コロナ禍が続く中、米国でアジア系住民に対するヘイトクライム(憎悪犯罪)が激増している。人種差別的な暴言や嫌がらせ行為のほか、身体的な暴力を受けたというケースも少なくない。
米国のアジア太平洋諸島系の住民に対するヘイトクライムを調査する団体、ストップAAPIヘイト(Stop AAPI Hate)によれば、2020年3月19日の設立から21年2月28日までの間に、3795件の事案が報告されている。女性の被害者数は、男性の2.3倍に上るという。
ニューヨーク市警察(New York City Police Department)によるデータによれば、20年にはアジア系住民へのヘイトクライムが前年のおよそ20倍発生。国際連合(United Nations)の調査では、20年3月から5月の間に全米で同様の事件が約1800件起きている。
また3月16日には、米アトランタ州のマッサージ店が連続で銃撃され、6人のアジア系女性を含む8人が死亡した。地元の警察当局は、拘束した白人男性のロバート・ロング(Robert Long)容疑者は犯行を認めているが、動機を見極めるのは時期尚早だとしている。
こうした一連の事件を受け、ジョー・バイデン(Joe Biden)米大統領や、ジャマイカ系とインド系のルーツを持つカマラ・ハリス(Kamala Harris)米副大統領をはじめ、各界から懸念の声が相次いでいる。ツイッター(Twitter)では、アジア系住民への差別に抗議するハッシュタグ「#StopAsianHate」が多数投稿およびリツイートされた。
多様性や包括性を掲げるブランドも多いファッション業界では、「ナイキ(NIKE)」「トミー ヒルフィガー(TOMMY HILFIGER)」「ケイト・スペード ニューヨーク(KATE SPADE NEW YORK)」「トリー バーチ(TORY BURCH)」「オスカー デ ラ レンタ(OSCAR DE LA RENTA)」「キャロリーナ ヘレラ(CAROLINA HERRERA)」「ヴァレンティノ(VALENTINO)」「アディダス(ADIDAS)」「コンバース(CONVERSE)」などに加えて、アメリカファッション協議会(COUNCIL OF FASHION DESIGNERS OF AMERICA)が、そしてビューティ業界では資生堂のアメリカ地域本社であり連結子会社のシセイドウ アメリカズ コーポレーション(SHISEIDO AMERICAS CORPORATION)などが、それぞれのインスタグラム公式アカウントに「#StopAsianHate」と書かれた画像などを投稿してアジア系コミュニティーへの連帯を表明している。
アジア系のルーツを持つデザイナーらは、どのように受け止めているのだろうか。ネパール系アメリカ人で、自身の名前を冠するブランドを持つプラバル・グルン(Prabal Gurung)は、2月20日にニューヨークで行われたアジア系に対する差別反対デモに参加した。「特定のグループに対する暴力は、それが何であれ全て人権問題だ。ファッション業界は“ウオーク(Woke、社会問題などに目覚めている)”だと自認しているし、世界中にいる何十億もの人々に影響を与えられる力を持っている。差別や人権問題に対して声を上げ、抗議を支援するのは業界の責任だと思う」と語った。
「ジェイソン ウー(JASON WU)」を率いるジェイソン・ウーは、台湾生まれのカナダ育ち。同氏は2月24日付の米「WWD」で、「私が若い頃、キャンペーンに起用されるのはほとんどが白人モデルだったし、私もありのままの自分を受け入れるまでにかなりの時間を要した。パンデミックの発生以降、アジア系への人種差別について自分のインスタグラムでは発信してきたが、メディアで話すのはこれが初めてだ」と述べ、主要メディアでもっと取り上げられるべき事柄ではないかと示唆。「ファッションおよびビューティ業界は、アジア系へのヘイトクライムについてオープンに話し合えるよう支援し、多様性を促進すると同時に、(アジアなどの)異なる文化的背景を持つ人々が自信を持てるよう手助けをするべきだ」とコメントした。
中国系アメリカ人で、「3.1 フィリップ リム(3.1 PHILLIP LIM)」を率いるフィリップ・リムは、自身のインスタグラムで、アジア系住民に対するヘイトクライムに抗議する投稿を多数行っている。同じく2月24日付の米「WWD」によれば、同氏は「今日の世界では、自分の信念と行動を別物として扱うことはできない。私はファッションデザイナーだ。しかし何よりもまず、人間だ」との声明を発表している。