ファッション

ステラ・マッカートニーが語る「喜びや希望を“注入”した」最新コレクション インタビュー前編

 「ステラ マッカートニー(STELLA McCARTNEY)」はこのほど2021年プレ・フォール・コレクションの公開に合わせてオンラインで各国メディアの個別インタビューに応じた。公開されたコレクションは楽観的でエネルギッシュな色使いが印象的で、スキーウエアの要素を取り入れたアクティブさとソフトな繊細さを併せ持つ。インスピレーションソースになったのは昨年発表したサステナビリティの新ビジョン“A to Zマニュフェスト”の“J is for Joy(喜び)”だ。

WWD:今、英国は3度目のロックダウン(都市封鎖)中ですが、どんな生活を?

ステラ・マッカートニー(以下、ステラ):田舎に持っている農場で、夫や子どもたちと一緒に過ごしているときと、ロンドンにいるときとがある。田舎にいるときは、子どもたちはリモートで学校の授業を受けていて、私は1日中Zoomで打ち合わせをしている感じね。コレクション作りに必要であればロンドンに行くけれど、場合によっては誰かが農場のほうに来てくれることもある。最初のロックダウンでは、コレクションの多くを農場に送ってもらって、私が一人でフィッティングをした。その後のロックダウンでは、新型コロナウイルスの検査を受けられるようになったし、ソーシャル・ディスタンシングも広まったので、少人数でスタジオに集まって作業できるようになった。特に色やファブリックなどに関する作業のときには、とても助かったわ。

WWD:21年プレ・フォール・コレクションは、“A to Zマニフェスト”の“J is for Joy”がインスピレーションでしたね。着たら踊りたくなるようなカラフルでアクティブなコレクションでした。

ステラ:今は世界中が不安や恐れに満ちていて、精神的につらい思いをしている人が多いでしょう?そんな暗い雰囲気に、喜びや希望を“注入”したいと思い「J is for Joy」を選んだの。色はデザインの大事な要素で、私は色を使うことが好き。明日はより明るくなると表現したかったし、人生の喜びを祝福したいという思いもあったから、カラフルなコレクションにしようと考えた。

一方で、自然や生命を大切にすることやサステナビリティにも引き続きフォーカスしているわ。今回のコレクションの80%はサステナブルな素材で作られているんだけど、これは今までで一番高い割合よ。なので、とてもカラフルであると同時に、非常に重要な課題にも取り組んだコレクションになっている。あまりにも鮮やかで美しい色をしているので、これらがリサイクルナイロンやオーガニックコットンで作られていると想像するのは難しいかもしれない。

WWD:80%がサステナブルな素材を用いたとのことですが、残りの20%は何が難しいのでしょう?

ステラ:いい質問ね。そもそも80%にすること自体がとても大変で、「ステラ マッカートニー」のように多くの商品を作りつつ、その80%をサステナブルな素材にできているメゾンやファッションブランドは世界でもほかにないと思う。これは素晴らしい成果であり、チームをとても誇りに思っている。この数値を達成するのは非常に難しくて、とてつもない献身(コミットメント)と意欲、それに多大な知識が必要だし、手間だってかかる。もう20年以上も取り組んでいるけれど、サプライヤーとの関係性も重要よ。新しい方法で生産することを考えたり、最新のテクノロジーを調べたりと、やらなければならないことがたくさんある。

私たちは余剰素材をたくさん使用しているほか、(エコペル(ECOPEL)社と)“コバ(KOBA)”という生分解性の高い人工ファー素材を独自に開発している。私にとって、こうしたファッションの未来を見据えた“ニューネス(新しさ)”は、デザイナーとしてシルエットやカラーパレットを作り出したりするのと同じぐらい、ファッショナブルでエキサイティングなこと。80%を達成するのは大変だったけれど、サステナビリティはブランドのあらゆる面で取り組んでいることであり、本当に(工程の)最初から最後までさまざまなことを実践している。環境再生型農業(regenerative organic)を推進したり、本社で利用するエネルギーについて考えたり、梱包をリサイクル素材にしたりなど、本当にいろいろなことを行っている。

残りの20%については、必要な素材が入手できなかったなど、さまざまな要因がある。例えば、(サステナビリティの観点から)難しい素材であるシルクは、今季は“ピースシルク(編集部注:基本的には商業シルクと同じ方法で生産されるが、絹糸は成虫が飛び去った後に木から採取されるため、蚕(成虫)が殺されることはない。しかし、この方法では絹糸が弱く切れてしまい、製品製造に求められる品質と量の調達は難しい)”と呼ばれるものを調達しようとしたけれど、さまざまな問題がまだある。いずれにしても、やはりどうしても完全にはサステナブルにできない部分がまだある。

