ロンハーマン(RON HERMAN)がサステナビリティに本腰を入れる。商品、売り方、備品、エネルギー、廃棄ゼロを目指したモノ作りなど、現在さまざまなプロジェクトが進行中で、2021年春夏の店頭には、オーガニックコットンや草木染めのアイテム、“アップサイクル”をデザインコンセプトにしたデニムなどが並ぶ。小売業最大の課題である余剰在庫に関してもすでに動き出している。コロナ禍の2020年11月末時点のプロバー消化率は(20年2月~)73%をマークするなど、買い付け量とオリジナル品の生産量の最適化に注力。売上高も前年をキープしている。今後、さらに精度を上げてプロパー消化率80%を目指し、23年までに店舗でのセールを廃止する。
「スピード感を持って進めるために」経営陣自らセミナーに参加
根岸由香里・事業部長兼ウィメンズ・ディレクターが会社として本格的にサステナビリティに取り組む際まず行ったのは、ロンハーマンの運営会社リトルリーグカンパニーのトップの三根弘毅プレジデントと平井洋司カンパニーオフィサーへの働きかけだった。「1年半前に話した時点でも、三根も平井も本を読むなどしてSDGsなどの知識は得ていた」と根岸ディレクターは振り返る。その後、新型コロナウイルスの感染が拡大し、昨年4月には1度目の緊急事態宣言が発出された。緊急事態宣言発出後、「2人とのコミュニケーションは格段に増えた。お店を再開するとき、アフターコロナを見据えた未来の話をする中で、『サステナビリティに本気で取り組まない限りファッションに未来はない』という話をじっくりする機会を持てた」。
根岸ディレクターがサステナビリティを加速するために取った行動のひとつが「より深い知識を付けること」。「経営側の私たちに知識がないと伝わらないし、スピード感を持って進められない。日本エシカル協会が主催するセミナーに参加しようと三根と平井に持ちかけ、もともと関心もあった二人は二つ返事で快諾。20年秋から3人でセミナーに参加している」。セミナー後には3人のグループラインでセミナーのテーマに対してロンハーマンとして取り組めそうなことなどを考えて意見交換しているという。
20年3月からは、リトルリーグカンパニーの全セクションで資材や備品などの見直しを行った。「目標は廃棄ゼロ。その前段階としてゴミになるものを減らすために、資材やショッパーなどを見直した。廃止できるものは廃止して、必要なものは、価格が高くても最も環境負荷が低い素材に変更した。ショッパーは、それ自体を少なくするためにお客さまとのコミュニケーションも始めた」。再生可能エネルギーへのシフトにも注力している。「RE100(企業の自然エネルギー100%を推進する国際イニシアチブ)の加入を目指し、テナントが使用する電気を調べて、ディベロッパーなどいろいろな方に働きかけている。再エネへの切り替えは、マンションは簡単だが、ファッションビルの店舗や路面店だと複雑でハードルが高い。いまは丁寧に対話を続けている段階」という。
オリジナル商品の開発でも廃棄ゼロを目指す。「色見本や(サンプルセールにも出せないような)ファーストサンプル、これまでの生地の切れ端やパーツを分類して、再利用することに取り組んでいる。再利用が難しい素材もあるが、ウールとコットンに関しては、新しい糸にして生地にしたオリジナル商品も開発中」で、理想は「適正な量を仕入れて、私たちが考える適正な期間で販売し、プロパー消化率を高めること。その後、アウトレットでもどうしても売れなかったものは新しい糸や素材にして循環させること」だが、“売り切る”ことを目指す。「23年までにセールを無くす。シミュレーションの結果、プロパー消化率80%をクリアすれば、アウトレットを活用しながら売り切ることができることがわかった。商品値下げのタイミングは私たちの軸で決める。アウトレット店舗の役割自体も見直しているところ」だという。また、可能な限り、オリジナル品で使用する素材や買い付けるアイテムに関しても環境や人権に配慮したことを証明する認証を得た素材に切り替えていく。
取引ブランドとの対話も始めた。サステナビリティに関してどのような取り組みをしているかを聞き、ロンハーマンのサステナビリティの考え方を伝えている。「以前に比べて聞いてもらえるところも増えた。ガラっとサステナビリティシフトしたブランドもある。メッセージをうまく受け取ってもらえないところもあるが、買い付けをすぐにやめてしまうのではなく、そのブランドらしいものをサステナブルな方法で作りませんか?と投げかけている」。ロンハーマンでは、ブランドとの別注品の人気が高く、毎シーズン即完売する商品が多い。
「知ることが結果的に全ての幸せにつながると思うから」
サステナビリティは伝え方が難しく、消費者とのコミュニケーション設計がとても大切だ。ロンハーマンはどのようにサステナビリティを描くのか。「私自身、『このままでは未来真っ暗』ではなく『幸せは作れるし諦めなくていい』というポジティブな気持ちで捉えている。私たちロンハーマンはすてきな空間と商品を通じて、幸せ、楽しいという感情を提供したいと考えていて、それが一番であることは変わらない。例えば、これを買うと〇〇に貢献できるということが見えながら、その裏側にはこういう産業の問題点があるということをきちんと伝えられるようにしたいと考えている。“Today is beautiful”“Happiness is the goal”というメッセージを発信しているように、一貫して私たちのゴールは“幸せ”。知ることが結果的に全ての幸せにつながると思うから」。
ロンハーマンは11年前に日本に上陸して、ライフスタイル型のスペシャリティストアという新しい価値観を創出し、業界に一石を投じた。「一度、価値観を変えることができたのであれば、今回も絶対にできると思っている。時代が加速したことによって、(悲観的ではなく)むしろ面白いと思えるようになった。やらなければいけないではなく、もっとこうした方がいいよね、とポジティブな気持ちで取り組めている。完璧を求めなくていい、真剣に取り組んでいるのであれば、小さくても恥ずかしがらなくてもいいと思うようになり、進められるようになった」。