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先駆者“ヨネちゃん”が語る間違いだらけの中国戦略(前編)

 “近くて遠い”とは、まさにこの国のことを指す言葉だと思う。中国のことである。GDP14兆1700億ドル(約1459兆5100億円)の世界第2位の経済大国でありながら、時にテレビやユーチューブからもたらされる農村部の暮らしには愕然たる格差を感じる。同じ東アジアであるが当然、日本とは文化や思想は異なる。人口は日本の12倍近い約14億人で世界1位、多様性もつまり12倍近い。それゆえ“よく分からない”。そこで2009年から中国で活躍する編集者・フォトグラファーの米原康正に、中国のリアルについて聞いた。カルチャーのみならず政治・経済にまでフォーカスしたので、海外渡航に制限がかかる中で隣国を理解するための足掛かりにしてほしい。

WWD:リアルな中国とは?

米原康正(以下、米原):日本人の中には、中国をいまだに発展途上国と勘違いしている人も多い。自転車が町を占拠し、そこに暮らす人は人民服を着て……というイメージを持つ人がいるが、それは外国人が日本に抱く“フジヤマ・ゲイシャ”くらいに古い幻想だ。2019年の中国のGDPは日本(約537兆6600億円)の約2.7倍。日本人が受け取る情報には“創造”されたステレオタイプなものもあり、現実とは異なることが多い。例えば08年の北京オリンピックの際には、渋谷区ほどの土地を一気に都市化する動きを見せた。昨日まで畑だった場所に一夜でクラブができた、なんて話もあった。町ができれば、人が流れ込んでくる。新しい町には先進的な学校もできるから、そういった学校に子どもを入学させたい富裕層が貧民層から土地を買い上げ、結果として貧民層が成金に。そういった人たちが日本に爆買いツアーに来ていた図式だ。

WWD:中国国民の生活も大きく変わった?

米原:僕が中国で活動し始めた09年頃はまだ現金文化だったが、この10年でデジタル化が一気に進行した。このあたりは、さすがは一党独裁といった感じ。“クレジットカードも使えない”から、財布さえ持たない“スマホ決済”に飛躍した。数カ月ぶりに中国に行って売店で水を買おうとしたら、「現金は使えない」と言われて驚いたことを覚えている。

中国を理解しなければ中国では勝てない

WWD:コロナ禍でさまざまに自粛しなければならない今だからこそ、中国戦略を練り直したいと考える人も多いと思う。

米原:業態によって方法は変わってくるが、一つ言えるのは“日本で流行っているから中国でもウケる”という当たり前はないということ。日本に置き換えてみても、アメリカでウケているブランドが必ずしも日本で売れるわけではないのと同じだ。例えば、日本の某アパレル企業の20〜30代向けウィメンズブランドは中国でヒットしたが、同じ世代を狙ったルームウエアブランドは大コケした。これは中国人にとってOL向けブランドは新鮮だったが、ルームウエアは寝間着にしか映らなかったということ。この時に中国系の代理店なりが入って、売れるか否かの判断をしていれば結果は違ったのかもしれない。これって少々言葉はキツいが、民族の優位性みたいなところに根ざしている話で、“皆、日本製が好きでしょ?”というおごった考え方が元凶なのだと思う。

WWD:日本の方法論をそのまま持って行っても失敗すると?

米原:その通りだ。こんな例もある。10年にヤマト運輸が上海で宅急便事業を始めたとき、緑の帽子が原因でストが起こった。中国で緑の帽子は“妻を寝取られた男”を意味するためで、こんなユニホームは着られないとニュースにもなった。結局、帽子の色はベージュに変更されたが、最初から知っていれば、つまり“中国頭”があれば、時間もコストも無駄にならなかった。色に関して言えば、日本ではアースカラーがトレンドになっているが、中国人はブラウンを着ない。国土が乾燥していて大気が汚れているため、くすんだ色は人気がない。これを知っているか否かで大きな差がつく。

WWD:中国にはコピー商品問題もある。

米原:僕も商品をプロデュースしたりしていて最初はコピー商品に悩まされたが、中国人の友人から「それは中国人がヨネちゃん色に染まってきた証拠。本物が欲しくても買えない人が買うだけで、本物が欲しい人は案外、偽物がどれだけ出回っているかを人気のバロメーターとして見てから買う」と教えられて、目からうろこが落ちた。

中国人を尊重して共に歩む気持ちも大事

WWD:中国人とビジネスする上で気を付けるべきことは?

