免税店大手のラオックス(LAOX)は昨年、新型コロナウイルス流行の影響を大きく受けた。渡航制限が続く中、2020年7月にはインバウンド事業を行う店舗の半数にあたる12店舗を閉店し、九州と沖縄エリアからは撤退を発表。一方で、インバウンド事業の主要顧客であった中国客に向けて越境ECを強化し、20年12月期第3四半期時点でのグローバル事業(対中貿易・EC事業)の売り上げは全体の23.4%まで拡大している。
越境EC強化の取り組みの一つが、20年2月にスタートしたライブコマースだ。ラオックスは11年に中国のEC市場でシェア4位の中国・蘇寧易購(Suning)の連結子会社になり、中国本土に強力なネットワークを持つ。蘇寧易購は家電大手だが、近年成長する日用品分野は第2の柱だ。そこでラオックスは中国客に人気の高い、日本の美容製品や健康食品、衛生関連品などを販売。現在は中国と日本からライブコマースを実施しており、これまで中国で取り扱いのなかったブランドも手掛けている。
テクノエイトが販売するサロン専売ヘアケアブランド「オッジィオット(OGGI OTTO)」もその一つだ。サロン専売という特性上、これまで中国で知名度はなかったというが、ラオックスと中国向けマーケティングを行うアライドアーキテクツが展開する中国向け販売パッケージを利用して、20年12月に中国向けに販売した。
販売パッケージは、集客力があり蘇寧易購にEC旗艦店を持つラオックスと、中国SNSで口コミや話題作りを行うアライドアーキテクツが組み、一からの中国進出を支援するもの。テクノエイトは現時点で本格進出は計画していないというが、将来的な可能性も視野に、販売パッケージの利用を決めたという。販売に先駆けてSNSでの口コミを増やすため、アライドアーキテクツが抱える在日中国人コミュニティ「播日本(BoJapan)」を通じてサンプリングも行った。
企業トップ自らが登場するライブ配信
ラオックスのライブコマースは日本から同社社員が配信しており、昨年6月には紹介企業の社長や責任者を迎えて配信する「ボスライブ」もスタートした。企業トップが配信に登場するのは中国ライブコマースのトレンドの一つで、ラオックス経営戦略本部の庄宇杰・副本部長は「実際に企業のトップや社員が登場することで、商品に関する深い情報やブランドストーリーを伝えられるだけでなく、日本の企業であるという信憑性も発信できる」と利点を語る。
テクノエイトも12月12日のセールイベント「W12」でライブコマースに登場し、普段は国内のサロン向けに営業を担当する三浦晃平氏が出演した。テクノエイトの森武史社長は三浦氏の出演について「三浦は元々美容師で、サロンに向けた技術講習も行っている。美容師時代の経験を活かした内容がわかりやすいと評判が良かったため、今回のライブコマースでも、言葉の壁を超えて商品の良さを存分にアピールしてくれると考えた」と語る。
ライブ配信は、三浦氏登場の1時間前にスタート。日本に関心のある層の集客を狙い、東京タワーなどの観光名所を紹介して回った。3万人ほどの視聴が集まると、スタジオからMCとアシスタント、三浦氏の3人で配信を開始。スタジオでも、まず掴みとして三浦氏の経歴やキャラクターを紹介したり、「オッジィオット」のミニサイズセットが当たる抽選会を実施したり、バラエティー番組のような要素を詰め込む。こういったエンタメ要素が目を引き、1時間の配信で10万8000視聴を集めた。
また配信では日本とは異なる伝え方を工夫したという。三浦氏は「日本ではヘアケア製品に関して“インバス(浴室で使用)”と“アウトバス(浴室外で使用)”という表現を使うが、中国ではそういった概念がないと事前の打ち合わせで聞いた。そこで朝や夜、仕事終わりなどのシーン別の使用法で訴求した」と語る。また中国では使用後の結果を重視する傾向が強いため、インスタグラムの関連投稿を用いて製品使用後の髪の艶をアピールしたり、使用方法を実演で披露した。
ライブコマースの上手な活用法
ライブコマースは売るだけでなく、宣伝の役割が大きい。庄副本部長によると、「ECとライブコマースは同時に回さなければ、ユーザーを他社に取られてしまう」という。ライブコマースの視聴者が増えた今、こういった考えから長時間のライブ配信や連日の配信を行うブランドや小売店が増えているのだ。
一方で中国のライブコマースは値下げが付き物となっており、この日も「オッジィオット」の製品がセール価格で販売された。しかし値下げし続けることは、ブランド毀損にもなりかねない。庄副本部長は「『オッジィオット』は1線都市(北京、上海など)の高収入の女性や、30〜40代の富裕層がターゲットだ。客層が高収入のため、わざわざ値下げし続ける必要はないと考えている」と話す。セールはあくまで“お試し価格”であり、今後打ち出すリピート施策が重要なのだという。
ラオックスとしてはコロナの流行によるインバウンド客の減少を機に始めたライブコマースだが、今後は渡航制限が解除されても継続するという。「越境ECはインバウンド客のリピート買いの場になる。今後も強化し続ける必要がある」と庄副本部長。ライブコマースとうまく付き合うことは、中国客と向き合う上で欠かせない要素となっている。