ドイツのアディダス(ADIDAS)、スイスのオン(ON)、フランスのサロモン(SALOMON)をはじめとした欧州のスポーツウエアのリーディングカンパニーは、単一素材や植物由来の原材料を用いることで完全にリサイクルが可能な環境に優しい循環型のスニーカーを開発し、2021年中に一般向けに発売する。
フィットネスの専門家によると、ランニングシューズは500〜800kmを走る毎に交換するのが望ましく、ランナー1人あたり年間2〜4足のランニングシューズを購入及び廃棄しており、毎年2億足以上のランニングシューズが世界で消費されている計算になるという。
一方で廃棄されたスニーカーはリサイクルが困難なため、その80%が埋め立て処分されており、環境に及ぼす影響も懸念されている。マサチューセッツ工科大学(Massachusetts Institute of Technology)の13年の研究によると、一般的なランニングシューズは65のパーツを有しており、完成までの行程は360段階以上だ。スニーカーの製造工程ではさまざまなプラスチックや有害な成分を含む接着剤、染料といった化学物質も使用されている。シューズブランドはリサイクルや素材選び、製造工程について長い間検討を重ねてきたが、有害物質を含む製品を安易にリサイクルするだけでは問題を先送りしているに過ぎないというのが現状だ。
こうした背景から、真の意味での“循環型”ランニングシューズーーつまり、使用済み製品を原料に戻して新しく同じ靴を作ることのできる循環型シューズの開発が進められた。現在、メーカーは “クローズドループ”と呼ばれる方法で全ての原材料の管理を行っている。
現時点で実行段階にある唯一の循環型モデルが、アディダスの“フューチャークラフト.ループ(FUTURECRAFT.LOOP)”だ。同社は10年以上に及ぶ研究を経て、接着剤を使わず、熱可塑性ポリウレタン(TPU)だけを使用したシューズを開発した。
アディダスは19年4月、用意した200足のサンプルシューズをユーザーに使用してもらい、翌年に回収した使用済みのシューズを洗浄後、リサイクルし、TPUを粒状のペレットに戻して、その原料を一部用いて新たなシューズを製造した。同プロジェクトは商品化され、21年夏に発売される予定だ。
また、サロモンの“インデックス 01(INDEX.01)”もTPUのみを原材料としており、返却された使用済みのシューズはリサイクルが可能だ。同社もTPUをペレット状にしてアルペンスキーブーツの製造に必要な部品に再利用している。“インデックス 01”は、21年春に発売される見通しだ。
一方でオンの取り組みは少し異なる。同社は、利用者がトウゴマの種子を原材料としたバイオベース素材のシューズ、“サイクロン(CYCLON)”を受け取ることのできるサブスクリプション型のサービス、サイクロンを提供する。
サブスクの料金は毎月29.99ドル(約3089円、日本国内のサービス価格は3380円)で、ユーザーは使用済みのサイクロンを返却すれば新たなシューズを受け取ることができる。返却されたシューズは、ほかの製品に使用された古い素材と共にリサイクルされる。同サービスは21年後半に開始される予定だ。
オランダをベースに活動するフットウエア・コンサルタントで、オンラインアカデミーのフットウエアロロジー(Footwearology)ディレクターでもあるニコライン・ヴァン・エンター(Nicoline van Enter)は各社の取り組みを高く評価しているが、「アディダスは、古い靴がリサイクル後の新しい靴にどの程度使用されているかを明らかにしていない。リサイクル原料の使用がわずか10%であれば、新しい靴を製造するための原材料が別に必要となる。つまり古い靴を全て回収できたとしても、靴の製造を続けるためにはさらに多くの素材が必要になる」との問題点も指摘した。
この点に関してアディダスは「素材を無駄にしたり廃棄することはない。返却された全てのシューズは完全に再利用された」とのみ回答した。
一方で、サロモンはリサイクルされたパーツをほかの製品に使用しているため、こうした疑問にも対応できるアプローチだとも考えられる。しかし、スキーブーツを作るには新たな素材が必要なため、同社のランニングシューズもまた本当の意味での循環型だとは言えない。
ヴァン・エンターは“循環型”よりもむしろ“ネットワーク経済”という言葉を好んで使用しており、「古い製品から全く同じものを作るのはとても難しい。例えば古いランニングシューズがプラスチック製の椅子になり、その椅子が最終的にソファの詰め物になったりすることはより理に叶っている。サーキュラーシューズは返却してもらわなければならないという問題もある。例えばスニーカーのコレクターが貴重なファーストエディションを手元に残しておきたいと考えたらどうするのか」と主張した。
アディダスのスポークスパーソンは、「プロジェクトで用意したサンプル数は限られていたが、それでも回収は難しかった。靴を返却する必要があることを十分に理解していない人も多い。過去にそうした呼びかけをしたことがないのだから当然だ。実際あるプロジェクトでは、第1世代の靴を十分に回収することができず、第2世代の靴を予測通りに製造できなかったのが最大の問題点だった。こうした状況を改善し、適応していく必要がある」とコメントした。
こうした状況への打開策を部分的に提示しているのがオンのサブスクリプション・サービスだ。しかし全てのランニングシューズが一度に返却されるわけではなく、シューズを個別にリサイクルするのはコスト的に見ても現実味がない。シューズのサブスクが効率的に機能するためには、多くの靴が同時に返却される必要がある。
ヴァン・エンターは、「1足でもリサイクル可能となるような技術的進歩があれば、コスト面においても実現可能となるのではないか。潜在的な問題を踏まえると単なる見せかけのマーケティングに過ぎないようにも映るが、そうではない。本来の意味での循環型ランニングシューズを作ることは可能だ。メーカーが互いの知識をしっかり共有することで業界全体が前進し、プラスチック製品やリサイクル業界がこれまで通りに発展していけば尚のことだ。こうした取り組みは単なる見せかけにしては複雑すぎるしコストもかかる。メーカーは本気だ。現時点では完全に理想的だとは言えないプロジェクトもあるが、非常にいいスタートだと思う」とコメントした。
「WWDジャパン」1月4&11日合併号は「循環型ファッション」を特集している。