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サイバーエージェント藤田社長が出資を即決 新生「スタイルヴォイス」の展望

 マッシュホールディングス、ジュンが出資して運営するECモール「スタイルヴォイス ドットコム(STYLEVOICE.COM)」は4月26日、D2Cブランドプロデュースを主軸としてリニューアルする。これに合わせて、インターネット広告大手のサイバーエージェントが出資する。

 同ECモールを運営するスタイルヴォイスは19年10月、マッシュホールディングス(HD)、ジュン、デイトナ・インターナショナルの3社の合同出資により発足し、「メディア並みの発信力を備えるEC」として、オウンドメディアを併設するECモールとして運営してきた。20年末にはマッシュHD、ジュン2社の出資構成に変更となった。

 サイバーエージェントの藤田晋社長は出資の背景について「ここ数年、D2Cのアパレル分野には大きな可能性を感じていた」と話す。同社は創業間もない1999年、子会社を通じてECモール事業への参入を試みたこともあるなど、関心の高さがうかがえる。「消費において、人々の憧れの対象がモノではなく『人』にシフトする中、『スタイルヴォイス』には新しい道を切り拓くポテンシャルを感じた」と期待を口にする。サイバーエージェントとともに、フィギュアの「ベアブリック」などを企画・販売するメディコム・トイも出資メンバーに加わる。出資は話し合いのその場で即決したという。

 同ECの展望について、スタイルヴォイスの片山裕美社長、マッシュHDの近藤広幸社長、ジュンの佐々木進社長、メディコム・トイの赤司竜彦社長に聞いた。

※サイバーエージェントの藤田晋社長は都合により座談会には不参加

WWDジャパン(以下、WWD):19年10月のスタートから現在までの、「スタイルヴォイス ドットコム」の進捗は?

片山裕美スタイルヴォイス社長(以下、片山):ECモールとしては後発で、これまでは知名度をじわじわと広げていく期間だったと思うが、同時にコロナ禍の中、昨年春ごろから自分たちの強みがはっきりと見えてきた。影響力のあるモデルやキーインフルエンサーの熱量のある発信から、その人たちの周りに集まるインフルエンサーへと情報が広がり、認知度・注目度も急速に高まったという手応えがあった。そのような“種まき”があった上で、20年初夏には、サイト内特集として「ワンマイルウェア」を打ち出し、その中でもデザイナー川島幸美さんが企画した商品は、インフルエンサーたちが自発的にSNSで紹介してくれたことで大ヒットにつながった。この事例を手本に、秋には女優の剛力彩芽さんやインフルエンサーの中村麻美さんらを起用した商品企画や既存のD2Cブランドとの連携企画にチャレンジし、バズにつながった。

 この辺りから、「ここでしか買えないオリジナルのD2Cブランド」を主軸とした事業展開の構想が固まっていった。企業やブランド数は立ち上げ時(約45ブランド)の半数以下にしぼるが、リニューアル後は自社企画を中心としたD2Cブランドが中心になる。足元では、すでにたくさんのブランドがローンチに向けた準備に入っている。インフルエンサーたちの熱量も非常に高く、外からコラボやイベント出店の相談もいただいている。「スタイルヴォイス」の中で次々に新しい企画が生まれ始めている状況だ。単純にブランド数や会員数を増やすことで成長するのとはまた違う、ユニークな成長路線が見えてきた。

生産から発信までチームとして動く
「心を動かす」インフルエンサーを育てる

WWD: D2Cブランドを作っていく上で大事になるのは?

片山:軸になるインフルエンサーの思いをしっかりくみ取ること。そして商品企画から発信コンテンツまでを通じて、熱量高く伝えていくこと。それができればお客さまの心を動かし、今までにない買い物の楽しさを体験していただけるはずだ。バックにはモノづくりのプロであるマッシュHD、ジュンがおり、マッシュグループの生産背景を活用することで高品質な商品を実現できる。先行して4月に販売した商品は、企画したブランドディレクターの元に届くと、彼女たち自身がそのクオリティーに驚き、心から喜んでくれた。作り手が満足できる仕事ができれば、お客さまにも必ず幸せになっていただける。お客さまの心を動かすインフルエンサーを発見し、育てることからチャレンジする。

佐々木進ジュン社長(以下、佐々木):今、このタイミングでフィーチャーすべき人選、その先にいるファンの興味に対して知見が深いのは、雑誌編集の経験もある片山さんの最大の強みだと思う。よくあるECモールではなく、“ここでしか買えない”を突き詰める上では大きな武器になっていると感じる。

近藤広幸マッシュHD社長(以下、近藤):これまでの事例で面白いと思ったのが、フォロワー数が多いからといって、その人の監修した商品が必ずしも売れるわけではないこと。フォロワーが少なくても、売れる人はいる。インスタの写真の撮り方など、さまざまな点で商品を売るためのコンサルティングが重要。片山社長をはじめとした編集部のプロデュース能力で、「スタイルヴォイス」が「モノが売れる」インフルエンサーを輩出するプラットフォームになることも期待したい。

