オンライン上の口コミが購買に大きな影響を与えることは周知の事実だが、近年はその影響力がより増している。特に今年は新型コロナにより、テスター使用ができない、カウンターで相談できないといった事情もあり、購入にあたって口コミを含むオンラインの情報が重視される傾向にあった。
その中で一般消費者からの投稿、いわゆるUGC(User Generated Content)は欠かせない存在となっている。企業広告やインフルエンサーマーケティングが発展する中で、よりリアルで消費者に近い存在が発する声は、認知形成から購入の“最後の一押し”までを担っている。しかしUGCは自然発生的なもの。企業はどのようにUGCを活用しているのか。
「オルビス(ORBIS)」はクレンジングクリーム“オフクリーム”のオンライン販売でランディングページ(LP)を制作しており、その中でUGCを活用している。通常、LPでは企業が発信したい効果や性能、開発ストーリーなどが語られ、スクロールしていくと販売リンクにたどり着く。“オフクリーム”の場合は、LPではそういった企業のメッセージの間に、インスタグラムで一般ユーザーが投稿した画像や動画を差し込んでいる。投稿はSNSを活用したマーケティング支援を行うアライドアーキテクツのUGC活用ツール、レトロ(Letro)を使用して埋め込んでおり、投稿全文を開いて見ることや、横スクロールで多くの投稿を見ることができる。
オンライン販売戦略を担当するオルビスの松枝奏輔マーケティング戦略部部長は「時代的に広告や一方的な発信を嫌う消費者が多い。そこに課題があり、客観的な第三者の声をお伝えしていきたいとUGCを活用した。能動的にリアリティーのあるコンテンツを見せられるのが魅力的」と語る。使用するUGCは消費者が自発的に投稿したものや、発表会に招いたインフルエンサーの投稿で、自由な感想が綴られている。
レトロではUGC毎に効果測定が可能で、「オルビス」が表示した投稿の中で一番反応がよかったのは動画だったという。その理由について新規顧客販売戦略を担当する山口直マーケティング戦略部 新規戦略グループマネジャーは、「動画はテクスチャーや肌への浸透具合が可視化でき、反応がいい」と説明する。そのほか、「今までのクレンジングで1番好き」いったシンプルな感想も、リアル感があって反響があったという。形のない化粧品の使用感を伝えるのに動画は効果的だ。
消費者が欲しい情報と企業が発信したい内容
率直な声こそ消費者が求めたものであり、「オルビス」が提供したかったものだ。一方で、この活用にはクオリティーが高く、商品の良さが伝わる投稿が集まっていることが前提にあった。このような良質な投稿が集まったのはなぜか。
同社はインフルエンサーには商品の良さを知ってもらうため、ギフティングだけでなく商品説明会に招待している。山口マネジャーによると、「バズったものの多くは説明会に参加した方の投稿」だという。発表会では商品の効果などの説明だけでなく、「ここちを美しく」というブランドメッセージとともに、「日々働いている女性の方にメイクオフの時間を楽しんでもらいたい」という開発ストーリーを伝えた。「投稿を確約してもらっていたわけではないが、メッセージの部分に共感して投稿してもらえた。消費者にもコンセプトがきっちりと届いているのが、UGC発生の大きい要素になっていると思う」と続ける。
また、企業が発信しにくいことを発信してくれるのもユーザー発信ならではの魅力だ。「“オフクリーム”はボトルデザインに非常にこだわったアイテムだが、企業が広告宣伝で訴求すべきポイントではない。しかしその思いは消費者に伝わり、『見た目もかわいい』と口コミでも好評だった」という。注目してほしいことを必ずしも企業が発信する必要はないのだ。
さらに公式オンラインショップでは、商品ページに使用したユーザーが評価を記入できるコメント欄「みんなのクチコミ」が設けられ、星評価とコメントが表示される。「サイトの口コミ欄は2014年に導入した。中にはマイナス評価もあるが、そういったところをオープンにしている方が消費者の方にとっては信頼できる、価値が高い情報なのではないか。消費者のリテラシーも上がっているので、評価の平均点ではなく、口コミ内容をしっかり見て判断すると考えている」。
SNSで「エゴサ」 検索数20倍のバズの正体は?
特に話題となったのが顔の自撮りからAIが解析する「パーソナルAIメイクアドバイザー」と「AIアイブローシュミレーター」だ。これらの機能はローンチ後すぐツイッターなどで大きく取り上げられ、利用者数が急増。見込み以上の結果だったというが、「バズったから良し」ではない。「購入時の一回きりでなく、一連の流れとして『美容における成功体験を得たい』というニーズに応えられるかが重要だ」と松枝部長は語る。
この機能だけでなく商品も、SNSの拡散、いわゆるバズが大きな購買要因となっている。「例えば10万の“いいね”がついた時には検索数が20倍になった。ツイッターやユーチューブの大きな影響力を感じている」と松枝部長。そのため常日頃、自社の関連ワードで検索する“エゴサーチ”をしていると語る。「当社は自社ECに加えてロハコやアマゾンでも販売しているが、コンテンツを見てそのまま購入する方が多いようで、EC全体の売り上げが伸びることもある」。
時には予期せぬバズが湧いてくることもある。「あるとき、急にメンズラインのネイルが爆発的に売れた。いろいろと調査したが、某有名人がメンズネイルの話をインスタグラムにアップしていたタイミングで、考えられる原因がそれしかなかった。『オルビス』製品を紹介していたわけではなかったが、メンズネイルとして販売している製品は市場にまだ多くないので、検索などで引っかかって購買につながったのではないか」と語る。直接的な影響がどれほどあったかたどりにくい事象ではあるが、一種の口コミが購買を促した一例だ。
前述の”オフクリーム”もツイッターなどで話題となった商品だ。ターゲットは20代後半の大人世代だが、多くのUGCが生まれたことで、SNS世代である20代前半の消費者など消費者層は拡大した。山口マネジャーは「LPに限らず、ブランドの新規顧客の開拓としてもUGCは今後必要な要素になってくる」と話す。今後は芸能人やインフルエンサーだけでなく、ますます消費者の発信がブランドの鍵を握るようになるだろう。