MOVIE
「グッチ(GUCCI)」は2016年春夏ミラノ・メンズ・コレクションショーの模様を生中継する。発表日時は6月22日19時30分(日本時間)から。
REPORT
折衷主義をはるかに超えるミケーレの逸脱、そして再構築
すでにアレッサンドロ・ミケーレ色は存分に溢れていたが、1月発表の2015-16年秋冬メンズは、一応彼を頂点とするデザインチーム体制だった。クリエイティブ・ディレクターの座に就いてから約5カ月が経過した6月22日、ミケーレは、自身初となる「グッチ」のメンズ・コレクションを、今回は十分な時間を与えられ、満を持して発表した。
ショーは、全てがこれまでと異なっていた。まず会場は、市内中心部の劇場を離れ、郊外の倉庫のような場所へ移転。そこに設けたのは、全長200mという長い長いランウエイだ。天井には、スポットライトの他、色とりどりのネオン管。天井や壁だけを見ると工業的な雰囲気に溢れ、クラシックな花柄のファブリックを座面に敷いた椅子と不釣り合いなまでのコントラストを描く。
そこで発表したコレクションは、会場の雰囲気同様、これまで真逆と思われていたエレメントのミックス。それは折衷主義(異なる思想から長所を取りだし、調和させようとする試みのこと)をはるかに超えた、逸脱&再構築とさえ呼ぶべきものだった。男性性と女性性、クラシックとストリート、ヨーロピアンとオリエンタル、古典的ドレスアップと現代的スポーティー、王道とハズし……。一つ一つのスタイルは、これらの一組、もしくはそれ以上が混然一体と溶け合い、ある種の神々しささえ備え、今まで見たこともないスタイルに生まれ変わる。ミケーレにとって、世の万物は全て等価値で、彼はただ、その中から純粋に「良い」と思えるものを、既存のルールなんて意識しないでミックスしたようなコレクション。それは3月のウィメンズよりも、先月のプレ・スプリングよりも強く、新時代の到来を声高らかに告げるものだった。
たとえば、セカンド・ルックは、東洋の絹織物を思わせる花柄のバンドカラーシャツと、欧米の70年代を思わせるフレアパンツのスタイリング。一つのルックの中で、ヨーロピアンとオリエンタルが一体となり、新たなスタイルに生まれ変わった。その後に続くのは、サイドにラインが走る化繊混紡のジャージーで作ったセットアップ。まるで体育教師が着るような真っ赤なジャージーの上下だが、ここに金糸と銀糸で圧倒的な花と幾何学模様の装飾を施し、クラシックな貴族主義と現代のスポーティーをミックスする。こうした、あらゆる価値観を縦横無尽に駆け巡る精神は、アクセサリーにおいても顕著だ。ムース素材を使用したハイテクスニーカーには、まずはラメを全面に施すことで我々は女性性と認識するムードを帯び、さらには踵(かかと)の部分に鋭利なスパイクをプラスすることでパンクやロックのマインドさえ漂わせる。レザーのライダースブルゾンにシフォンのボウタイ、レースのシャツにジャージーのパンツ、レトロなリネンのブルゾンにポップアート、花柄ソールのサンダルにはスタッズ、一見シンプルなトレンチコートには背面にモンスターのようなキャラクター。ミケーレは“食い合わせ”の悪そうな要素でさえ、クラフツマンシップと柔らかなニュアンスを加えることでエレガントに昇華し、それは見たことのない、想像さえできなかったスタイルに繋がった。ミケーレに託されたミッションの一つ、「モードの最前線にカムバックする」は、早くもその目的を達成したような印象だ。
もう一つの課題、「アイコンを積極的に利用する」も合格点を獲得したと言えるだろう。ファーストルックのコーティングしたGGファブリックのトレンチコートを筆頭に、「GUCCI」のロゴをエンボスしたスクエアバッグ、花やハチを刺しゅうしたGGのショルダーバッグ、踵を履きつぶしミュール風に足を突っ込むホースビットローファーなど、メゾンのアイコンは盛りだくさんだ。指にはコスチュームジュエリーをジャラジャラと重ねづけし、頭にはベレー帽とメガネ、首にはストールやマクラメ編みのネックピースなど、アクセサリーも盛りだくさん。メガブランドとして開発しなければならない商材にも意欲的な様子がうかがえた。