「金属アレルギーの人の助けになるジュエリーを作りたい」――「アヤミ ジュエリー(AYAMI JEWELRY)」を手掛けるジュエリーデザイナーの宗形あやみは、99.9%の純銀にこだわったジュエリーブランド「サラース(SARARTH)」を立ち上げ、4月30日に自社ECで発売する。これまで、シルバーの高純度と高硬度を両立するのは難しいとされていたが、その加工技術を開発して特許を取得。宗形の両親はジュエリーの製造・販売を行うミスティーコレクションを営んでおり、同社が「アヤミ ジュエリー」を手掛けている。宗形は大手SPA傘下のアクセサリーブランドのデザイナーとしても活躍しているが、「サラース」立ち上げを機に、家業に専念する。
WWD:「サラース」を立ち上げたきっかけは?
宗形あやみデザイナー(以下、宗形):実は私自身金属アレルギーなんです。同じ境遇の人の助けになるジュエリーが作りたいと3年前から本格的に金属アレルギーについて調べ始めました。どうにかできるんじゃないかと。そうすると、純銀が肌に優しい貴金属であることを知ると同時に、ジュエリーとして純銀を用いるには硬さが必要であることも分かりました。一般的には銅などを混ぜて合金化することで硬度を出しますが、それにより金属アレルギーが引き起こされる可能性があるんです。そのため、ピュアなまま硬度を保つための研究開発を兄(家業を継いだ宗形幸太郎代表)と長年一緒に取り組んでいた職人さんとともに始めました。1年に及ぶ試行錯誤の結果、独自の表面硬化処理方法を発見。純銀を一般的な銀製品(SV925合金)やプラチナ製品(Pt950合金)と同等の硬度を維持することに成功しました。
WWD:高純度・高硬度の両立は初めての技術ということでしょうか。
宗形:そうです。一般的に、金属加工では純銀は硬くなっても自然に戻ってしまうと言われていますが、この製法で作った純銀は元の硬さに戻りません。研究所や専門家にも相談してみたところ、口をそろえて不思議な現象だと言われ、これで私と同じ境遇の方たちの助けになるかもしれない!と、運命のように感じ、ブランドを立ち上げようと決心しました。
WWD:ブランドコンセプトを“PURE SILVER FOR SKIN, PURE LIGHT FOR ALL”とした意図は?
宗形:高純度のシルバーで肌に寄り添う光、を提案したいという思いを込めました。純銀は肌に優しい鉱物であり、地球が私たちに授けてくれたものでもあります。シルバーはこれまで山を切り崩して採掘されていたけれど、これ以上、山を崩すことのない仕組みを作りたいとも考えています。
WWD:シルバーの調達先は?
宗形:一般家庭や企業から出た家電からリサイクルしたシルバーなどリサイクルシルバーを使用しています。
WWD:これまでなかった純銀を加工するのは難しいのでは?
宗形:鋳造も磨きも一般的なSV925合金の常識が通用しないため、安定的に量産できるまでにとても時間がかかりました。ピアスポストを取り付けるには溶接材(ろう材)が必要ですが、これを使用すると製品の純度が落ちてしまいます。そのため、ピアスポストは宝石の石留めをの技術を使用しています。とても手間がかかりますが、こだわりの一つです。チェーンは、まだ一種類しか作れていないので、デザインの幅を広げるのも今後の課題です。
WWD:これまでに扱ったことがない素材だと、生産体制を整えることも大変そうですね。
宗形:はい。一般的な銀合金に使用される銅は、そばでいうところのつなぎ粉のような役目を持っています。純銀の製造は十割そばのように素材に滑らかさを持たせることができません。そのため、一つの製品を作る際に最低4つは鋳造してその中で最も質が良いものだけを使用しています。
WWD:デザインへのこだわりは?
宗形:ピュアな鏡面を生かすほかにないデザインを目指しました。「サラース」は全てを映し出すピュアな鏡のように見るままの世界を映し出します。“自然の光が映し出されて輝く”というコンセプトを表現したいと思いました。自然の荒々しさのような強さ感じられるラインと地球を優しさで包み込むような花などの植物の生命の宿りから着想を得た丸みを帯びたフォールム。この2つの思いを込めてデザインしています。
WWD:鏡面のような輝きはどのように出すのですか?
宗形:純銀は鋳造と同じぐらいに磨くことも難しい素材です。純銀を鏡面加工することは熟練の職人のみが可能にしてくれます。
WWD:この輝きはキープできるのですか?
宗形:家庭用の中性洗剤で洗えば、輝きは戻ります。硬度が高いとはいえ、シルバーなので傷付きやすく、傷も味として楽しんでもらえればうれしいです。
WWD:パッケージにもこだわったとか?
宗形:プラスチックは不使用、包装紙やパッケージ類は環境への負荷に配慮し全て自然由来の環境対応紙を使用しています。紙素材でどのような表現ができるのかと考え、紙に精通した京都西陣の「かみ添」店主、嘉戸浩(かど・こう)氏に純銀をイメージした唐紙の作品を依頼しました。穏やかな質感や光を受けて輝く雲母(きら)の美しさを手に取ったときに感じてもらいたいです。
WWD:不要になったジュエリーを引き取る還元プログラムもあるとか?
宗形:金属アレルギーで付けられないなど不要になったジュエリーを送っていただければ、「サラース」購入時に使用できるポイントとして還元します。回収したジュエリーは、買取業者を通じて換金され、日本自然保護協会が行っている絶滅危惧種や自然環境を守る活動に役立てられます。シルバーはこれまで山を切り崩されてて採掘されていたけれど、これ以上山を崩すことのない仕組みを作りたい。また、回収したジュエリーのシルバーに関しては、ゆくゆくは、新たな「サラース」のために活用できればとも考えています。
WWD:今後の展望は?
宗形:他業種に高硬度の純銀を活用できないか模索するつもりです。業界問わず、工業系やカトラリー業界なのかもしれないですし、面白いと思っていただき、私たちのピュアシルバーに救われる方がいるならば率先してさまざまな領域に役立てたいです。