新型コロナウイルスによるロックダウンにより多くの人が自身を見つめ直し、価値観をも再考することになった。ケニアの難民キャンプで生まれアメリカで育った、ソマリアにルーツを持つモデルのハリマ・アデン(Halima Aden)もその一人だ。彼女は11月末、自身のインスタグラムでヒジャブとともに活動してきたこれまでのモデル人生を振り返り、ファッション業界でのキャリアがヒジャブを着用する女性としての彼女のアイデンティティーを反映していなかったと結論づけた。フランクな絵文字やコメントを交えた複数のストーリー投稿で自身の体験をまとめながら、ファッション業界の人種や宗教に対する価値観について当事者として声をあげたのだ。その背景には、彼女と共により多くの時間を過ごしてきた母親からの影響も大きかったという。
アデンは2016年11月に開催された「ミスUSA」のミネソタ代表を決めるコンテストにヒジャブを着用して出場したことが話題になった。入賞を逃したものの多くのメディアに取り上げられるきっかけとなり、ヒジャブを着用したモデルとして初めて有名ファッション誌の表紙にも起用されるなど、ファッション業界に新風をもたらした人物だ。
インスタグラムの最初の投稿には、17年に彼女を「フェンティ ビューティ バイ リアーナ(FENTY BEAUTY BY RIHANNA)のキャンペーンに起用したリアーナ(Rihanna)に感謝の意を表明しながら「これが本当のハリマ。これが私の立ち返るところ」とコメントした。続けて「マイノリティーの中のマイノリティーでいることは簡単ではない。私の“ヒジャブの旅”は山あり谷ありだった。新型コロナ禍と業界から距離を置いたことにより、私が旅のどこで道を踏み外したのか気づくことができた」と書き出している。
“ヒジャブの旅”の中で彼女は後悔している仕事をいくつも上げており、その中にはジーンズを頭から被せただけのものもある。“あなたのスタイルを探そう(FIND YOUR STYLE)”と書かれた広告の写真を引用して、「なぜスカートやワンピースしか着ないのに、ジーンズを頭に載せることに同意してしまったのだろう」とコメントした。
ほかにもニット帽を被り、その下からはみ出すようにスカーフを巻いているものや、イエローを使用したアイメイクを施して目元だけを写したものも、自身のアイデンティティーに添うものではなかったと振り返っている。アデンは自分の価値観に反することをしたことを後悔しながら、同時にムスリムのスタイリストの少なさにも言及している。
「この業界が、私でさえ葛藤している“つつましさ”で私を称賛する限り、私の心は救われない。その間にも私の同志は利用されて傷ついている。私は今自分のために立ち上がっているけれど、ファッションの中で自分の魂を見失ってしまったすべての人々のためにも、このようなスタンスをとっている。私たちはファッションによる評価を必要とすることはない」と語った。
また黄色いスカーフをターバンのように身に付けた写真を引用して、「みんなから“ホットなヒジャブ着用者”だと思われたがっていたのを覚えている。それ自体がもう目的を見失っているのに。正直言うと、それはめちゃくちゃなだけだった」とコメントした。
一方で女友達からの応援やサポートは、彼女の振り返りの中でたびたび見られる。「ヒジャブについて自分を振り返ってみると、友人たちに囲まれている時が一番心強かった。これこそ私が今、自分自身について探っているテーマだ」と言う。エティハド・トレーニング・アカデミー(Etihad Training Academy)で制服とヒジャブを着た女性と手を繋いでいる写真のコメントには、「これは、私が正しいことをした時。それは、素晴らしいことに取り組み、ステレオタイプを打ち破る他のヒジャブ着用者と交流を重ねていくこと」と語る。
「私はファッション業界の間違った部分にいたが、この業界がランウエイショーや雑誌だけの世界でないと知ることができてよかった。現在は恩返しをしながら、本当の変化をもたらしているブランドがたくさんある。本当の意味でシステムを変えるためには、このような対話をもっと増やしていかなければいけない。それ以上も以下もない」とし、アデンはファッション業界に急いで復帰するつもりはないと述べた。そして、「私はこれからも自分らしいユニークな方法でキュートでいるわ!」と締めくくった。