ナイキ(NIKE)は、独自のソーシャルコマース・アプリ「ナッシング・バット・ゴールド(NOTHING BUT GOLD)」のローンチを告知するウェブページを開設し、ベータ版の試用希望者を募った。実験的試みとなる今回のプロジェクトでは、若い女性たちを対象にナイキのコミュニティー構築を図る。同社はウェブサイト上で、「『ナッシング・バット・ゴールド』に参加してナイキと共に未来を作ろう」と呼びかけており、参加希望者はリンク付けされた同アプリの公式インスタグラムにダイレクトメッセージを送る。またウェブページの上部には、“GOOD VIBES ONLY”や“Surround yourself with love”といったポジティブなワードが流れるバナーも表示されている。
「ナッシング・バット・ゴールド」はスポーツ、生活スタイル、セルフケアに特化しているが、そのほかの詳細は明らかにされていない。同アプリのインスタグラム公式アカウントのフォロワー数は4月1日現在9000超で、ナイキの公式アカウントは1億4000万超、ナイキ・ウーマンの公式アカウントは750万ほどとなっている。
同アプリについてナイキからのコメントは得られていないが、関連の求人情報を見る限りでは、ナイキがZ世代がすでにショッピングなどに利用しているインスタグラムやティックトック(TikTok)と同様の仕組みのブランドスペースを構築しようとしていることは明らかだ。
求人情報によると、「ナッシング・バット・ゴールド」はナイキのチーフ・サステナビリティ ・オフィサーを務めていたハンナ・ジョーンズ(Hannah Jones)が2018年に立ち上げた同社のビジネス・インキュベーション部門、バリアント・ラボ(Valiant Labs)から生まれたプロジェクトで、発足後約3年にして初めて一般向けにローンチすることとなる。
また現在ナイキは、“女の子のためにショッピングの未来を創る”ことを使命としており、同アプリを“組織内でソーシャルコマースを手掛けるためのモバイルアプリ”と位置付けている。なお現段階では、スポーツ、生活スタイル、活発さ、マインドフルネスといったテーマをミックスしており、若い女性たちがナイキの製品を購入する際に、ほかのユーザーのコーディネートを参考にすることでインスピレーションを得ることができるとしている。
ナイキがアプリのコンテンツ制作のためにクリエイターやインフルエンサーを探しているのは明白だが、報酬に関しては一切言及されていない。同社は広告に巨額の費用を投資して収益を得ているため、アプリの正式ローンチ以降は知名度の高いセレブリティーやインフルエンサーを起用する可能性もある。なお同社は20年に、約36億ドル(約3924億円)をマーケティングに投じている。
ナイキは15年にショッピング専用の公式アプリ「スニーカーズ(SNKRS)」を立ち上げて、限定商品や新作シューズの販売を行ってきた。同社はこうしたアプリがオンライン販売を成功させる上での原動力だとしているが、独自のソーシャルチャネルの開発は初めての試みだ。
20年1月のジョン・ジョセフ・ドナホー2世(John Joseph Donahoe II)社長兼CEO就任後、ナイキはデジタル事業や女性向け事業に再び焦点を当てて、マタニティーラインやヒジャブを着用するムスリムの女性向けの水着コレクションなどを発表している。コロナ禍でeコマースが爆発的に普及したことを踏まえても、こうした取り組みを進めていくことは急務だ。ナイキは20年に行った投資家会議で、デジタルおよびeコマースでの売上げが常時少なくとも売上高の50%を占めるようになると予測し、ショッピング向けデジタルチャネルの開発に力を注ぐと発表した。ドナホー2世社長兼CEOは、「パンデミックによって消費者の行動は根本的に変化しており、元に戻るとは考えていない」と述べた。