サステナビリティ
連載 教えて!パタゴニアさん

教えて!パタゴニアさん 連載第6回 店舗やオフィスでできること

 サステナビリティ先進企業のパタゴニアの担当者にその取り組みを聞く連載第6回。カーボンニュートラルへの取り組みや廃棄物削減は、あらゆる企業にとって大きな課題になっています。パタゴニアは2025年までにカーボンニュートラルになると宣言し、目標達成に向けて店舗や事務所での取り組みも強化しています。篠健司環境社会部ブランド・レスポンシビリティ・マネージャーに聞きます。

WWD:パタゴニアは2025年までにサプライチェーン全体でカーボンニュートラルになると宣言していますが、そのために店舗や事務所で行っていることを教えてください。

篠健司環境社会部ブランド・レスポンシビリティ・マネージャー(以下、篠):世界中に所有・運営するストアや事務所で使用する電力を、100%再生可能エネルギーから調達する目標を立てました。この目標を達成するためには、電力消費そのものを削減するために運営効率を向上した上で、電力会社を変更し、再生可能エネルギーに投資する必要があります。

WWD:日本支社で取り組んでいることは?

篠:一部の店舗やオフィスにおいて再生可能エネルギー発電所に由来する電気の比率がより高い電力会社に変更しました。一方で、マルチテナントビルに入居している施設の電力会社の変更にはビルオーナーの協力が必要で、現在働きかけを進めています。

WWD:再生可能エネルギーに由来する電気に切り替えることが困難な施設があるとも聞きます。

篠:そうした施設で使用する電気については、その相当量を相殺できる電気を発電する新たな太陽光発電プロジェクトに投資しています。私たちは、営農しながら太陽光発電を行うことのできる「ソーラーシェアリング」を選びました。ソーラーシェアリングは既存の場所の従来の用途を持続でき、中でも農業とクリーンなエネルギーの発電が共存する営農型太陽光発電は、化石燃料への依存を減らし、健康的な食料を供給しながら地域社会に多様なメリットをもたらします。大規模な森林伐採などの自然破壊を伴うメガソーラー発電とは異なり、既存の農地を活用することで生態系に対する影響を最小限に抑え、有機農業と組み合わせることにより地域社会や環境面で利益をもたらすことができます。

WWD:千葉県匝瑳市のソーラーシェアリングに参加されましたね。

篠:ここで発電した電気は、国内最大規模の直営店である渋谷ストアの年間電力使用量をほぼ賄っています。匝瑳市でより規模の大きいプロジェクトに、また、兵庫県豊岡市で4つのソーラーシェアリングに参加しています。

WWD:コウノトリの野生復帰を果たした兵庫県豊岡市で有機農法「コウノトリ育む農法」による米作りを行う坪口農事未来研究所のソーラーシェアリングにも投資されました。

篠:現在、坪口農事未来研究所では5基のソーラーシェアリングによって、月平均26.447kwの電力を発電しています。これは約107世帯分の家庭の電気使用量に相当します。いずれのプロジェクトも、太陽光パネルの下では有機農業が営まれ、クリーンな電気だけでなく、2次的、3次的な社会的ベネフィットを生み出しています。

WWD:2次的、3次的なベネフィットを生まないとカーボンニュートラル実現への道は険しいということでしょうか。

篠:CO2排出を削減するためには、店舗やオフィスを再生可能エネルギーに由来する電気に切り替えるだけでなく、リサイクル素材や炭素を土壌に隔離するリジェネラティブ・オーガニック農法で栽培したコットンの採用などにより、パタゴニアの総排出量の97%を占める製品サプライチェーンの圧倒的な影響を軽減する必要があります。カーボンニュートラルを25年までに達成するという目標は、最終的には、排出量をオフセットすることへの依存を減らし、いずれは排出量全体をゼロにすることを目指しています。

関内店から始まったゼロウエイストの取り組み

WWD:ゼロウエイスト(廃棄ゼロ)への取り組みはどのようなことを行っていますか?

篠:まず、廃棄物に関して世界規模でみると25年までに人間は毎年22億トンの廃棄物を発生させると科学者は予想しています。そのうちリサイクルやコンポスト(堆肥化)にされるのは平均でわずか35%、ほとんどが埋立地や焼却炉行き、またはポイ捨てされ、やがてお気に入りのサーフブレイクなどに漂着することになります。

私たちは長い間、再利用可能なカップやお皿や再生紙の使用、コンポストとリサイクルのための分別容器の増設、製品やサンプルの梱包用ポリ袋のリサイクル・システムなどにより、ごみ箱行きとなるものの削減に取り組んできました。しかしそれでは不十分で、さらに改善できることも知っています。

WWD:具体的にどのようなことを行っていますか?

篠:日本支社でのゼロウエイストに向けた一歩は、2017年横浜・関内ストアのスタッフが自主的に開催した海洋プラスチックごみの勉強会から始まりました。最初のプロジェクトは、スタッフ一人一人が、海洋ごみの中でも最も多い使い捨てのレジ袋、ペットボトル、ストロー、飲料カップの使用をやめる自主宣言を事務所に掲示し、ゼロウエイストに関する日々の会話を奨励することでした。
そして、その年の店舗改装を機に、横浜・関内ストアのコミュニケーション・スペースに「ZERO WASTE(ゼロウエイスト)」のメッセージとともに行動リストを掲示しました。店頭ではお客さまへのマイバッグ持参の呼びかけに一層力を入れ、取引先と交渉して環境に配慮した洗剤の量り売りを開始しました。18年からは近隣の有機農家の方々やお店と協力してゼロウェイスト・マーケットを定期的に開催し、ごみを出さないライフスタイルのヒントを提供してきました。

WWD:店舗運営で行っていることは?

篠:事業系ごみを徹底的に分別することで排出源を特定し、関係部署に素材やオペレーションの変更を働きかけています。プラスチック梱包材からテープまで、リユースやリサイクルが難しいありとあらゆる資材が含まれています。その一部は、関係部署、お取引先の協力によってプラスチック素材から紙素材に変更するなど前進しています。また、新型コロナウイルス感染症対策の影響で開始は延期されましたが、昨年秋からパタゴニア直営店全店で持ち帰り袋の提供を廃止しました。

横浜・関内ストアのスタッフの問題意識から始まったゼロウエイストの取り組みは他ストアやオフィス、US本社にも波及しています。日本支社のオフィスでは19年、有志による廃棄物の現状把握と、どうすればゼロウエイストを達成できるのかを分析、実践を始めています。またオンライン・セッションを開催し、多くのスタッフがそれぞれの業務、そして日常生活でゼロウエイストに向かって行動を始めています。

答えてくれた人:篠健司(しの・けんじ)/環境社会部ブランド・レスポンシビリティ・マネージャー:東京生まれ。1988年、パタゴニア日本支社設立直後に入社。広報、店舗運営を経て99年に退職。2001年に再入社し、物流部門、環境担当を経て現在はサステナビリティ業務を担当。好きなアウトドアアクティビティは、美しい自然の中を走るトレイルランニング。日常的に可能な限りの脱プラに取り組む。10年以上、ペットボトル飲料は購入していない

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