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「アキラナカ」の躍進を支える生産管理のDX 経営の“見える化”で数字に向き合ったクリエーションが可能に

 国内外のセレクトショップや百貨店に販路を広げる有力ウィメンズブランド「アキラナカ(AKIRANAKA)」が、デザイナーズブランドの業務効率化のための生産管理システムを開発した。「7年越しで開発してきた」(クリエイティブ・ディレクターの中章)というシステムを、3月から国内の2つの有力デザイナーズブランドに試験的に提供し、ブランドや会社の枠を超えてうまく稼働するよう修正を重ねていく。2022年の春には正式にサービス提供を開始し、新進を含む国内の中小ブランドになるべく抑えた料金で提供、デジタルトランスフォーメーション(DX)が遅れている中小デザイナーズブランドのビジネスを前進させることを目指す。

 同システムは、生産工程のあらゆる場面でかかるコスト(生地代、サンプル代、縫製賃など)を一括管理し、透明化するもの。それにより中小のデザイナーズブランドが陥りがちな“どんぶり勘定”を防ぎ、適正な値付けや、よりバランスのとれた企画・生産のあり方を導く。また、一反の生地からどのように服のパーツを切り出すのが効率的か、それをすると生地はどれだけ必要になるのかといった生地計算も可能で、生地メーカーへ送る発注書も、生地を縫製工場に納入する際に付ける指示書も「ボタン一つで出すことが可能」。もちろん、卸先に商品を送る際の請求書も、国内向け、海外向けを問わずオートで出力できる。「デザイナーズブランドにとっては夢のシステム」と中は話す。

 他産業であれば、こうした業務の一括管理は当たり前のように行われているものだろう。しかしサプライチェーンが細分化され、関わるプレーヤーが非常に多いアパレルビジネスではこれが難しく、なかなかDXが進まない。さらに、一般のアパレル企業ではなくデザイナーズブランドとなると、凝った商品を作るため取り組み先はいっそう多様になり複雑化する。「アキラナカ」はプレ・コレクションを含めて年間4シーズン発表をしているが、「1シーズンに作るのはおよそ60型。その1型を完成させるまでに、平均で外部の10社(生地メーカー、加工工場、サンプル工場、量産工場、ニット工場など)と関わっている」といった具合に膨大だ。

 加えて、1つのシーズンの全工程が終わってから次のシーズンに移るわけではないため、常に複数のシーズンを同時並行で管理していくことが求められる。そうなると請求書が届いても、その内容をシーズン別で精密に分けて原価として追っていくことが難しい。こうした複雑さが「売上高は増えているのに、いつまで経っても利益が出ない」という状況を生みやすく、それによって中小のデザイナーズブランドが経営難に陥ることは非常によくあるケースだ。

「作りたいものを作るために、リアルな数字と向き合うことが必要」

 多くのデザイナーズブランドは、こうした複雑な管理を今もエクセルに手で入力して行っているという。それではどうしてもヌケやモレが出て、“どんぶり勘定”を脱せない。時間も膨大にかかる。「アキラナカ」もかつては同様に管理していたというが、それを変えるきっかけになったのが、マネジング・ディレクターを務める堀田彰文の存在だ。中と堀田は中学時代からの幼なじみ。堀田は米国で物流関連のシステムを開発する会社を起業・運営後、12年に帰国し「アキラナカ」に加わった。日本でも自身のシステム開発会社mipickを経営している。

 「中からいろいろと相談は受けており、業務のシステム化が必要だと感じていた。ただ、既存のアパレル向け生産管理システムは一般のアパレルメーカーを対象にしたものがほとんど。一般アパレルとデザイナーズブランドとではニーズが異なるため、既存のシステムを導入してもエクセルで手入力しなければならない部分が残ってしまう。それだと意味は半減する」と堀田。それでmipickで開発を始めたという。

 7年前に開発をスタートし、問題が起きる度に改良を重ねてきたことで、業務フローはかなり改善されてきたという。生産途中で何度仕様や工場を変えてもボタン一つでそのコストが自動で追え、製作段階でも原価率が見える。「そうしたデータを、『アキラナカ』ではデザインチーム、生産チーム、パターンチーム全員で製作途中に何度も確認する。データをもとに、いかに原価率を下げて儲けるかといった話ではない。数字というリアリティーを踏まえた上でクリエーションに集中して、どうやったら自分たちのやりたいことが実現できるかを考える。たとえ原価率が高くてもブランドとしてやるべきと判断する物は作るが、それは思い付きでデザインをすることとは全く違う」と中。「アキラナカ」はこの10年間で拡大・成長した数少ない日本のデザイナーズブランドの一つだが、「順調にステップアップできたのは、裏側にこの仕組みがあったからこそ」と胸を張る。

 「システム導入前は、シーズンによって原価率のバラつきが大きかった。もちろん、今でも提案型のメインシーズンと実売を意識したプレ・コレクションでは2~3ポイントほどの差はあるが、その範囲でコントロールできるようになったことは大きな成果」と堀田。売り上げ規模自体が大きくなっているため単純比較はできないが、システム導入前の一時期に比べ、原価率は15ポイントほど下がったという。「原価率のブレは中小のブランドにとっては致命的。日本のデザイナーは本業以外の外部の仕事を請け負っているケースも多いが、それはブレによって急に資金がショートした時のための保険が必要だから。そうした状況を防ぐため、デザイナー兼経営者は自分のブランドの不健康なポイントを分析する必要がある。しかし、毎シーズン膨大な量の仕事が迫ってくる中ではなかなかそれができない。期末にまとめた数字を会計士に持って行っても、一般の会計ソフトではじき出したデータではモノ作りのどこがどう悪かったかまでは分析しきれない」(中)。

「若手ブランドにこそ使ってほしい」

 同システムは今年の3月から外部ブランドに試験提供を開始し、22年3月を目途に月額課金制で一般提供していく考え。新進を含む中小ブランドこそ導入して、ビジネス面を強化してほしいという。そのためにも料金はできる限り抑える。「自分たちだけ優位でいたいならわざわざ他社に提供する必要はない。でも、価値を独占する時代は終わった。欧米ならコングロマリットや投資家が才能ある新進デザイナーをサポートすることもあるが、日本ではそういうことは滅多にない。われわれ日本人のデザイナーはデザインだけでなく、経理も営業も労務管理も何もかもやらなきゃいけない」(中)。

 業務フローの透明化によって中小デザイナーズブランドの競争力を上げ、日本のファッション全体を振興し、市場が縮小する国内だけでなく海外でも売っていけるように後押しする。物流分野に詳しい堀田が開発していることで、同システムでは大手国際物流企業との取り組みも決まった。企業名は明かせないが、システムを導入したブランドが海外発送をする際は、同物流企業が特別割引レートを導入してくれる取り決めになっているという。「通関手続きに必要な書類のデータを一元化するという条件で特別割引レートを適用してもらえることになった。海外発送の多い有力ブランドは個別で割引レートを持っているケースもあるだろうが、小さなブランドにとってはこの差は大きいはず」と堀田。この物流部分のみでのメニューの切り出しも今後は考えていく。

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