ファッション

キム・ジョーンズによる「フェンディ」や24歳の新たな才能に感嘆 クチュール後半5選

 2021年春夏オートクチュール・ファッション・ウイーク(1月25〜28日)は、コロナ禍での2度目のデジタル開催。クチュールメゾンはどのような服を、どのような方法で発信するのか、コレクションを長年取材する向千鶴「WWDジャパン」編集長と、「WWDジャパン」のSNSアカウントも運営する丸山瑠璃ソーシャルエディターがそれぞれの視点から語り合います。今日は1月27日、28日の2日間の参加ブランドから厳選した5ブランドについて紹介。

丸山:27日に発表予定していた「メゾン マルジェラ “アーティザナル” デザインド バイ ジョン ガリアーノ(MAISON MARGIELA 'ARTISANAL' DESIGNED BY JOHN GALLIANO)」「エリー サーブ(ELIE SAAB)」「ズハイル・ミュラド(ZUHAIR MURAD)」が発表を延期しました。パリ警察当局からの指示でショーやイベントに観客を招待できないことも影響したのかもしれません。少しスケジュールが寂しくなりましたが、27日は今季の目玉、キム・ジョーンズ(Kim Jones)による「フェンディ(FENDI)」が控えています!

FENDI

向:これぞラグジュアリー、これぞオートクチュール!パリ旧証券取引所で発表されたキム・ジョーンズによる「フェンディ」は歴史と手仕事と資本力とクリエイティビティが余すことなく注がれた素晴らしいコレクションでした。わずか19体だけど一つ一つの存在感が際立ち、一人一人のモデルの個性と呼応して見応えがありました。「家族」「ルーツ」というキーワードを受け取りましたが実際、親子で登場したモデルもいたよね?

丸山:はい、ケイト・モス(Kate Moss)と娘のライラ・モス(Lila Moss)が親子で、アジョワ・アボアー(Adwoa Aboah)と妹のケセワ・アボアー(Kesewa Aboah)、クリスティ・ターリントン(Christy Turlington)と甥のジェームス・ターリントン(James Turlington)も家族で登場していました。さらにナオミ・キャンベル(Naomi Campbell)、カーラ・デルヴィーニュ(Cara Delevingne)、デミ・ムーア(Demi Moore)、ベラ・ハディッド(Bella Hadid)らキムやブランドと親交のある“ファミリー”と呼べるモデルが登場。超豪華なキャスティングにも驚きましたが、ジュエリーを手掛けるデルフィナ・デレトレズ・フェンディ(Delfina Delettrez Fendi)という本物の「フェンディ」ファミリーもモデルとして登場していたのにも驚きました。代々家族経営である「フェンディ」がいかに“ファミリー”に価値をおいているか、象徴していましたね。

向:インスピレーションの一つがイギリスの小説家ヴァージニア・ウルフ(Virginia Woolf)の「オーランド(Orlando)」でした。男性として生まれ、ある日目覚めたら女性の体となった主人公が最後は女性として生をまっとうする物語です。「フェンディ」が創業した3年後である1928年に書かれていますが当時としてはかなり前衛的な内容だったでしょう。それをキムはさらりと当たり前のこととして扱っている。ウルフがこのショーを見たら盛大な拍手を送るのではないでしょうか?1ルック目、2ルック目と丁寧に続けて見ていると、男性性や女性性は、自分の意思で選び取れるものだ、と思えます。

丸山:本をかたどったクラッチバッグが登場したほか、パールのクラッチバッグやブーツには「オーランド」からの引用が施されているそうです。キムは「『フェンディ』の経営は3代目、私は4代目が継ぐまでのゲストだ」とコメントしていましたが、「フェンディ」と同時期に誕生し、今ようやく理解されつつある「オーランド」のジェンダーやセクシュアリティは流動的なものという認識をメゾンのクリエイションに組み込み、当たり前のこととして次の世代に伝えたかったのかなとも思いました。

