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YKKが“新常態”に向け大改革、定年廃止に組織再編、ファスナー機の新機種投入など

 YKKは、ファスニング事業で大掛かりな改革に取り組む。長らく事業本部と機械の開発・製造を行う工機技術本部に分かれていた組織を統合し、製版一体型の組織に改編するほか、グループ全体では人事制度を見直し、定年を撤廃する。3日にオンラインで会見を行った大谷裕明YKK社長は「先行きを見通すことは難しいが、新型コロナをきっかけに、ライフスタイルが変わり、これまでのように誰もが多くの服を買わなくなる可能性がある。そうなればこれまで成長を続けてきた世界のアパレル産業も需要の減少に直面する」と危機感をあらわにする。世界中のアパレルにファスナーを供給する巨人YKKは、コロナ後の“新常態”に大きく舵を切る。

 2021年3月期のファスニング事業の業績は、売上高が前期比19.9%減の2420億円、営業利益が同69.3%減の111億円、ファスナーの販売数量は同19.9%減の76億4000万本にとどまる見通し。20年3月期も暖冬の影響で大幅減益を強いられており、2年連続の減益になる。大谷社長は「年間で売り上げの山が一番大きな4〜6月に売上高が前年比42%減と、新型コロナ禍の影響を大きく受けた。その後は尻上がりに業績を戻したものの、全体を挽回するまでには至らなかった。市場環境は、新型コロナに加え、2年連続の暖冬による冬物不振、米中貿易摩擦など、マイナスの影響も大きかった。ただ、当社も市況の低迷時にも量的成長を実現できるコスト競争力が不足していた」と振り返る。

 こうした状況に対応するため21年度からは、これまでファスニング事業本部と工機技術本部に分かれていた組織を統合。ファスニング機械の研究開発部門の「テクノロジーイノベーションセンター(TIC)」を新設する一方、営業本部の下に商品開発機能を統合する。YKKはファスナーの生産機械や設備も自社で設計・開発・生産を行っており、事業本部とは独立した工機技術本部がそれらを担っており、それが競合他社を寄せ付けない圧倒的な商品力の高さを支えてきた。だが「例えばこれまでは新たなファスニングマシンを開発しても同一の最新機種を全世界に配置してきたが、本来は用途や地域によって求められる機械やリードタイムは異なっていた。組織を統合することで、これからは各地域の特性に応じた機種を開発するなど、コスト競争力と納品スピードを徹底的に追求する」という。ファスナー機械単体の性能はすでに世界最高水準に達していると見られるが、市場構造の変化にキャッチアップすべく、さらなる高みを目指す。

 また、これまで日本、北中米、南米、EMEA(欧州・中東・アフリカ地域)、中国、アジアという6極に分かれていたグローバル経営体制も、東アジア(日本など)、AMERICAS(アメリカ大陸全域/北中米・南米)、EMEA、ASAO(ASEAN・南アジア・太平洋地域)、中国の5極体制に再編する。

 同社が掲げるのは、「最もボリュームのある商品カテゴリーで、より良いものをより安く、より早くそしてサステナブルに提供すること」。コスト競争力と開発と納品スピードを高める一方で、サステナブル経営にも注力する。2050年までに「気候中立(カーボンニュートラル、排出の実質ゼロ)を目指し、「気候」「資源」「水」「化学物質」「人権」の5テーマを設け、2030年までに繊維材料を100%持続可能素材への変更、2030年までに温室効果ガスを2018年比で50%削減し、50年までにゼロなどの施策を掲げる。

 YKKグループ全体で21年4月から導入する新人事制度では、これまで行ってきた定年延長をさらに推し進め、定年そのものを廃止する。猿丸雅之代表取締役会長は「目的は社員が年齢、性別、学歴、国籍にとらわれない、役割を軸にした人事制度を実現すること。退職時期に関しても社員が自分で決める」と話す。定年という概念がなくなるため、役割が変わらなければ給与も変わらなくなる。

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