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TSI下地新社長、アパレル「作り過ぎ体質」からの決別宣言

 TSIホールディングスはきょう3月1日付で下地毅氏(56)が新社長に就任した。同社のトップは前社長の上田谷真一氏、その前の齋藤匡史氏と他業種で実績を重ねたプロ経営者を招聘してきた。下地氏は久々の内部登用、しかもTSIが2018年10月に買収した上野商会の出身であり、取締役になって1年にも満たない異例の抜擢だ。コロナ禍で21年2月期が営業赤字178億円の見通しの中、前任の上田谷氏は事業撤退や人員削減の痛みを伴う改革を断行した。再建を引き継ぐ下地氏に新生TSIが目指す姿を聞いた。

WWD:失礼ながら社長就任は意外だった。

下地毅社長(以下、下地):まあ、一般的な受け止め方はそうだろう。上野商会のTSI入りが決まった際、上野商会の社長だった長谷川(文彦)から「世代交代だ。次はお前がやれ」と言われて、上野商会の社長に就いた。そのあと(20年5月に)TSI本体の取締役営業本部長を拝命したが、アメカジ一筋だった私に50以上の多様なブランドを束ねるグループの経営陣として何ができるのか。

私に期待されていたのは、現場の意見を経営陣に忌憚なく届けることだと解釈した。生産、物流、店頭などの現場を歩き、そこで起きていることを(当時の)上田谷社長、三宅正彦会長、三宅孝彦副会長に遠慮なく進言した。上野商会は小さな会社だから若いときから何でもやらせてくれた。おかげでサプライチェーンを隅々まで勉強できた。ジャンルは違っても仕事の本質は変わらない。

WWD:TSIの中に入ってどんな問題意識を持ったか。

下地:アパレル市場は今後も構造的に厳しくなる。経営に求められるのは、そんな環境でも確実に利益を残すことだと強く感じた。私は長くモノ作りをしてきたので、商品ロスには注意を払ってきた。作り過ぎて残った商品を値引きで叩き売るのは、ブランディングの足を引っ張る最悪の手。TSIほどの規模になると、積もり積もって膨大なロスになっていた。

上野商会はだいぶ前から廃棄を禁止していた。天候や予測の甘さで残ることもある。売れ残ったら翌シーズンの商品発注をぐっと抑える。売り上げ減を心配して抵抗するマーチャンダイザーやバイヤーとは是々非々で意見を戦わせてきた。

上野商会はメンズのセレクトショップ「ロイヤルフラッシュ(ROYAL FLASH)」「ビーセカンド( ‎B’2ND)」、あるいは「アヴィレックス(AVIREX)」「ショット(SCHOTT)」といったキャラクターの強いブランドを展開してきた。卸業から創業した会社なので、婦人服小売業などが主体のTSIグループとは企業文化は違う。それを差し引いても商品発注が甘く思えて仕方なかった。

WWD:前任の上田谷氏も商品ロスが大きな課題だと強調してきた。

下地:上田谷さんとは危機感を共有してきた。私の方が少し過激だったかもしれない。それが最終的にお客さんのためになると信じているからだ。私たちは何のためにこの商売をしているか。ファッションの楽しさを伝え、お客さんに喜んでもらうためだ。その満足度で利益を得ている。せっかく買った商品がすぐに値引きされるのは悲しい。お祭りとして楽しみにしているお客さまもいるのでセールを全面否定はしない。でもいつの間にかECも含めてお祭りが常態化した。これではプロパーで買ってくれるお客さまを裏切ることになる。

いま社内の各所で炎上している

WWD:新社長としてどんな企業を目指すか。

下地:社会にとって有用な会社になる。良いものを作ってお客さまに喜んでもらう。がっかりさせない。世の中の役に立つ。幼稚じみているかもしれないが、これらを一つ一つ実現しないと未来はない。残念なことに株価やその他の指標を見ても今のTSIへの評価は高くない。もちろん事業会社やブランド単位では高い支持を頂いている例もある。問題はグループのポテンシャルを生かし切れていないことだ。

WWD:何から取り掛かる?

