中国では国産コスメが急成長しており、日本や東南アジアでも話題となっている。それらの製品の中で目につくのが、キャラクター、ブランド、建造物などとの多様なコラボレーションだ。
中国市場では2015年ごろから、IP(Intellectual Property、知的財産)が注目されている。IPとは一般に認知度が高く、大規模なファン層が存在し、強力な収益力を持つものを指す。具体的にはブランドやコンテンツ、キャラクター、人物などがIPと呼ばれる。
異業種のIPとブランドがコラボすることで話題を生んだり、新客を獲得したり、ブランド理解を深めたりと多くの効果が期待できる。こうしたブランドやキャラクターと自社の商品を掛け合わせて目新しさや希少性を提供する戦略をクロスボーダーマーケティングという。
コラボアイテムは、特に1990年以降に生まれた30歳以下の若者が主な消費者とされており、ファッションや化粧品のメイン消費者層とも重なる。今回は実際に中国で販売されたコラボ商品の事例から、コラボの成功の秘訣を読み解きたい。
世界的に有名な芸術とのコラボ
この数年、中国の化粧品企業は多くの芸術関連コラボ商品を販売している。CBNデータによると、19年の国内IPライセンス市場では、芸術、文化、美術館とのコラボレーションが17%を占めており、若い消費者の文化的に意味のある製品への関心が高まっているという。
日本でも販売される中国コスメ「ズーシー(ZEESEA)」は、特に芸術との結び付きが深い。ブランドには「使用する人に芸術のような美しさを与え、日々をよりカラフルなものにする」という理念があり、その表現方法として芸術関連コラボを選択している。これまでに大英博物館や、画家パブロ・ピカソ(Pablo Picasso)などとコラボし、特に大英博物館コラボの「ミステリーエジプト」シリーズのルースパウダーは18年に美容アワードの一つ、美粧V賞 でメイクアップ製品の年間トップ10に選ばれた。
このほか、中国スキンケア「阿芙(AFU)」は画家フィンセント・ファン・ゴッホ(Vincent van Gogh)とのコラボ製品、中国コスメ「ランサー(LANSUR)」は英V&A博物館に所蔵される画家アルフォンス・ミュシャ(Alfons Mucha)の作品とのコラボ製品を販売し、いずれも話題となった。 また最近ではルーブル美術館がTモール(天猫)に旗艦店を出店し、中国のメイクアップアーティストブランド「マリー ダルガー(MARIE DALGAR、瑪麗黛佳)」とのコラボ製品を販売している。
中国風“国潮”を取り入れる
中国では18年ごろから“国潮(グオチャオ)”という、中国伝統文化の要素を取り入れたトレンドが起こった。検索エンジン百度(バイドゥ)のレポート「国潮プライドビッグデータ」によると、特に人気のあるIPには故宮(紫禁城)や敦煌といった歴史的建造物や都市も入った。
中国コスメでも“国潮”を取り入れるブランドは多く、コスメブランド「毛戈平(MAOGEPING、マオ グァ ピン)」は故宮と、中国コスメ「カズラン(CARSLAN)」は敦煌博物館とコラボして話題に。 また中国コスメ「キャットキン(CATKIN)」は北京・頤和園とコラボし、頤和園の楽寿堂にあるびょうぶ「百鳥朝鳳」をモチーフにした3Dパッケージを製作。口紅の一部カラーは売り切れとなる人気だった。
中国コスメ「完美日記(パーフェクトダイアリー)」の人気アイシャドウは、中国の自然や地理に関する雑誌「中国国家地理」とコラボしている。中国の美しい景色や自然からインスパイアされたカラーをまぶたにまとうというコンセプトのアイテムで、ウェイボーでは愛国心を持つユーザーたちから「アイラブチャイナ」といったコメントが多数寄せられている。 愛国心という多くの人が持つ要素を持つIPと国産ブランドのコラボは相性が良く、受け入れられやすい反面、“国潮”ブランドの差別化が難しくなっているという声もある。
国民的アイテムとの異業種コラボ
中国の若者トレンド“国潮”は、コスメとは縁遠い存在をも結びつける。中でも大きな話題になったのは、国民的なキャンディー「大白兔奶糖」の香りを再現した、香水ブランド「気味図書館(SCENT LIBRARY)」のフレグランスだ。“子どものころの思い出”として親しまれるミルキーなフレーバーに、多くの人が懐かしさを感じて買い求めた。
同じように大衆の懐かしい思い出を喚起させたのは、ロレアル傘下の「羽西(YUESAI)」と「新華字典」のコラボだ。「新華字典」は1953年の初版以来続くロングセラーの国民的字典。このIPを使用することで、2000年に設立したブランドの若返りを図るだけでなく、中国医学と漢方スキンケアというブランドアイデンティティーと、中国文化と伝統の知恵を継承する字典の要素を結びつけイメージ作りを行った。
また、昨年9月に越境ECのTモール国際への出店で中国進出した「フェンティ ビューティ バイ リアーナ(FENTY BEAUTY BY RIHANNA、以下フェンティ ビューティ)」は今年5月、若者に人気のティースタンド「喜茶(HEYTEA)」とのコラボ製品を発売。「フェンティ ビューティ」は既にハイライトなど人気製品も一部あったが、ブランドとしての人気は同価格帯の海外ブランドに劣る。また価格帯も高く、よりブランド認知を広げる必要があった。そこでこのコラボを発表すると瞬く間に話題となり、ウェイボーのホットリストにも登場した。
アニメ、ゲーム、コミックとのコラボ
「M・A・C」と中国の人気ゲーム「ストライク オブ キングス(STRIKE OF KINGS、王者荣耀)」のコラボコレクション「M・A・C アーナー オブ キングス」は、そういった若者の心を反映している。元々ネットユーザーの間ではキャラクターのイメージに近い既製品を探すのが人気で、製品はその流れをくむ形で作られた。リップカラーはゲームの登場人物の性格や物語、イメージを反映しており、ゲームファンの評判もよく、大きく拡散された。
また、今年公開になったディズニー映画「ムーラン」関連の製品も多数発売された。主人公のムーランは中国の伝説の女性をモデルとしており、その勇ましい姿から人気が高い。中国スキンケアブランド「三草両木」はこの国民的IPとコラボすることで全ての自立した女性に敬意を表し、“現代のムーラン”の肌を守るというメッセージを発信している。
中国コスメ「カラーキー(COLORKEY)」も、「ムーラン」とのコラボ製品を販売した。アイテムにはムーランが持つ国への忠誠心、勇気、誠実さという精神的な象徴をそのままデザインしている。さらにブランドアンバサダーの蔣一僑にムーランのイメージメイクを施したビジュアルを公開。消費者向けには画像加工アプリ「フェイスユー(FaceU、激萌)」で、手軽にムーランのイメージメイクを楽しめるフィルターを配布し、話題と拡散を狙った。
これらのコラボは話題を呼んだ成功例だが、うまくいかなかったコラボ製品との違いは何か。中国ではコラボは「1 + 1 > 2」だといわれている。コラボとは単純に「2」にするために行うものではなく、シナジーを生むことで「2」以上の成果を得るものという意味だ。そのためには、はやりやIPの人気だけでなく、よりブランド価値を消費者に理解してもらうためのコラボ相手を見つけ、またそのコラボ意図を明確化することが重要だ。