米ファストファッションチェーン「フォーエバー21(FOREVER 21)」は、破綻後初めての店舗をニューヨーク州ヨンカーズ市のモール内にオープンした。同社は2019年9月、日本の民事再生法に当たる連邦破産法11条の適用を申請。10月末には日本国内の全14店舗とオンラインサイトを閉鎖し、日本事業も撤退した。アメリカでのビジネスを中心に破綻からの再生を計っていたところに新型コロナのパンデミックとなった。しかし現在、新たなビジネスモデルとともに、業績は以前より回復傾向にあるという。
「フォーエバー21」は破産申請して以来、5カ月の間にオフィススタッフの数を900人から450人に、店舗は550店から410店にそれぞれ減らした。20年2月には事業再建に向けてバーニーズ ニューヨーク(BARNEYS NEW YORK)の親会社、オーセンティックブランズグループ(AUTHENTIC BRANDS GROUP)などによる3社連合への売却が決定。同時にECプラットフォームの開発を主導するなどしてH&Mの北米事業を大きく成長に導いたダニエル・クレ(Daniel Kulle)前H&Mヘネス・アンド・マウリッツ(H&M HENNES & MAURITZ以下、H&M)北米事業プレジデントを最高経営責任者(CEO)に任命して新体制を整えた。
クレCEOは前職任期中に600店のオープンを指揮したほか、米国、カナダ、メキシコをカバーする統合されたECプラットフォームの開発を主導し、北米事業の売上高を10億ドル(約1000億円)から40億ドル(約4300億円)規模へと成長させた経営手腕を持つ。その業績に目をつけ、3社連合のうちの一社である、モール家主の米不動産投資信託会社のサイモン・プロパティー・グループ(SIMON PROPERTY GROUP)のデイビット・サイモン(David Simon)CEOが同氏にアプローチをかけた。
「22日、金曜日に退任してすぐ翌週の月曜日にはロサンゼルスに引っ越し、火曜日にCEOとしてのスタートをきった。私が『フォーエバー21』に加わった時、創業者であり経営を担っていたドン・チャン(Do Won Chang)とジン・チャン(Jin Sook Chang)夫妻が去ったので、経営幹部が誰もいない状態だった。そして就任して4週間後の3月末には、ロックダウンでほぼ全ての店舗が閉店していた」とクレCEO。
ロックダウンによる店舗休業は小売業界全体に大きな打撃となり、「フォーエバー21」も新たに150人の従業員の解雇をした。商品調達先や不安を抱えるスタッフにはブランドの再建計画を示しながら、「われわれを信じてほしい。今は堪えて、みんなで手を取り合うときだ」と説いた。すでに大きな負債を抱えていたJ.Cペニー(J.C.PENNY)やニーマン・マーカス(NEIMAN MARCUS)は破綻を免れなかったが、フォーエバー21はすでに破綻して負債を整理し、ビジネスを大幅に縮小していたこともあって危機を乗り越えられたと言う。
コロナ禍で強制的に変化を強いられる事態でもあったが、クレCEOはこの機会に「フォーエバー21」のビジネスをアップデートし、新しい時代に向けて刷新することを決意した。クレCEOによる再建計画では、商品調達先との関係をリセットし、不動産から店舗運営、新しい倉庫の設置までを見直すことに焦点を当てた。「そうするほかなかった」と言うが、同ブランドは今もビジネスの支えとなっている大規模な店舗を複数持ち、モールなどの商業施設の一角を担う。「そこにおくべき適切な製品を見つけて、ワクワクするファッションを提供する。サプライヤーに寄り添って不安を解消する。会社の方針を見直してみる、といった手順を踏んだ。多くの人はわれわれが破産して業界からいなくなったと思っているので、オープンして前を向いていることを伝えなくてはならない」と述べ、消費者を再び夢中にさせることを目指していると言う。
「フォーエバー21」の特徴である手頃な価格での店頭販売は変わらず、ベーシックなアイテムは3.99ドル(約430円)からそろえる。しかし新体制のもとでは、新たに99.99ドル(約1万700円)のフーディなど、これまでよりも高額な商品も発売。メンズウエアやスポーツ・ラウンジウエアにも焦点を当て、価格やデザインを見直すという。20年のホリデーシーズン中には、アイテムの購入が寄付につながるキャンペーンも実施した。ほかにも、アメリカの黒人歴史月間(2月1日〜3月1日)や、女性史月間(3月1日〜4月1日)に関連するキャンペーンも登場。社会貢献に結びつけたキャンペーンは小売業界ではたびたび見られるアプローチだが、「フォーエバー21」にとっては全く新しい視点だ。同様にサステナビリティへの強い関心を表明し、今3月末にはベーシックアイテムにオーガニックコットンを使うプログラムを導入する。
デジタルの分野でも改革を推し進めており、ファッション業界の中でもいち早く旬のトレンドを捉え、商品開発につなげてきた「フォーエバー21」の強みを生かす。「ECを通じて消費者にリーチし、店頭かECでの購買につなげる。統合された“オムニ体験”を構築しなければいけない」と語った。