部長の、「逆境をチャンス」と捉えたビジョンは明確だ。

 長谷新事業部長は、2010年にシュウ ウエムラのマーケティングマネージャーとして日本ロレアルに入社。直近では5年間、「シュウ ウエムラ」の事業部長として手腕を発揮。若年層をターゲットにした戦略で同ブランドは急成長した。その手腕を買われ、次はメイクアップで成長してきた「YSL」を総合ブランドとして確固たる地位に押し上げる。

 長谷事業部長は、「メイクアップを強みとしつつ、今後はスキンケアとフレグランスの比率を上げ、総合ブランドとしてロイヤリティーを上げていく」。そう話すのも、新型コロナ前は売り上げの約80%がメイク、15%がスキンケア、5%がフレグランスとメイクが大きなシェアを占める状況だったからだ。「単価が低いメイクアップは新客の獲得はしやすく、リップはこれまで若年層を筆頭に多くの新客獲得に貢献した。しかしメイクアップでは顧客の固定化が難しく、(コロナ前から)スキンケアを伸ばして顧客化を進めなければいけないと課題を感じていた」と説明する。
 

 コロナはどのブランドにとってもマイナスな面がクローズアップされがちで実際、店舗の閉鎖やタッチアップの自粛など影響は大きいが、「おうち時間が長くなったことにより、スキンケアの需要が高まったことは大きなチャンスだ」と捉え前を向く。実際、今年1月に発売した“ピュアショット”シリーズが好調な動きを見せているという。外的・内的ストレスにより肌が疲労した“過労肌”にアプローチしたシリーズで、現代女性のニーズにマッチしていることから20〜30代の女性を中心に支持を集めている。特にコロナによる生活の変化のストレスを感じる女性が増える中でその人気は高く、すでに当初の年間目標を達成しているという。

 また、明確なコンセプト以外に、サステナビリティーへの取り組みも人気の要因だ。「同シリーズは『YSL』がモロッコに構えるウリカガーデンから原料をエシカルに調達しているほか、パッケージもレフィル・リサイクル対応しているなど、サステナビリティやクリーンビューティにこだわっている。その結果、環境への意識が高い若年層からの関心を集められている」と語る。レフィル対応や公式ECで行う“定期便”サービスはリピートにもつながり、課題としていた顧客化への第一歩となっている。

 こういった状況から、スキンケアの需要はすでに高まっており、現在はカテゴリー別売り上げ比率はメイクが約60%、スキンケアが約30%、フレグランスが約10%にシフトしたという。現状、全体の売り上げは難しいところだろうが、総合ブランドへの道が築かれているだろう。

 一方で強みとするメイクアップも強化アイテムを明確化する。しばらくマスク生活が続くと予測される中でベースメイクに注力。中でも9月4日にリニューアル発売した“アンクルドポールクッション”を戦略商品として打ち出す。同製品はマスクをつけても落ちにくいということで人気だが、人気ボーイズグループのJO1を起用したプロモーションが奏功し、発売当日も大きな反響を呼んだ。また公式ECではレフィルの“定期便”サービスも提供し、メイクでもリピート客の獲得を図る。10月以降は毎年人気のホリデーコレクションに大きな期待を寄せ、年末まで限定アイテムやコフレを順次発売する。

 今後は、ブランドイメージのアップデートにも取り組む。“ヤング、エッジィ、ラグジュアリー”をコンセプトとして掲げている同ブランドだが、「リップの影響でヤングなブランドのイメージは定着していると考える。しかし調査をすると、近年は意外にも可愛らしいイメージも持たれていることも分かった。ファッションメゾンから派生したビューティブランドとして、今後よりエッジィとスタイリッシュさを引き立たせたい。加えて、男性でも使えるジェンダーレスなイメージも打ち出す」。

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