向:もう一つ、重要なのが「フェンディ」の創業地であるローマの存在感だね。ボルゲーゼ美術館の大理石のカラーパレットや、ジャン・ロレンツォ・ベル二ーニ(Gian Lorenzo Bernini)の彫刻を思わせるドレープ。アクリスケースの中に立つモデルは美術館の彫刻のようでした。これはもう、アトリエの手仕事のなせる技以外の何物でもない。ファッションデザイナーの多くはローマの街とルネッサンス美術への憧れを抱いていますが、キムもそうなのか、見事な表現でした。

VIKTOR&ROLF

向:「ヴィクター&ロルフ(VIKTOR&ROLF)」はコロナ下でモヤモヤ溜まったうっぷんを吹き飛ばすかのようなコレクションでしたね。ギラギラして軽快で、同時にサステナブルという。アンダーグランドなムードが漂いましたが会場は元軍需工場なんでしょ?

丸山:はい、「Het HEM」というアムステルダム郊外の施設なのですが、現在はコンテンポラリーアートの中心地となっているようです。コレクションのテーマは“クチュール レイヴ”。想像上のパーティー、またはこれから開催されるパーティーにインスパイアされたのだとか。メタルやレース、クリスタル、ジュエリーがどっさり施されたブラに合わせるのはボリューミーなチュールスカートやパフ、そしてリサイクルプラスチックで作られたピンクやシルバーのブーツ。ユーチューバーのジョジョ・シワ(JoJo Siwa)の宝箱をひっくり返したようなキラキラ&カワイイ要素とボディーコンシャスなシルエットやブラ、タイツが生み出すギラギラしたアングラ感とのギャップがよかったです。ショーの背景となっていたアートは、アーティスト集団RAAAFの「Still Life」というインスタレーション。工場の弾丸生産で残された材料で作られたものだそうです。コレクションもアップサイクルしたアイテム多数でしたね。

向:ヴィンテージレースやドレスの破片などアトリエに残るあらゆる素材をアップサイクルしています。このアイデアって今や多くのデザイナーが取り入れています。でも欲しくなるものとならないものがある。その違いって丸山さんはなんだと思う?

丸山:確かにそうですね。うーん、一概には言えませんがただアップサイクルするだけじゃなく、そこにブランドらしさが加えられていたりなど、何かしら付加価値がプラスされていると個人的には欲しくなるかもしれません。サステナブルであること自体が付加価値なのですが、サステナブルに生きたいならもっとそれに特化したブランドがある。でもそこで買わずにそのブランドで買う・買いたいと思うのは、デザイン性であったり何かしら付加価値があるからなのではないでしょうか。

向:ところでショーにおける音楽の重要性について思いを馳せたショーでもありました。デジタルコレクションって音楽が良いと、目では見ずともループして聴き続けたりしない?

丸山:分かります!ショーのために作られた音楽であることも多いので、ユーチューブなどでショーを繰り返し再生するしかないのですがスポティファイなどでも配信してほしいです。「ヴィクター&ロルフ」は“クチュール レイヴ”の名の通り、BGMはゴリゴリのクラブミュージックでしたね。カワイイ要素がありながらも、音楽のおかげでアンダーグラウンドなパーティー感もしっかり感じ取ることができました。

CHARLES DE VILMORIN

丸山:ゲスト枠でクチュールに参加した24歳のシャルル・ドゥ・ヴィルモラン(Charles de Vilmorin)は、初めてこうしたファッション・ウイークに参加。個人的に今季のクチュールでかなり注目していました。彼自身が描く色鮮やかな絵画をそのまま服に落とし込んだような世界観に圧倒されます。インスタグラムで初めて作品を見かけたときに「一体この人の頭の中はどうなっているんだろう」と思いました。

向:Z世代から新しい才能が飛び出しましたね。シャルル・ドゥ・ヴィルモランはどんなキャリアなの?