WWD:一方で、イチからブランドを立ち上げるのは、これまでの既存ブランドを中心に扱うビジネスに比べてリスクも大きい。

近藤:リスクに関しては(スタイルヴォイス社の)大株主となったマッシュHDが、連結子会社として、責任と覚悟を持って背負っていくつもりだ。成長するまでは、マッシュグループの社員がサポートしたり、経営のバックオフィスなども支援する。今後の運営フェーズでは、意思決定のスピード感やモノ作りへの支援体制を一社に集約する重要性、そして明確なリーダーシップが必要になると考え、デイトナ(・インターナショナル)さんに株式を譲っていただくことにした。今後も良好な関係性でお付き合いしていくことは変わらない。

「ノイズ」を混ぜることで
ビジネスがより面白くなる

WWD:新たにサイバーエージェントとメディコム・トイが出資者になった背景は?

赤司竜彦メディコム・トイ社長(以下、赤司):(出資の話は)年始に突然聞いて、突然決めた(笑)。ビジネスとして結果を求めることはもちろん大事だが、投資の決定打になったのは片山さんの人を見る目や人格。その他の出資者も何か面白いことが起こりそうなすごいメンバーだし、出資者として参画することで、モノ作りにもより深くコミットするなどシナジーを強められると考えた。

佐々木:D2Cブランドの開発をする上で、より面白みのあるモノ作りのためには、われわれのようなアパレル製造小売業とは違う視点が必要であると考えていたことも一つ。(サイバーエージェントの)藤田晋社長は、グループにさまざまな企業を有しているし、今後は「スタイルヴォイス」においてメディアやコンテンツなど絡め、ECの枠組みだけで売る以外の手法も出てくるはずで、そういった面でも強力な手助けになる。(メディコム・トイの)赤司社長はクリエイティビティーや人脈などはもちろん、テクノロジーにも詳しく、そういった知見やアイデアをぜひお借りしたい。

近藤:お二人(藤田社長と赤司社長)はモノ作りやコンテンツ制作の大変さを理解している方々だ。赤司さんは「スタイルヴォイス」立ち上げの当初から出店者として関わっていただいている。報道陣へのお披露目の際にお願いしたスピーチに心を奪われ、いつか一緒により深い部分でお仕事をしたいと思っていた。われわれのプレゼンを聞いて参画を即決してくれたのは素直に嬉しかった。

赤司:「D2C」はアパレル業界で最近何かとフィーチャーされている言葉だが、そもそも、さまざまな表現者やブランドとコラボし、コミュニティー単位でのバズを起こし続けてきたわれわれのビジネスモデルは、実は(創業した)25年前からD2C的だったのではないかと思っている。(「スタイルヴォイス」での)メディコム・トイの役割は、アパレルのど真ん中でやっている人たちが美しいシンフォニーを奏でている中に、どれだけ「ノイズ」を混ぜていけるか。美しい曲に少しのノイズが混ざることで、時によってはとても素晴らしい音楽になる。新しいビジネスを生むための刺激を提供していく立場として、いつか(「メディコム・トイ」を)入れておいてよかったねと言われたい。

片山:赤司さんからはすでに常に新しいアイデアや刺激をいただいていて、早く実現にこぎ着けたい。いろんな人がいろんなアイデアを持ち寄って、可能性があればそれをどんどん大きくしたり、あるいは他のものとミックスさせてみたりと、「スタイルヴォイス」を実験室のような場にしていく。

WWD:「スタイルヴォイス」はスタート時から上場も視野に入れていた。今後の展望は?

近藤:上場すること自体が目的ではないものの、藤田さんという上場の経験者がいるし、選択肢としては念頭に置き続ける。ただ規模をいたずらに求めるより、他業界にも真似したいと思われる取り組み、新商品などを生み出し、小さくても尊敬される企業を目指していきたい。

片山:話題性の発信としてブランドを生み出し続けることも必要だが、数億円レベルまで成長するような、大きな柱となるブランドを育てることも必要だ。すでに「スタイルヴォイス」ではモデルや著名人たち同士が直接コラボしたいねという会話があったりと、ワクワクするような状況を作り出せている。ブランドディレクターたちの熱量を見てみると、それが可能だという確信めいたものがある。

佐々木:視野を広げてみると、「スタイルヴォイス」は今後、モノを売ることだけでなく、ブランドコンサルティングでも力を発揮していくことができるだろう。「スタイルヴォイス」で積み重ねた経験を活かして企業のコンサルができるかもしれないし、ここで作り上げた人脈そのものが他のビジネスの種になるかもしれない。

近藤:これまではECモールとしてあるべき形を探る準備期間だったが、今は熱量のある人たちを巻き込みながら、大変ながらも前向きでワクワクしながら仕事ができている。そんなクリエイティブに集中できる環境こそが、ビジネスとして成功する秘けつだと思う。

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