クラウドファンディングプラットフォームの「マクアケ(MAKUAKE)」で 3月2日現在、“いつでも、どこでも着られる”と銘打ったセットアップの販売プロジェクトが資金調達を行っている。調達金額はすでに目標の2倍を超えた。
「レシー(LESSY)」と銘打ったこのプロジェクトは、かつて1970年代のDCブランドブームの一角を担った老舗アパレル企業テットオムと、インスタグラムを中心に活動するファッションインフルエンサーの中田和真さんの協業によるもの。企画第一弾として仕込んだのがこのセットアップだ。
商品企画ではテットオムのアパレルメーカーとしての知見と、中田さんの感度をうまく同居させた。1950年代の米軍のパジャマをベースにしたシャツは、ゆったりとしたトレンドシルエットに修正。生地は尾州(愛知県一宮市)の高密度なウオッシャブルウールを使用し、しなやかな質感や素材本来の防汚性を生かした、外で着てもサマになるワンマイルウエアだ。
自宅に帰ってきてからも、洗い物などで腕まくりをしやすいよう計算された袖の折り返し幅、ベッドに寝転んでも不快感を感じないよう採用した、ベビー服用の小さめのボタンなどの工夫が生きる。体に負担をかけないための緩めのウエストゴム、ワンタッチで丈の長さが調節ができるアジャスターなども、試着と修正を繰り返して生まれたアイデア。アシンメトリーな前身頃のデザインやバンドカラーのデザインは中田さんの提案だ。
テットオムがインフルエンサーとタッグを組むのは、今回が初めて。中田さんはインスタグラムでフォロワー1万人。インフルエンサーの中では比較的限定的な規模だが、テットオムはなぜ協業相手に選んだのか。「インスタグラムのSNSプラットフォームとしての成長に伴い、インフルエンサーはどんどん巨大化・飽和している。ファンの顔も見えなくなっているのではないか」と、テットオム側の仕掛け人である白井隆事業部長は語る。「いわゆるインフルエンサーブランドも、本来彼らの強みであったはずの、ファンの“生の声”を反映させた商品開発は難しくなっている。比ベて、彼(中田さん)はファンの顔も、彼らの必要としている服もくっきり見えていた」。商品企画にあたっては、中田さんのフォロワーへのアンケートなどを通じ、意見を反映していった。
普段はウェブマーケティングの企業に勤務している中田さん。「僕よりも規模が大きいファッションのインフルエンサーはいくらでもいる。だから、よそ行き『以外』の服を充実させようと思ったんです。このセットアップはオシャレよりも“課題解決”のような感覚で作りました」と振り返る。「僕の(フォロワーを含めた)周りの感覚だと、外に出る時のコーディネートを考えるのに少し疲れている人が多いように感じます。一方で、家の中ではクローゼットの2軍とか古着とかテンションの上がらない服を着ている。その両方を解決できるのは、何も考えずに着てもサマになって、家でも外でも気分を上げてくれる、ちょっと贅沢なセットアップだったんです」。
セットアップの上代設定は2万5000円。白井事業部長は「実際、売れてももうけはほとんど出ない」と笑うが、プロジェクトにより得られた成果は、すでにそれを補ってあまりあるようだ。白井氏は35歳の若さで、この春からブランド事業全体を統括する立場につき、社内の枠組みを超えて新しいビジネスの可能性を模索してきた。今回の取り組みは、白井氏の個人的なつながりの飲み会がきっかけで始まったものだ。「僕らのような老舗だからこそ、フットワーク軽く取り組んでみるということが本当に大事だなと実感する。取り組みとしてはまだまだ小粒だけれど、彼を通じて消費者の“生の声”を聞けたことで、次回のプロジェクトはもちろん、自社の商品企画にもつながる学びがきっとあるはずだ」。