下地:繰り返しになるが、作り過ぎからの脱却だ。絞り込むには「自分たちのブランドはこれでいく」という方針を持ち、そこで勝負する。

WWD:そうは言っても「作らないと売り上げも減るよ」と社内で反対されないのか。

下地:さんざん言われている。今まさに説得している最中だ。社内の各所でぼうぼう炎上している。私が燃料を投げ込んでいるわけだが、燃え上がっていいと思う。

TSIには50を超えるブランドがある。マーケットポジションが重なっていたり、小さなカテゴリーなのに社内競合したりする例もまだある。ただ、ブランドを統廃合すれば済む話でもない。

よくないのは、それぞれのブランドがフルコーディネートで商品を作ってしまうこと。アパレルの品番を広げ過ぎたり、靴や鞄、革小物などを売り場を埋めるのに必要だから、客単価を上げるプラスアルファとして便利だからという理由で作る。お客さんには本気の商品と数合わせの商品が伝わる。結果としてたくさん残る。フルコーディネートしたければ専業メーカーから仕入れる割合を増やし、編集型のMDにした方がいい。

ブランドによってワンピースが得意だとか、ボトムスには自信があるとか、そういった専門分野を深掘りした方がブランディングにつながるし、お客さまから想起してもられるようになる。これはメンズの発想かもしれないし、全てのブランドには当てはまらないかもしれない。でも個々のブランドが自前でフルコーディネートすることに固執するあまり、グループとしてみれば膨大なロスを生み出している現状は変えなければいけない。

WWD:コロナを受けて20-21年秋冬は商品量を約3割減らした。

下地:今後もコロナ前に比べれば3割程度抑える。まずはそれぞれのブランドが売り場のスペースを埋める発想ではなく、商品構成を絞って面白さが煮詰まった状態にする。もしスペースが余ってしまうのであれば、いろいろな企業と協業する場所にすればよい。本だったり食器だったり、あるいはデジタルのサービス拠点だったり、ブランドとのシナジーが見込める異業種はたくさんあるはず。リアル店舗の商品量を減らす分、ECをはじめとしたデジタル部門を強化して、新しいお客さまとの接点を広げて購買に結びつける。

デジタルをグループ再編後の共通言語にする

WWD:デジタルをどう活用するか。

下地:デジタルを新生TSIの共通言語にする。当社は今期(22年2月期)と来期(23年2月期)の2段階に分けて、持ち株会社の下にある事業会社の3分の2(14社)を統合する。これまでのTSIは乱暴にいえば商店街のような個店の集まりだった。事業会社ごとに企業文化が違い、インフラもそれぞれだった。データも共有されていない。統合を機にデジタルのプラットフォームを共有し、ブランドが個性を持ちながらもグループとして的確な手が打てるようにする。先行して昨年9月から約180人のデジタルチームが稼働している。

事業会社ごとに縦割りだったサプライチェーン、経理、マーケティング、店舗開発、さらに店舗運営も横串で一元管理する。店舗ではこれまで事業会社が違うとフォローが十分にできなかった。例えばあるエリアの店舗で販売員が不足したら別の店舗からフォローできるようになるし、年齢を重ねて別のブランドに異動したくなったらそれにも対応できる。TSIには全国に約5000人の従業員がいる。販売員がそれぞれのライフステージ合わせて働きやすい環境を整えたい。

WWD:自社ECモール「ミックスドットトーキョー(MIX.TOKYO)」を、店舗スタッフのコーディネート投稿をメインコンテンツに据えてリニューアルする。

下地:サードパーティ(ゾゾタウンをはじめとした外部のECモール)とは違う形でTSI独自のコンテンツを強くする。すでにSNSでのスタッフ投稿を経由した売り上げは自社EC売上高の約35%を占めており、購買の決め手になることは明らかだ。デジタル上での1対1のサービスもさらに充実させる。

現在のEC化率は30%前後。スニーカーに強いスタージョイナスは50%を超える。ただ、リアル店舗の販売員の重要性はますます高まる。ユニファイドコマース(蓄積されたデータを元に顧客一人一人にあったショッピング体験を提供すること)が注目されているが、オンラインだけでできることは限られていて、リアル店舗の人の力が陰の力になっているのはSNSだけではない。コロナが収束すれば、リアルの場で人とのコミュニケーションを求める機運が高まる。

WWD:新しい取り組みも考えているか。

下地:まだ私の構想段階だが、リサイクルセンターを作りたい。米沢と宮崎の自社工場を活用して、作りっぱなしではなく回収・再生して次世代に服のバトンをつなげる拠点にする。店頭のお客さまから回収した古着、それに当社の旧品を廃棄しないでリサイクルセンターに持っていき、アップサイクルして新しい価値を付加したり、あるいは素材として再利用できるものはそちらに回す。こういったことは当社のような大手が率先すべき。実現できる背景を持っているのだから。

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