コロナ禍で国内外の眼鏡市場が大きな変化を見せている。日常生活のデジタル化で心配される目の健康、アパレル業界のキーワードでもあるサステナブルなモノ作りなど、環境の変化に対応して旧態依然と言われる眼鏡業界もあわただしく動き出した。また、売り上げを左右するラグジュアリーブランドのライセンスの大型移動で業界の勢力図にも異変が起きている。“視力矯正器具”の枠を超えて進化する眼鏡市場の動きを総括する。(この記事はWWDジャパン2021年4月12日号からの抜粋に加筆しています)
コロナ禍で、眼鏡の新しい存在感が鮮明になっている。イタリアのサフィロや日本のシャルマンは、眼鏡作りのノウハウを生かして製作したフェースシールドを医療従事者に提供して話題に。ウイルス感染を起こす可能性がある目のケアを目的とした飛沫(ひまつ)カットの眼鏡や、テレワークで向き合う機会が多くなったパソコンやスマートフォンのディスプレーが放つブルーライトをカットする眼鏡が売れるなど目の健康に注目が集まった。「眼鏡は社会の課題を解決するものでなくてはならない」とはジンズの田中仁CEOが以前から口にしていた理念だ。その1つの表れとして、アパレル業界でも重要な課題となっているサステナブルなモノ作りに向けても動き出した。生分解性のあるバイオアセテートを使用した商品が増えている他、廃棄される眼鏡のリサイクルシステムの開発についても研究が進んでいる。以前、眼鏡は視力が弱い人のための“視力矯正器具”という限定的な印象が強かったが、バッグやシューズと同じファッションアクセサリーとしても一般化し、環境に優しく、目の健康を守るアイテムとして消費者にまた一歩寄り添った。アパレルのトレンドがベーシックに流れる中、ラグジュアリーブランドの2021-22年秋冬コレクションのコーディネートに登場したサングラスのデザインは、ビッグサイズで存在感を強調している。
さらに今年、日本の眼鏡は世界に広く打って出ようとしている。福井めがね工業を傘下に収めた世界最大のイタリアの眼鏡企業エシロールルックスオティカが、鯖江市の自動車学校跡地に建設を進めていた広大な生産工場が今年本格稼働する予定だ。同社が手掛ける数多くの有名ブランドの日本製眼鏡が世界での販売を拡大する。同社は昨年、異例となる日本限定販売のオリジナルブランド「ナミ(NAMI)」を発売した。日本製の高い技術力に対する評価の表れだ。
眼鏡ビジネスの課題は、デジタル化の推進だ。複数の展示会が集中して行われる4月の東京は、国内最大の国際眼鏡展「iOFT」が行われる10月と並んでビジネスのピークだ。各社はコロナの影響で昨年からリモートによる展示会を試行したが、商品の軽さやフィッティングなどはオンラインによる確認が困難なことなどから、なかなか浸透していない。リアルな展示会も開いているが、来場者数の制限の他、出張を控える地方店のバイヤーも多く、商談に苦慮している。「眼鏡データベース」を発行する眼鏡光学出版の美濃部隆社長は「コロナの影響で、国内の眼鏡の小売り市場規模は前年比約10%減の3600億円ほど」と見込んでいる。遅れているeコマースのシステム構築を含め、DX(デジタルトランスフォーメーション)が成長の鍵を握る。
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