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ピルを届けるオンライン診療 累計37万ダウンロードの「スマルナ」が企業向けサービスを開始したわけ

 社員の健康を経営的な課題として取り組む、健康経営を推進する企業が増えている。これまで生理などの女性特有の健康課題は、公の場で語ることをダブー視されてきた歴史や女性が職場に少なかったことなどから、支援の手が差し伸べられてこなかった分野だ。米国では2014年にフェイスブックが卵子凍結のサポートを福利厚生に取り入れ、グーグルやアップルなども後に続いた。誰もが働きやすい環境を作る上で、これらの課題にきちんと向き合い、ソリューションの選択肢を提供する姿勢が今企業に求められている。

 テクノロジー技術を用いて女性の健康課題を解決するフェムテック市場が盛り上がりを見せるなか、個人だけでなく企業に向けたサービスを提供する事例も出てきた。ピルのオンライン処方アプリ「スマルナ」を運営するネクストイノベーションもその一つだ。同社の子会社ネクイノメディカルテクノロジーズは9月、企業に向けた“スマルナ for Biz”をスタートさせ、女性社員のピル服用支援や産婦人科専門医によるウェルネスセミナーの社内実施などのサービスを提供する。低容量ピルは高い避妊効果をはじめ、生理痛やPMSの緩和などのホルモンバランスの乱れによる不調にも効果が期待できる。

 ピルの支援額は各企業が自由に設定することができ、まずは補助なしで社員の利用状況を検証する企業や、ピル代を全額補助する企業など導入の仕方はさまざま。利用者はピル処方のためのオンライン診察に加えて、助産師や薬剤師にチャット形式で生理や避妊の悩みを相談することができる健康相談サービスも利用が可能だ。現在導入企業は、日清食品ホールディングスやオールアバウトなど6社で、来年の9月には100社まで伸ばすことを目標に掲げる。

「誰も声を上げない=ニーズがない」わけではない

 「スマルナ」は18年に個人向けサービスとして開始し、20年10月時点で累計37万ダウンロードを達成した。同社の菅沼名津季サービス担当は“スマルナ for Biz”を開始した背景について、「健康経営を推進する企業は、利用できるスポーツジムの拡充など社員から要望があるものに対して取り組んでいるようだが、生理に関しては要望がないので問題ではないと認識されていることが多い。これは私たちが個人向けのサービスを開始した当初、男性の投資家から『周りでピルを飲んでいる人がいない』『ニーズがないのでは』と言う意見をもらっていた状況と同じだ。実際に『スマルナ」の登録者は毎月伸びていることからも、企業と一緒に問題のあぶり出しからサポートするサービスが必要だと考えた」と話す。

 先行導入企業のオールアバウトと希望社員を対象に実施した実証実験では、“スマルナ for Biz”導入後、女性社員が生理を原因に仕事を休んだ日数は1人1カ月あたり1.1日減少、パフォーマンスは5.5ポイント改善、一人当たりの経済的損失額は2.9万円削減したと言う結果が出た。「導入企業からは、月経困難症やPMSの症状に苦しんでいた社員がピルの服用により明らかに改善し、マネジメント層からも効果を実感していると言う声をもらっている」と菅沼担当。

困っている人に必要なサポートを確実に届ける

 同社はマネジメント研修の一環としてセミナーを実施するなどし、ピルの正しい認識を広めると同時に男性社員にも自分ごと化してもらうきっかけ作りに取り組む。菅沼担当は「ピルを飲んで働けと言う意味ではなく、あくまで困っている人たちに手を差し伸べる選択肢の一つとして提案している。導入企業のみなさまにも伝え方には気を使っていただいているようだ。ピルに対するネガティブなイメージを急に変えていくことは難しい。必要としている人たちに必要な情報を確実に届けていきたい」と話す。

 同社は今後、10代向けの性教育の分野や妊活支援、更年期障害や生活習慣病のケアに寄り添えるサービスなどを視野に入れ、ひとりの女性が年を重ねる中で起こる体調の変化に伴走するプラットフォームを整備していくという。

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