丸山:幼い頃からファッション業界を志していたそうで、中学生のころ学外研修でアルベール・エルバス(Alber Elbaz)がトップだった「ランバン(LANVIN)」で研修したのだとか。ちなみにヴィルモラン家はフランスの園芸と農業界のトップ企業を営む家系で、多くの男性を虜にした作家、ルイーズ・ドゥ・ヴィルモラン(Louise de Vilmorin)もその血筋。サンディカ・パリクチュール校(Ecole de la Chambre Syndicale de la Couture Parisienne)で学んでいるときは、そのルックスを生かしてモデルもしていたそうです。19年に卒業したのですが、その卒業制作のコレクションをコレクターが買い占め、その資金を元手にパンデミック最中の20年4月に自身の名を冠したブランドと公式サイトを設立。9月に初めてのカプセルコレクションを発表し、11月には「グッチ(GUCCI)」が行っていた映画祭「グッチフェスト(GUCCI FEST)」にも参加して、自身が制作したフィルムを公開していました。圧倒的スピードでオートクチュールに参加した訳ですが、その作品を見れば納得しますよね。

向:米「WWD」とのインタビューの中でシャルルが「オートクチュールには限界がありません」と語っていてこれはまさにオートクチュールの存在理由の一つだと思います。顧客のニーズに忠実に応えるのがオートクチュールの一面だけど、それだけじゃない。「スキャパレリ(SCHIAPARELLI)」のシュールなデザインを好んで買い上げる顧客がいるように、富裕層の顧客はデザイナーの才能に投資するパトロンでもあるのです。「ヴィクター&ロルフ(VIKTOR&ROLF)」は美術館などアートシーンがパトロンの役割を果たしていますしね。オートクチュールではこれまで伝統的にリミッターを外したクリエイティビティが賞賛されてきた。シャルルもその一人になり得ると思います。

丸山:そうですよね。インタビューでは「服は安く簡単に手に入るように売られ、着られるようにできていない。そこが好きなところだ」とも話していました。ファストファッションブランドが当然のように存在し、安く簡単に服を買うことが当たり前な世代でこのような視点が持てることは、本当に貴重だと思います。これからがとても楽しみです!

向:シャルルは「私は、メイクで人の性別に関係する部分を消して、本当の自分を明らかにするというアイデアが大好きです」とも話していますが、実際ファッションと同じくらいインパクトがあったのがメイクですね。顔だけではなく服にもメイクアップするという考え方かな?スポンサーと思われる「M・A・C」のカラーコスメが大活躍です。

丸山:ムービーでは鳥の鳴き声をBGMに、シャルルが銃口を通してモデルを見て、銃を打つとオレンジ色のペンキが飛び散るという演出でしたね。メイクは、ビューティ系インフルエンサーでもある友人のアナエル・ポストレック(Anaelle Postollec)が手掛けたそうです。インスタグラムを見たのですが、彼女のメイクアップもアーティスティックでした。

YUIMA NAKAZATO

丸山:人工クモの糸のスパイバー(SPIBER)の傘下に入った「ユイマ ナカザト(YUIMA NAKAZATO)」が、そのバイオテクノロジーを活用して新たな服づくりの可能性を見せてくれました。クモは自ら作り出した糸の構造を水分によって変化させ何度でも復元できるそうなのですが、「ユイマ ナカザト」はこの自然のデザインと最先端のバイオテクノロジーで自由に形を変化させることができる生地を発明。そして、人の身体情報を生地に記憶させたそう。起用したのは義足モデルのローレン・ワッサー(Lauren Wasser)。彼女の身体情報を生地に記憶させて完成したのがムービーの最後に登場したカラフルな継ぎ目のない波打つドレスということですよね?向さんは「ユイマ ナカザト」のアトリエにも伺ったそうですが、中里唯馬デザイナーからお話を伺っていかがでしたか?

