ファッション

オケージョン消滅で絶体絶命のピンチ マッシュの「セルフォード」復活劇の舞台裏

 マッシュスタイルラボの「セルフォード(CELFORD)」がコロナ禍の大ダメージから復調している。

 同ブランドは結婚式や入学式など、いわゆるオケージョンと呼ばれるシーンで活躍する華やかなデザインのワンピースを1〜2万円台でリーズナブルに提供。20〜50代の幅広い女性から支持を受け、2018年春夏のスタートからファッションビルや百貨店など19店舗(2021年1月末時点)へ広げるなど順調な成長を続けてきた。

 だが、コロナ禍では結婚式などのイベントが次々中止になり、「セルフォード」の需要そのものが蒸発。20年4〜5月に掛けて売り上げが激減し、一気に苦境に立たされた。「私たちは、“オケージョンなら『セルフォード』”というブランドイメージをしっかり植え付け続けてきたという自負がある。だが、(コロナ禍では)それが裏目に出てしまった」と一(はじめ)真由子セルフォードプレス。

 しかし、その後は復調軌道に乗り、6〜12月期の売上高は前年比を上回る好調を見せている。21年春にはルミネ横浜(2月26日)、博多阪急(4月)に新規出店する。「このピンチを乗り越えたことで、『セルフォード』はひと回りもふた回りも大きく生まれ変わることができた」と語る一プレスに、復調の舞台裏を聞いた。

 20年6月、東京・麹町のマッシュスタイルラボの本社オフィス。「セルフォード」の一プレスは、浮かない表情でブランドの売り上げなどに関する資料に目を落としていた。緊急事態宣言での店舗休業(4〜5月)が明けた後も、リアル店舗への客足は止まったまま。急伸するECがかろうじて支えてはいるものの、ブランドは危機的状況だった。

 「セルフォード」はコロナ禍以前から、オケージョンを超えて日常使いできるデザインにも徐々に取り組んできた。「でも、私たちの服をデイリーに求めてくれる人がこんなにも少ないという事実が浮き彫りになって、(当時は)大きなショックを受けた」。このままではブランドが立ち行かなくなってしまうーー。そんなムードがチーム全体を包んでいた。

全ての新作に袖を通すと
発信の重みが増した

 だが、悩んでいても20-21年秋冬シーズンがやってくる。コロナ禍では展示会の形も変わった。同社では毎シーズン、全国の店長が東京本社に集まり、新作コレクションの内容を見て店舗への仕入れの量を決める。だがそれができなくなり、プレスチームはリモートで商品の着用イメージやディテールなどを伝える必要が出てきた。そこで同シーズンは、従来はモデルに着せて撮影していたシーズンビジュアルを、プレス自ら着用するようにした。

 店長らからは「リアルな着用感が分かる」と好評だったが、「それ以上に私にとって収穫だったのが、商品そのものへの理解が深まったこと」(一プレス)。「セルフォード」の商品型数は毎シーズン80程度に及ぶが、今回の撮影に当たっては自らその全てに袖を通した。「今までは、分かっていた気になっていただけかもしれない。そう思えるほど、着用した時の素材感や服に施されたディテールの意味まで、肌感覚で理解できた」。

 同時期には、店舗への来店客が減る中で「セルフォード」もライブコマースにも本腰を入れ、一プレスが出演する場面も増えていた。「試着を繰り返したことで、どういう動きをすればワンピースのドレープが綺麗に見えるかも分かったし、商品の細部のこだわりも自分の言葉で語れるようになった」。インスタライブの熱量は、商品の売れ行きにダイレクトにつながった。

 「矢面に立つ分、売れなかったらどうしようという不安は大きい。でも一方で、ブランドや数字に対する責任感が出てきたようにも思う」。9月からは公式ホームページで「はじめの活躍服」と題し、自分の言葉でおすすめアイテムや着こなしを紹介する月1〜2回の連載も始めた。

「セルフォード」なら“間違いない”
期待に応え、ファンの心をつかむ

 ブランドの状況が本格的に好転しはじめたのもこの頃からだ。「それまで巣ごもりで我慢していた女性にも『おしゃれをしたい』という欲が出てきた。華やかな気分になれる服を求める方が、徐々にだが(『セルフォード』に)戻ってきてくれた」。現場からは、20代であれば「彼氏とのお家デート」、より年齢が高い層であれば「予約の取れないレストランに行く装いを求めて来店される」という声が上がった。「こんな状況でも、女性にはとっておきの場面で着る服が必要とされていることを実感した」。

 企画とプレス、販売が一丸となり、吸い上げた意見をスピーディーに期中企画に反映した。目指したのは、ブランドらしい華やかなデザインと、快適性を両立させた服。「手洗い可能」「ゴムウエストで快適」といった機能性を強化した。売り場では「結婚式で映える」「入学式でもオシャレに見える」といったコロナ禍以前のセールストークを封印し、あくまで商品そのものの魅力を伝えるべく方針転換。すると、確実に数字にもつながってきた。

 「ブランドのテイストやデザインが多少変わっても、『セルフォードなら間違いない』という期待に応え続ければ、お客さまがついて来てくれるという自信がついた」。そう一プレスが語るように、2021年春夏は商品テイストの幅を大きく広げた。カラーでは翡翠(ひすい)をイメージしたブランドらしいエレガントな緑をプッシュする一方、刺しゅうを駆使したボヘミアンテイストにチャレンジ。これまでのワンピース一辺倒ではなく、ビックカラーブラウス(1万4000円)などの一枚で映えるトップス、2ウエイ、3ウエイで使えるアイテムやUVプロテクションなどの機能も積極的に取り入れる。

 一プレスにとっても、「コロナ禍でもがいた経験が、プレスという仕事に対する向き合い方が変わるきっかけになった」という。「ありがたいことにインスタライブの出演などで、私に会いたい、私が提案する服を着たいというお声をいただいている。いろいろ欲ばるとキリがないけれど(笑)、これからはもっと店頭に足を運びたいし、商品作りにも関わってみたい」と前を見据える。

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