「WWDジャパン」11月9日号は「無印良品」特集です。誕生から今年12月で40周年を迎える「無印良品」を多面的に取材しました。本紙詳細はこちらから。ここでは、担当記者3人による紙面作りの振り返りや取材こぼれ話の後編をお届けします。
【座談会参加者】
林芳樹:デスク、ファッション担当記者
五十君花実:ニュースデスク、ファッション担当記者
中村慶二郎:ビューティ担当記者
林芳樹(以下、林):五十君さんは7月に開店した「無印良品」の直江津店(新潟県上越市)を取材したわけだけど、発見はありましたか。
五十君花実(以下、五十君):直江津店は「無印良品」の世界最大の店というだけでなく、良品計画が掲げる地域貢献のモデル店舗なんです。上越市には自動車がなければ食品や日用品の買い物に困ってしまうエリアがたくさんある。運転できない高齢者も多いし、公共のバスの本数も少ない。だから直江津店が定期的にバスによる移動販売を行なっています。
中村慶二郎(以下、中村):今週号の表紙になっていたワインレッドのバスだね。
五十君:そうです。そのバスの移動販売に密着したのですが、良品計画の金井会長やユニクロ(ファーストリテイリング)の柳井正会長兼社長がよく言っている「小売業はプラットフォーム」という意味を改めて実感しました。
中村:どういうこと?
五十君:モノを売るってことは人の生活にコミットできるんですよ。近隣にスーパーなどがないエリアにバスが到着すると、地元のおばあさんたちがたくさん待ち構えていて、すごく楽しそうに買い物をしたり、お客さん同士やスタッフでおしゃべりしたりしている。中にはボーダー柄のカットソー、肌着、カレーなど数点で4000円、5000円買う方もいました。高齢者はけっこうお金を持っている(笑)。移動販売は買い物の場だけでなく、地域のコミュニティの場も作っているのです。最近、ECの普及で(リアルの)小売業にはネガティブなイメージがあったけど、小売業には私が想像できなかった可能性があるのかもしれないと思いました。
中村:でも移動販売って採算取れているの?
五十君:そこですよね。移動の時間もかかるし、スタッフの人件費もある。今のところは地域社会で認知を広げることを優先しているようです。でも移動販売することで直江津店や「無印良品」自体への相乗効果は小さくないと思います。オープン景気は長く続かないけど、移動販売でファンを増やせば、もっとたくさんの商品を直江津店で見たくなる。
林:直江津店は最も進んだ事例だけど、「無印良品」は個店経営を掲げて店舗ごとの取り組みを広げていこうとしているよね。金太郎飴のような画一的なチェーンストア運営ではく、地域の個人商店のように商店会や行政と協力して地域の課題解決に汗を流す。
中村:効率は良くないかもしれないけど、リアル店舗の役割って、そういった手間のかかることなのかもね。ECでは代替できない部分だから。
「ユニクロ」や「ニトリ」への対抗意識は?
林:私が取材した団地での取り組みも印象的でした。団地って高度成長期に建てられたものが多く、住民の高齢化が全国的な問題になっている。池袋から近い光が丘団地(練馬区、板橋区)の中に「無印良品」を出店していて、住民同士が交流する起点にしようとしています。店内に3畳くらいの小上がりがあって、年配の住民が持参した弁当を食べていたり、若いお母さんが子供と休憩していたり。店側はたとえ買い物をしなくても、休憩だけでもウエルカムという姿勢です。生活の場の中にある小さな店なので、スタッフと客が自然に顔見知りになる。足腰が弱い高齢者の自宅に商品を届けたりもしていて、団地の人たちにとっては全国チェーンの「無印良品」というよりも気心の知れた○○さんのお店なのかもしれない。勝手口から御用聞きをしてくれる、「サザエさん」の三河屋さんみたいな。
五十君:取材していた不思議に感じたのは、良品計画って理念先行であると同時に売上高4000億円台の大企業でもある。相反するようでいて、けっこううまくいっている印象です。
林:たくさんのステークホルダーがいる上場企業だし、厳しい販売目標も立てているからね。高い理念を実現するためにも高収益が前提だから。
中村:「ユニクロ(UNIQLO)」は衣料品、「ニトリ」は家具・インテリアに特化しているけど、「無印良品」は総合的な品ぞろえ。ベンチマークしている企業はあるのかな。
五十君:取材すると、直接は言及しなくても「ユニクロ」や「ニトリ」への対抗意識を匂わせるコメントはありました。
林:もちろんベンチマークしているでしょう。シンプルなセーターほしいと思ったとき、「無印良品」で買うか、「ユニクロ」で買うか。ベッドを買い換えたいとき、「無印良品」か「ニトリ」か。そんな比較をする消費者は多いはず。価格見直し戦略も競合対策だよね。
五十君:値下げに際しては、衣食住の生活の基本領域でお客さんがまず一番に想起する存在になると宣言しています。
中村:言い換えれば、それは衣料品でもインテリアでも一番のシェアを狙うってことだよね。イメージと違ってけっこう野心的な肉食系企業なのかもしれない(笑)。
林:部屋作りや収納などの相談にのる「MUJIサポート」だけでなく、12月3日に開業する関東最大店舗の東京有明店では、家庭の不用品の回収、観葉植物のサブスクなども始めるようだね。国内2111万ダウンロードのアプリ「MUJIパスポート」のユーザー基盤を用いれば、スマホ経由の新しいサービスも広がりそう。
五十君:いろいろ考えているみたいですよ。C(コンシューマー、消費者)とCがつながるメルカリみたいなものとか。
中村:衣食住の守備範囲が広いから色々できそうですね。
林:話していて思ったんだけど、「無印良品」がやろうとしていることは、かつての百貨店のポジションに近いかもしれないね。
中村:確かに。百貨とは言わないまでも、生活に必要な商品はほぼカバーしているし、お得意さんには御用聞きしたりする。
五十君:もともと総合スーパー(GMS)の西友のプライベートブランドですからね。
林:現に、イオンモール堺北花田店(大阪)、京都山科店、直江津店、シエスタハコダテ店(北海道)など、最近の大型店は百貨店やGMSが撤退した跡地に出ている。
中村:特集で実施した2000人へのアンケートでも、「無印良品」の来店頻度は「月1〜2回」が一番多かった。百貨店以上、スーパー未満ということかもしれませんね。積極的な出店やアプリの活用、アマゾンや楽天への出店、ローソンでの販売開始などを通じて、これからもタッチポイントは増えて、もっと身近な存在になるのでしょう。