サステナビリティ

無限ループも可能に!?フィンランド発スタートアップが仕掛ける“サステナブル繊維革命”

 フィンランドの名門研究所VTT(フィンランド技術研究センター)からスピンアウトしたスピノバ(SPINNOVA)は、木材パルプや農業廃棄物の小麦や大麦、わらといった天然素材の繊維質からセルロース繊維を精製する技術を開発したスタートアップ企業だ。レーヨンなどのビスコース繊維の生産時に長らく課題となっていた有害物質も一切使わず、廃棄物も出さず、しかもそうして生産した繊維はリサイクル可能で、服から服へ循環する無限ループも可能になるという。この画期的技術は世界中から注目を集めており、欧州セルロース繊維大手のレンチング・グループ(LENZING GROUP)は2015年の創業当初から出資。また、世界最大のパルプ生産者の一つであるブラジルのスザノ・パペル・エル・ローサ(SUZANO PAPEL EL CELULOSA)からも資金を調達しており、現在の調達額は2500万ユーロ(約31億5000万円)。スザノ・パペル・エル・ローサとは合弁で商業生産に向けた工場設立を計画中だ。「世界一サステナブルな繊維を開発した」とうたうユハ・サルメラ(Juha Salmela)=スピノバ共同創業者兼チーフ・テクニカル・オフィサー(CTO)にオンラインインタビューを行った。

WWD:スピノバは“世界一サステナブルな繊維の生産技術を開発した”と打ち出しているが、具体的にどのような繊維なのか。

ユハ・サルメラ共同創業者兼CTO(以下、サルメラ):全てがナチュラルなセルロース繊維で、現在は原料を木材にしているが、将来的には農業廃棄物の小麦や大麦、わらやタンパク質を含む他の廃棄物の利用も可能になる。わらに関してはフィンランドのエネルギー会社と協業して、すでに小麦のわらを原料にしたドレスのプロトタイプも作った。

WWD:木材からセルロースをつくる際に、劇薬を使わずクリーンに製造できるとか。

サルメラ:私たちは天然素材を分解するために、溶解性のある有害な化学物質は一切使用しない(溶剤は製紙ではよく使われる無害な流動性の添加物)。また、機械的に行うので、洗浄もなく、廃棄も出ない。それこそが他のビスコースやテンセル、モダールやリヨセルモダールなどの既存のビスコース繊維生産と異なる点だ。私たちは木材パルプやその他のセルロース繊維からマイクロフィブリル化(ミクロ化)したセルロースを精製し、その後、水とファイバーの懸濁液の流動性質を修正し、天然ファイバーを特別にデザインしたノズルを通して押し出している。クモが糸を出すのに少し似ている。このセルロースファイバーを非常に細いノズルに通すことができ、この技術もわれわれが開発した専門性の高い技術の一つだ。そして最後に、懸濁液から水分を蒸発させれば、ファイバーが完成する。

WWD:その際に使われる水の使用料も少ないとか。

サルメラ:ええ。バリューチェーン全体でみると綿花栽培と加工に比べて99%削減できる。

WWD:原料がわらでも木材由来と同じものができる?

サルメラ:手触りは非常に似たものになる。フィラメント(単繊維)のサイズ次第だ。重要なのは、木の種類やわらといった農業廃棄物の種類ではなく、生産するフィラメントの細かさで、なぜならそれが手触りに最大の違いをもたらすからだ。そして、とても重要な点は繊維をリサイクルできるという点で、私たちの作った繊維を精製工程に戻してリサイクルすることは非常に簡単で、品質も悪くならない。

WWD:コットンやセルロース繊維は服から服のリサイクルを行う際に、繊維が短くなり強度が落ちると聞いたことがあるが、スピノバの技術では強度は落ちないということ?

サルメラ:まさにその通りだ。それが鍵になっている。われわれはファイバーを化学的に分解しないので、繊維の長さは損なわれない。マイクロフィブリル化されたセルロースを機械的に精製し、再度つなぎ合わせている。そのため、品質は退化するのではなく、改善される。

WWD:それは分子レベルまでは戻さないということ?