向:はい、オンラインインタビューを受けている中里さんをリアルに取材しました。作り手側の景色も確認したくて。3分42秒あたりから登場する不思議な機械にぜひ注目してください。あれは服に水分を加えるためのオリジナルのマシーンで、アトリエにありました。スパイバーが発明した糸が料理で言うところの“素材”なら、中里さんはそれを料理する“シェフ”。何℃のお湯に何分浸して何分乾かせば一番美しい形になるかなど、最高の仕上がりを求めて日夜研究しているそうです。

 中里さんの仕事は非常にハイテクですが、印象的だったのは中里さん自身がローレン・ワッサーに何度もインタビューをしてそのコミュニケーションから“ぴったり”の服を導き出したということ。結果、あの体の周りに浮遊するようなドレスが生まれています。それはワッサーの内なる強いエネルギーを会話から受け取ったから。“ぴったり”は必ずしもサイズ通りの“ぴったり”じゃない。そこにファッションデザイナーの感性が加わるのがオートクチュールの仕事なんですよね。ワッサーの義足は美しいゴールド色で、ドレスはそれともマッチしていました。

丸山:外出自粛期間の最中だった前シーズンは、着る人の思い出がこもったシャツを募集し、中里デザイナー本人が持ち主と対話しシャツをリメイクして返すという企画で、後にこのサービスの一般提供もスタートさせました。この“服に宿る人の記憶”というアイデアを、生地にバイオテクノロジーで身体情報を読み込ませるというところまで拡張させたのが驚きでした。

向:アルゴリズムにより導き出されるネット上の“オススメ”は、その人が過去に選択した言葉や情報をもとになっていますよね。結果、人々の嗜好がどんどん細分化されていて、私は最近そこに疑問を抱くし、時に恐怖すら覚えます。中里さんの対話から生まれるデザインはAIには今はまだできない領域だと思います。忘れかけた記憶を掘り起こし、ともすれば狭くなる私たちの意識をぐいっと広げるところが面白いです。

S.R. STUDIO. LA. CA.

丸山:ゲスト枠でクチュールに参加したスターリング・ルビー(Sterling Ruby)の「S.R. スタジオ. LA. CA.(S.R. STUDIO. LA. CA.)」は、“APPARITION(幻影)”と名付けた映像を発表。モデルがウオーキングする映像に重ねられた戦争跡のような映像は、ルビーが南カリフォルニア州のサバイバルゲーム施設で撮影したものだそう。BGMはエンジェルズ・オブ・ライト(Angels Of Light)の「Promise Of Water」という07年の曲なのですが、これは当時行われていたイラク戦争など世界で起きている暴力をメディアを通じてゴシップなどと同等に受け取ることについて歌った曲だそうです。 

向:なるほどですね。合成とはいえお墓でゲーム感覚のファッションショーとは不謹慎だな、と一人眉をひそめていたのですがサバイバルゲーム施設と聞いて安心しました。デジタルを生かし、社会的メッセージを込めるなどある意味とても今っぽい。ただ肝心な服はどんな人たちに好まれるのかイメージがわきませんでした。

丸山:ルビーは「顧客は25歳のミュージシャンから70歳のアートコレクターまで幅広い。だがみんなユニークな限定ものがほしいと思っている」と米「WWD」の取材に対し語っていました。確かにお値段も決して安くはないですが、顧客は“着るアートピース”を購入する感覚なのかもしれません。大きなフードと襟は、イギリスからアメリカに渡り、後に開拓者となった清教徒のファッションを着想としたそう。長細い形のバッグは、楽器を入れる道具箱にも見えれば、銃を入れるバッグにも見えます。ルビーは自身の作品で社会の中の暴力や圧力を扱いますが、ファッションや映像表現においてもさまざまな揶揄が発見できて興味深いですね。9月のパリコレで発表した映像もコレクションの発表はなかったもののトランプ政権や白人至上主義者を批判する含蓄のある内容でした。

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