今回、“100%リサイクルナイロン”などのメッセージを書いたウエアがいくつかある。ビーガン・シューズや、海洋プラスチックごみから作られたライニングが張られている“ファラベラ”バッグなどを購入する顧客は、明確な意志を持ってそれを選んでいるでしょう?つまり消費する、物を買うということは、消費者として意識的に選択をしていることだと思う。なので、環境問題を意識してこれを選んだということを周囲の人々やストリートで表明することが大切だと考えた。とてもパワフルなメッセージだと思うわ。

WWD:今回、バッグなどアクセサリーのボリュームが増え、ファラベラも進化を遂げたとか。

ステラ:“ファラベラ”のようなアイコニックなバッグがあるのはとても幸運だと思うし、それを常に再解釈してアップデートしたいと考えている。このバッグはエッジーでロックロールな雰囲気があると同時にソフトな感じもあり、「ステラ マッカートニー」というブランドを完璧に表しているわ。内側には海洋プラスチックごみを再生した素材を使用していて、完全にビーガンだし、今回はリサイクル可能なアルミニウム製のチェーンをつけた。定番商品も常に再解釈して新しくしているわ。

“新しさとはよりよい明日のために今日をデザインすること”

WWD:では次は“ニューネス(新しさ)”について。ファッションデザイナーにとって今、“新しさ”とは?

ステラ:“新しさ”は、物事の考え方や見方だと思う。「ステラ マッカートニー」では、それはテクノロジーだったり、よりよい明日のために今日をデザインすることだったりする。また、ほかの生き物と共存するこの世界を新たな目で見つめること、自然を祝福し大切にすること、自然の一部となって持続可能な方法で暮らすことなども含まれるし、ファッションやデザインの境界を押し広げつつ、消費者が欲しいと思う製品を作ることも含まれる。

今回のように、80%がサステナブルなコレクションを作るというのはまだとても新しいコンセプトだけれど、サステナビリティのためにデザインなどの面で一切妥協していないわ。とてもフレッシュで、現代的で、新しくて、踊りだしたくなるような服ばかりだけれど、環境保護を意識して調達および生産されている。こうした“善い”ビジネス、“地球に優しい”ビジネスであることと同時に、ファッショナブルで、クールで、エフォートレスであることが新しいと思う。ファッションが地球に最も害を与えるビジネスの一つであることからも分かるように、ほとんどのアパレル企業やブランドは環境のことなど考えていない。一方で、環境のことを考えているブランドは、あまりファッショナブルでなかったりする。ファッショナブルであることと、環境を意識していることが高いレベルで組み合わされていることが“新しさ”だと思う。

WWD:持続可能性とファッションを両立するときに大切にしていることは?また、苦労している点は?

ステラ:環境保護に本気で取り組みながら事業を行うのはとても大変なことだし、毎日がチャレンジの連続よ。これがもっと簡単にできるものなら、より多くの人々がやっていると思う。業界で前例のないことをしたり、大きな変化を起こしたりするためには、闘わなければならないことがたくさんある。アパレルブランドであれば、環境を意識すればするほど使える色や素材が限られてくるし、何でも好きにできるという柔軟性は失われる。「ステラ」では動物から取ったレザーやファー、フェザーなどは一切使っていないけれど、ラグジュアリー・ブランドとしてこれは異例のことで、ほかにそういうブランドはないと思う。

「ステラ」は糊もビーガンだし、こうした制約から縫製に使うミシンなども一般的なものとは違うので、スタッフを訓練しなくてはならない。“ファラベラ”は本革製ではないけれど、イタリアで最高の腕を持つ職人たちがいる最高の工場で生産しているので、彼らにも訓練を受けてもらう必要がある。ある意味では、生産におけるこれまでの歴史や常識を考え直してもらう感じになるし、こうした変化を起こすに当たっては抵抗されることもある。人は、必ずしも変化したがるわけではないから。

それに人々が環境保護の重要性に気づいたのは本当に最近のことなので、私はこれまでのキャリアの大半において、少しからかわれたり馬鹿にされたりしてきたと思う。でもこれは若者の未来にとってとても重要なことだし、将来も事業を継続したいのであれば、今から環境に優しくて持続可能な方法で製造し始めないといけないと多くの人々が気づいた。もちろん、それと同時にクールで、ファッショナブルで、魅力的な製品である必要がある。「ステラ マッカートニー」は、それを両立させている素晴らしいファッションブランドだと思っている。

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