スポーツ釣りとして知られる趣味目的の釣りは、新型コロナのパンデミックとなって以来、安全かつ手軽に自然と触れ合う手段としてアメリカで人気を集めている。
米メーン州を拠点にするアウトドアブランド「エル・エル・ビーン(L.L.BEAN)」は、2019年に比べて釣りアイテムの売り上げが4%増加し、中でもルアー釣り用のウエアは120%増加したと報告した。ほかにも穴釣りが20%増で、2020年5〜9月のフライフィッシングシーズンには同カテゴリーは60%増加したという。
チャーリー・ブルーダー(Charlie Bruder)「エル・エル・ビーン」マーチャンダイジング・バイスプレジデントは、「2020年の間にアメリカでは、レクリエイション釣りが記録的な盛り上がりを見せている。すでに釣りにハマっていた人はより多くの時間を釣りに費やし、気分転換のために釣りを始めたビギナーも増加した。アウトドア産業協会によるデータでは、20年の淡水釣りプレーヤーは340万人にのぼる。息抜きにもなるし、他のアウトドアスポーツに比べて、スキルやコストのハードルが低いようだ」と述べた。
これらの新しい参加者の多くは、若い世代や女性が占めている。レクリエーショナル ボート アンド フィッシング ファンデーション(Recreational Boating and Fishing Foundation)による最近の調査では、女性の釣りプレーヤーが過去最高の1800万人に達したと報告した。釣り用のアパレルウエアを展開するグルンデン(GRUNDENS)のアッシュ・ウィリアムス(Ash WIlliams)=マーケティング・バイスプレジデントも、釣りプレイヤーのジェンダーギャップは年々縮まっていると分析。21年現在プレイヤーの46%は女性で、「女性の中でも、13〜17歳の層が6%で最も増加した。ブランドはこの変化に目をつけ、女性をターゲットにした商品の開発に乗り出している」と言う。
ファッションに関しては、他のスポーツウエア同様に高い機能性が求められる。同氏は「スポーツ釣り向けのアパレル製品の販売も好調だ。“シーニット ボート シューズ”の発売で、フットウエア市場への参入も成功した。消費者は防水性や通気性、軽量性を備え、釣り体験が向上する製品を求めている。動きを制限し、かさばる、通気性のないウエアの時代は終わった」と語った。
続けて、釣りを楽しむ人の90%は幼少期に家族と釣りをした経験を持っていることから、「釣り業界を盛り上げるには、若い層にもっと魅力を伝えていかなければいけない。若い世代の参加者の増加はわれわれにとってもプラスなだけでなく、長期的に見て業界が存続するために良い影響をもたらすだろう。釣りの経済的利益は莫大で、年間売上高は500億ドル(約5兆4000億円)を超える。パンデミックにより他者と十分な距離を保つ必要があるので、釣り免許を取得する人も増加。免許に関連する収益の一部は水質と漁業の保全プログラムに向けられるため、環境問題にも良い効果をもたらしている」とコメント。
一方釣りへの関心の高まりに合わせて、アウトドアブランド側もパンデミック中における消費者との新しいつながり方を模索した。釣り専門のアパレルと道具を扱う「オービス(ORVIS)」は、かねてより運営していたブログやポッドキャスト、釣り教室などをオンライン向けに強化。
サイモン・パーキンス(Simon Perkins)「オービス」プレジデントは、「お客様と新たなつながりを生むために、バーチャル機能を生かした手段を開拓しなければいかなかった。対面で行う教室などに影響が出ることは早期からわかっていたため、バーチャルのキャスティングレッスンツールを作成し、そのほかのクラスもデジタルに切り替えた。毎週フェイスブック(FACEBOOK)とインスタグラム(INSTAGRAM)でライブイベントも開催し、釣り人同士の交流を深めた」と言う。
同ブランドが展開する“50 50 オン ザ ウォーター”プログラムでは、女性による女性のためのウエアの開発やレクチャーを提供し、コミュニティー育成に乗り出した。同氏は「スポーツ釣りのみに情熱を注ぎすぎると、広い視野でその分野を見られなくなることがある。常に好奇心を持って新しい機会を探し、多様な声に耳を傾ける必要がある」と語った。