※この記事は2020年12月11日に配信した、メールマガジン「エディターズレター(Editor's Letter)」のバックナンバーです。最新のレターを受け取るにはこちらから。
“大きく出たな”感、ダイスキ
「おお~、言うねぇ」。そう思うくらい、大それたコトを言うブランドが好きです。
例えば「スリー」は今秋、「ワールド・シチズン」をテーマにカラーコスメを発表しました。直訳すれば、「世界市民」。「人種や国籍、文化の違いを乗り越え、人として尊重される社会」を目指すための言葉はコロナ禍の今年、ウイルスが国境をやすやすと越え、国家単位ではどうにもならなくなった時、「ある国で生きる国民ではなく、世界で生きる市民としてのアイデンティティーが重要ではないのか?」などと脚光を浴びました。また、同じく秋に発売した香水は、ボトルに「Touching From A Distance」の言葉が刻印されています。直訳すれば、「ちょっと離れたところから、アナタに触れる」みたいなカンジでしょうか?やはり、新型コロナウイルスのパンデミックを想起させます。
2つのブランドのグローバル・クリエイティブ・ディレクターのRIEは、ニューヨーク在住です。今年は新型コロナやBLM、米大統領選挙など、激動の1年だったコトでしょう。とは言え、1コスメブランドが世界的問題に真正面からぶつかるのは、なかなか勇気がいることです。実際「スリー」のカラーコスメがどのくらい「世界市民」だったかと言えば、最もハッキリと片鱗を感じられるのは「あえての影色」で既成概念に基づく“らしさ”からの解放を願ったように思えるリップなど。「ファイブイズム バイ スリー」の香水は、「香りこそ、相手に触れず、相手を感じられる」と捉え、このようなメッセージにたどり着いたそうです。「世界市民」や「Touching From A Distance」の製品における表現は、決して強くありません。ゆえに「大げさだなぁ」なんて思うひともいるでしょう。
でも私は、スキです。カラーコスメも香水も、現代を生きる人々に贈るものです。それが現代社会と密接にリンクしているのは、当たり前。だったら、それを誇っていいじゃないか!と思います。むしろ、これだけの世界的イシューから目を背けたり、アイデアを盛り込んでいるのに謳わなかったりの方が不自然です。両ブランドの“大きく出たな”感は、愚直で、真剣で、直球なカンジ。だからスキなのです。
この業界には、どこまでもネガティブとのリンクを嫌う傾向があります。「コロナ」の言葉とともに紹介されること、「コロナ」によってビジネスに大きな影響が生じたこと、「コロナ」とブランドや企業の変化を結び付けられることを、必要以上に恐れたり、忌み嫌ったりする傾向があるようにカンジます。深読みしすぎているかもしれませんが、「スリー」や「ファイブイズム バイ スリー」は、そんな業界に一石を投じているような気もして、ますますスキなのです(笑)。
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