サルメラ:そうだ。分子レベルのリサイクルではない。基本的には、生地を再び機械的に精製し、先ほど説明したのと同じサイクルをたどることになる。機械的精製後、押し出し、乾燥、そして新しいファイバーができる。

WWD:つまり繊維から繊維の無限ループが作れるということ?

サルメラ:そう願っている。これは理論的には実現可能で、科学者としてはこの仮説が有効かどうかを実験して確かめたいと思っている。今のところ、少なくとも数回のアップサイクル(品質を改善したリサイクル)が可能であることが分かっている。

WWD:他社の繊維と比較して、堅牢度、毛玉、コストなどはどうか?

サルメラ:われわれのファイバーは、ビスコースに似ている。乾燥した状態では綿の特質に近く、綿はぬれると強くなるが、われわれのファイバーの強度はぬれた状態ではビスコースに近い。でも、綿の強度にするのが目標だ。私たちの繊維の手触りは、他のどのセルロース繊維とも異なる。もっとナチュラルな手触りで、人工セルロースとは違って、麻や綿に近い。まだ、かなり粗いので肌に直接触れられるレベルではないため下着のようなものではなく、デニムやシャツ向けだが、現在改良に取り組んでいる。

WWD:価格については?

サルメラ:正確な価格は今はいえないが、商品になったときに、綿に対して競争力がなければ難しいと思っている。最初はもっと高額になってしまうだろうが。

WWD:現在の生産量と今後の見通しは?

サルメラ:今は年間3t程度だが、現在、商用向けの工場を設計している真っ只中で、2年後に完成する予定だ。そうすれば、商業規模になる。フル稼働で5万t程度の生産が可能になる。

ブレイクスルーは他分野の研究の融合

WWD:開発にあたり、ブレークスルーのポイントになったことは?

サルメラ:われわれのイノベーションは、紙パルプの研究とクモの巣紡績の研究の融合によって起きた。オックスフォード大学で開催されたカンファレンスで、クモの巣とタンパク質とナノセルロースの類似性を説明したクモ研究の第一人者のプレゼンテーションを聞いたとき、「この自然のプロセスと同じように木材繊維を紡績してテキスタイルにできないか」というアイデアがひらめいた。EUのプロジェクトの一環としてVTTで技術革新を推進し、このアイデアの特許を申請した。この技術がVTTのバイオマテリアル研究の責任者であるヤンネ・ポラネン(Janne Poranen)の目に留まり、事業がスピンアプトされることになった。VTTでは資金調達が難しかったので。適した人材を確保して、最高のチームを作った。最適な人材を得て、仕事に取り組むことが全てだからね。

WWD:チームは何人?

サルメラ:現在は40人。そして、もう一つ大事なことは、私たちの価値を分かり合える適切なパートナーを見つけ、工業規模までもっていくことだ。私たちには、工業生産規模にするための良いパートナーや良いオーナーたちがいる。良いチーム、良いオーナー、商用生産のための良いパートナーというコンビネーションが、これを可能にする。私たちには「マリメッコ(MARIMEKKO)」などブランドパートナーもいる。

WWD:「マリメッコ」とのコラボアイテムは今後販売される?

サルメラ:買えればよかったのだが、今はプロトタイプだ。生産できる繊維が少ないため、今はオーガニックコットンやリヨセルと混合している。

WWD:あなた自身、繊維が専門ではないのに、なぜ繊維に取り組もうと思ったのか?

サルメラ:イノベーションのためだ。クモが糸を紡ぐように、私もファイバーを紡げるのではないかと気付き、これが非常に大きな発見だった。なぜならテキスタイル業界をよりサステナブルにすることは明らかだったから。だから、必ずやり遂げようと決心した。

WWD:最後にあなたにとってサステナブルな素材とは?

サルメラ:本当にグリーンウォッシングが多いので、このトピックや言葉に関して嫌悪することがあるが、もしポリエステルで作っていてもその商品が25年持つというのであれば、ポリエステルでさえサステナブルになる。その商品のライフサイクル全体がサステナブルでなければならないと思う。

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