米原:中国人は面倒を嫌うので直接話をしたがる。彼らからすると、「なんでわざわざ代理店を通すの?」と疑問に思うそうだ。僕もよく「芸能人の○○さんを紹介して」と頼まれるのだが、日本であれば所属事務所を通してオファーをするのが普通だが、中国人は本人に直接「やるか否か」を聞けば済むと考える。本人が「YES」と答えれば交渉成立。中国人が日本人と仕事をしていて一番驚くことは、打ち合せ後に相手が「いったん持ち帰って上司と相談する」と言うこと。中国人からしたら「だったら、あなたの役目は?」「なぜ決定権のない人と話をしなくてはならないのか?」なわけで、「じゃあ、その上司と直接話をさせてくれ」となる。このスピード感ってとても大事で、日本人も肝に銘じないと世界の中でどんどん立ち遅れていくと思う。日本企業がダメになった原因って“現場感のなさ”にあると考えていて、こんな企画をしたい!と思い立っても企画書を書いて何人もにはんこをもらっている間に内容がどんどん変わってしまって……があるある。現場には決定権のない人が出てきて、一方で現場感のない人が決定のための会議をしている。こんなのって日本だけだと思う。

WWD:スピードオーバーで事故をする可能性はない?

米原:ある(笑)。だから中国人のスタイルが全部正しいと言っているわけではなくて、実際前のめり過ぎて、いざフタを開けてみたら何もできてないなんてこともあった。ここで注意すべきは中国人は面子を重んじるので、簡単に「できない」と言わないということ。「できる」「大丈夫」と返事はしても、うまく進んでいるか定期的に確認する必要がある。さらに“できなかった”ときのために、第2案を考えておくことも大事だ。

WWD:“できなかった”もありえる?

米原:当初は驚いて怒ることもあったが、今ではそれを想定して動いている。これで心が折れてしまうようでは中国では仕事ができない。面白いのは、日本だと「親族に不幸があって」と言い訳をする人が多いが、中国では「アシスタントの親がちょっと……」となる。これは言霊を信じていて、自分の親族を不幸にしたくないからとのこと(笑)。話を戻すと、できなかったのなら「一緒にやろう」と声を掛ければよくて、心根は真っ直ぐな人が多いからそれで動いてくれる。そういったアクションを重ねて、“この人について行けば「利」がある”と思わせたら勝ち。

ヨネちゃんが考える中国攻略のカギ、“利”とは?

WWD:“利”とは?

米原:自分にとって価値があるか否かということ。中国人を知る上で、この“利”ほど大事なものはないと考えている。その判断はとてもドライで、あなたよりあの人の方が“利”があるとなればそれまで。ところが、やっぱり僕の方に“利”があると感じれば戻ってくる(笑)。これって日本人からしたら裏切りにも見えるが、中国人はどちらに向かい合っているときも本気。だから、ずっと本気でいさせるためにどうすべきかを考えなくてはならない。でも、それってかなり大変(笑)。

WWD:中国で勝負するなら、中国人の気質を理解しなければならない?

米原:こびる必要はないが、その通りだ。例えば、中国の最大手EC企業アリババ(ALIBABA)が「独身の日」に合わせて11月11日まで開催した大規模なセールでは、コスメの売り上げが1番で中でも資生堂は圧倒的人気だった。2番目が家電、3番目がミルクやオムツといったベビー用品で、これらのカテゴリーで日本メーカーは厚い支持を得ている。中国では80年代後半から90年代中頃に生まれた世代のことを“新・新人類”と呼んでいて、子どもの頃から海外製品、こと日本製品に慣れ親しんでいる。日本メーカーによるベビー用品の好調は彼らが親世代になったからであり、こういったデータを踏まえてアパレル企業はどう戦うべきかを考えなくてはならない。

WWD:そのためにまずすべきことは?

米原:PRだと思う。コスメも家電もベビー用品も、前述の爆買いツアー層による口コミあっての高評価であり、日本人が仕掛けたからではない。中国でビジネスをするなら、中国人の目でものごとを見ることが重要。そうすれば今からでも入り込める余地はあるはず。

後編に続く)

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