インスタグラムやユーチューブで活動するインフルエンサーの金山大成は、自身初となるEC主軸のファッションブランド「サブレーションズ(SUBLATIONS)」をこのほどスタートした。ブランド名は“相反する物を昇華する”の意で、「メンズ×ウィメンズ」「ドレス×ミリタリー」などさまざまな二律背反の要素をデザインに落とし込み、シャツやジャケットを主軸に受注生産する。企画・生産面では、銀座のテーラーや国内アパレル企業で縫製や生産のノウハウを培ってきた中村泰貴氏とタッグを組む。インフルエンサーとテーラーの元職人という異色な2人が交わることで、どんなシナジーが生まれるのか。
ファーストコレクションは全4型。ジャケット7万8000円、シャツ3万6000〜4万8000円、パンツ3万5000円とインフルエンサーによるD2Cブランドとしては比較的高価格ながら、受注開始(10月15日)からすぐさま受注上限に達した。12月5〜6日には、東京・渋谷で追加の受注会及び新作の一部展示を予定するほか、今後はポップアップストアの出店も検討しているという。
限られた型数のアイテムに世界観を凝縮
コレクションはすべて国内製造。メインアイテムに据えたのは、1970年代にヘルムート・ニュートンが撮影したことで知られる、「イヴ・サンローラン(YVES SAINT LAURENT)」のスモーキングジャケットから着想を得たピークドラペルのジャケット。力強い黒の発色が特徴のフォーマルスーツ用ウールを使用し、シャープなラペルとゆとりあるシルエットでエレガントな魅力を同居させた。裏地はテケポケットやハンドステッチミシンによる仕上げなど、細部まで手が込んでいる。ダブルフロントのシャツ(4万8000円)は東京・墨田区の工場でネイビー、グレージュに染め上げた生地を使った。経糸にスーピマコットン、緯糸にシルクとフレンチリネンの混合糸を組み合わせて、肌触りの良さと見た目の奥行きを出している。
ブランド発足に当たっては外部からの出資は受けず、「やりくりは全てポケットマネー」。そのため仕込める商品の型数・数量も限られたが、「自分たちのやりたいことを表現するには、結果的にはそれがよかった」と2人は振り返る。「利益を確保するため、ある程度の販売量が見込めるTシャツを作ることも考えたものの、していない。というよりできなかった(笑)。だが僕らが作るべきはシャツとジャケットだし、ここできちんと世界観を表現してこそ、ファンがしっかりついて来てくれるだろうと考えた」(金山)。動画に関しても、自前の編集チームで制作する徹底ぶりだ。
ぶつかり合い、尊敬し合う2人でつくる「ファンが第一」のブランド
服の製作プロセスにおいては、中村の知見で本格派のディテールを盛り込み、スタイリングやルックの撮影では金山が感性を生かしてリードした。「意見がぶつかり合うことは結構ある」とも言うが、根底にはお互いへのリスペクトがあるから関係は破綻しない。「(中村は)ビンテージの軍用ベストのような、それどこで手に入れたの?と思うような服を着ていることも多い。服に対する情熱や知識がすごくて、この人とならきっと面白い物が作れると確信している」と金山。一方の中村は「(金山の)すごいと思うのは服への審美眼。僕たち技術者のように知識や理論に裏付けされたものではなく、“好き”という気持ちだけで本能的に答えにたどり着く」と感嘆する。
「サブレーションズ」は発信や新作の打ち出しの仕方においても、これまでのファッションブランドとは異なる道を行く。シーズンの考え方にとらわれず、「セクション(章)」という単位で、少ない型の新作を短スパンで販売していく。さらに「ランウエイ起点のブランドの発信とは、逆転の発想をしたい」といい、「ゆくゆくはショーができるくらいまでブランドが大きくなったら、いくつかのセクションを販売した後に、それらを小説のように紡いだストーリーをランウエイで見せて、商品を買ってくれたファンを楽しませたい」と胸を膨らませる。「僕らがやりたいのは、これまでのファッションブランドのような一方通行のものづくりではなく、買ってくれる人の楽しさを第一に考えたブランド運営。ゼロから新しいシステムを作っていく気概でやらないと、大きな資本とは戦えない。インフルエンサーが片手間でやっているブランドで終わらせるつもりはないし、人生を賭けてやっていくつもりだ」。