「イッセイ ミヤケ メン(ISSEY MIYAKE MEN)」を6年にわたって率いた高橋悠介が今年2月に独立し、2021年春夏シーズンから新ブランド「CFCL」を立ち上げた。デビューシーズンは糸から制作したニットを使い、3Dコンピューター・ニッティングと島精機製作所のホールガーメント技術を用いた無縫製のニットウエアなどを中心に22型をそろえる。ミニマルなデザインと遊び心のあるフォーム、シワになりにくく洗濯機で洗えて速乾性にも優れているという機能面、コート7万9000円やドレス3万9000~5万9000円、シャツ3万2000円という手の届きやすい価格帯が好評で、卸先は40店舗が決まるという上々のスタートを切った。伊勢丹やユナイテッドアローズなど国内主要店をはじめ、中国・上海のギャラリー・ラファイエット(GALERIES LAFAYETTE)やSKP、エッセンス(SSENSE)など海外アカウントも半数近くを占める。そして、サステナブルの意識が強いのも同ブランドの特徴の一つだろう。一点一点の物作りからビジネスのやり方まで、移りゆく時代や人々の生活に寄り添う最適なかたちを目指す。
全プロダクトの70%が再生素材
WWDジャパン(以下、 WWD):「CFCL」というネーミングの由来は?
高橋悠介「CFCL」デザイナー(以下、高橋):ネーミングは“クロージング・フォー・コンテンポラリー・ライフ”の頭文字からとった。ブランド名を自分の名前にして服にパーソナルな感情を込めるというより、時代が求める服を作り、世の中をよく変えていきたいという思いで名付けている。前職で服を作ることは社会を作ることだというのを学んだ。技術と革新性で社会をよくしていこうという思いが会社の根底にあり、今の自分にも生かされている。
WWD:イッセイ ミヤケ時代はメンズを手掛けていたが、なぜウィメンズなのか?
高橋:僕のルーツの一つであるコンピューター・ニッティングでワンピースを作りたいと思ったことがきっかけ。でもたまたまスカートやワンピースがあるだけでウィメンズ6割、ユニセックス4割という構成だ。それと物作りにおいてウィメンズやメンズという分け方はあまり関係ないと思っている。
WWD:ブランド設立の経緯は?
高橋:学生時代からいつかは自分のブランドを立ち上げたいと考えていて、人との出会いや時代の流れなどがいろいろと一致したタイミングだったので設立する決意をした。
WWD:時代の流れとは?
高橋:機能的な服や環境に配慮したものが求められているなと感じている。例えば公園で子供と遊んだ後に仕事をし、夜はそのままヒールを履いてレストランに行くまでが一着で完結できて、自宅で洗うこともできる。ジュエリーや小物で自由に味付けができて、生活に寄り添うような服が作りたかった。それと、ラグジュアリーの価値観も変化している。わかりやすい高級感だけではなく、生産背景や環境、サプライチェーンの透明性が証明されているオーガニックなものもラグジュアリーだとする価値観がファッションでも生まれ始めている。今後はその考えがより広がっていくはずだ。
WWD:サステナビリティにこだわるということ?
高橋:その部分を押し出していきたいわけではなく、社会全体がそういう意識になるきっかけの一つになればいいと考えている。ファッションでもその価値観を与えることができるはずだから。そのためにスタートのタイミングからCSO(Chief Sustainability & Strategy Officer)という役職を設けて岡田康介さんに参加してもらっている。環境に配慮したビジネスやクリエイションは責任をもって徹底していきたい。現在は全プロダクトの70%を再生素材が占めており、服のラベルにその使用率を記載している。今は20〜100%だが、近い将来全て100%にしたい。そのためには量が必要になるので、もし生産しているメーカーがあれば話を聞いてみたい。ただ、最終的には服に魅力がないといけないので、モードの文脈を取り入れたクリエイションにもこだわっていきたい。
精鋭を集めたクリエイション
WWD:日本のデザイナーズで立ち上げからサステナブルを徹底しているブランドは珍しいのでは?
高橋:特別なことをしているわけではなく、将来当たり前になることを前もってやっているだけ。サステナブルをセールスポイントにしているブランドも最近は増えているが、それだけでは続かないと思う。僕たちは物でサステナブルを訴求するというより、ただ物作りに対してしっかり責任を持ちたい。
WWD:再生素材以外に取り組んでいることは?
高橋:日本ではまだ5社しか認証を取得していないBコーポレーション(B Corporation、B corp)にも申請している。B corpは環境や社会への配慮、透明性などの基準を満たしている企業に与えられる民間認証だが、取得することでブランド価値を高めたいのではない。従業員の雇用や福利厚生、物作りで排出する産業廃棄物やCO2の量などに対し、最初の段階から向き合うためだ。それに、透明性が証明されている服を着たいという人が今後は増えていくはずだから。
WWD:会社は何人で運営している?
高橋:会社として運営しているが、社員は雇っていない。CSOのほかにも、Seiya Nakamura 2.24の中村聖哉さんがCMO(Chief Marketing Officer)としてマーケティング全般を担っている。またCLO(Chief Legal Officer)として小松隼也さん、AD兼スタイリストとして大田由香梨さんも参加してもらうなど、専門的なスペシャリストを集めてチームを組んでいる。
WWD:なぜその運営体制に?
高橋:今の時代は能力さえあれば会社に属さなくても仕事はできる。会社としてのビジネスや、クリエイションも身の丈に合ったオーガニックなやり方によりシフトしていくはずだ。デザインは全て僕1人が3Dコンピューター・ニッティングで行い、なるべく人の手を介さない作り方をしているので価格帯も抑えられている。原価率を無理して抑えているわけではないので、ビジネスとしても持続可能だ。工場あっての会社だしブランドなので、無理なことは絶対にしない。
WWD:今後の展望や狙いは?
高橋:次に向けてニット以外の素材も作っているし型数も徐々に増やしていきたいが、ブランド名の“コンテンポラリー・ライフ”に沿いながら時代が求める服を作り続けることは変わらない。定番の型数を増やしていき、シーズンが古いから着られない、発売してからすぐ安売りされるといったファッション業界の固定観念を変えていきたい。