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「出し惜しみ」も悪くない エディターズレター(2021年4月14日配信分)

※この記事は2021年04月14日に配信した、メールマガジン「エディターズレター(Editors' Letter)」のバックナンバーです。最新のレターを受け取るにはこちらから

「出し惜しみ」も悪くない

 時計の世界では今、デジタルでの新作発表が真っ盛りです。私は、ジャパン社が独自に開催するオン&オフのプレゼンテーションに参加するくらいですが、時計担当の三澤記者は眠い目をこすりながら各社がスイスから発表する新作に目を光らせています。

 拝見した新作は、一言で表現すれば「売れそう」です。大本命は、高級時計のエントリーモデルとして売れ続ける「カルティエ」“タンク”の最新シリーズ“タンク マスト”。ソーラー発電ムーブメントで電池寿命を伸ばしつつ、廃棄されるリンゴ(ヨーロッパでは深刻な問題だそうです)由来のストラップをあしらったサステナブルモデルを、通常盤と変わらない価格で売り出すところも「カッコいい」のです。「タグ・ホイヤー」は、同じく高級時計のエントリーモデル“アクアレーサー”を刷新。美しいセラミックベゼル&スマートに生まれ変わったステンレスストラップの最新モデルはプライス・パフォーマンス(時計ジャーナリストの渋谷さんから、この、素敵な言葉を教えてもらいました)が高く、「間違いない」って感じです。「シャネル」は、ツイード製の袖に、飾りボタンのような時計をあしらった“ブタン(フランス語で「ボタン」の意味)”を発表。ファッションも、時計も、のブランドらしく、クチュールメゾン&時計のマニュファクチュールならではのクラフツマンシップも光ります。「チューダー」は、シルバー925の“ブラックベイ”に一目惚れ!!ちょっとくらい傷ついても気にせず、むしろ味として楽しみ、「夏には真っ白なTシャツと合わせたい!もうちょっと、筋トレ頑張ろう!!」くらいまで具体的な情景が頭に浮かぶのは、良い時計の証です。「グッチ」もよかったですねぇ。アレッサンドロ・ミケーレの世界観、改めてスイスメイドのマニュファクチュールとして歩みだそうとする野心、先行するジュエリーで手応えをつかんだのだろう高価格帯の強化で推進するラグジュアリー化などが絶妙に融合し、デザイン、ムーブメント、ジュエリーウオッチなどの観点において「唯一無二」がいっぱいです。興奮して、つい語りすぎました(笑)。

 これだけスイス時計が大豊作な理由は、「去年、スローダウンしたから」では?と思っています。昨年の今頃は、世界中がパンデミックで大慌て。時計の新作は、最小限に止まりました。今年の新作は、実質2年ぶりの“満を持して”なのです。加えてスローダウンによって、各社が「僕らの強みって、なんだっけ?」を改めて考え直したのも顕著です。強化すべきラインを、望まれる形で、ブランドらしくブラッシュアップした感が、「売れそう」という印象に繋がっています。ヘンテコな変化球が少なく、まっすぐなド直球が多くて、気持ち良いのです。

 コロナの直前、昨年1月のパリメンズでインタビューしたジョナサン・アンダーソンは、それまでに比べてバリエーションを絞ったコレクションについて、「一生懸命考えたアイデアを出し切って、1シーズンで使い捨て、自分を疲弊させたくない」と話していました。今年の時計業界は、まさにソレ。実際、「タグ・ホイヤー」を筆頭に、新作のレファレンス(型数)は例年に比べて少なく、その分、取捨選択したラインのブラッシュアップに全力投球しています。

 「大豊作」とも言える今年の時計業界を見ると、「スローダウン」と「出し惜しみ」は、「正解だな」って思うのです。

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