大阪のセレクトショップ「リトマス(LITMUS)」と姉妹店「ルテンス(LUTENS)」がECを持たないにもかかわらず全国で注目を集めているようだ。2月と4月に行った東京と福岡でのポップアップは盛況のうちに終え、5月7日には名古屋に新店をオープンする。インスタグラムでの洗練されたイメージと、ショップではおしゃべりなスタッフが迎えてくれるギャップも魅力だ。同店ではビンテージアイテムのほか、「ノワール ケイ ニノミヤ(NOIR KEI NINOMIYA)」「ジョン(JOHN)」「アキコアオキ(AKIKOAOKI)」「ミューラル(MURRAL)」「キシダミキ(KISHIDAMIKI)」などのブランドも扱う。「ルテンス」では「ヨウヘイオオノ(YOHEI OHNO)」「フェティコ(FETICO)」「キムへキム(KIMHEKIM)」のほか、オケージョン向けのドレスやビンテージのウエディングドレスも用意している。
ビンテージや多くのブランドを扱いながら、ショップの世界観を表現する秘訣は何なのか?両セレクトショップを手掛けるウートゥ(AOUT)の川崎吉朗・代表、綾部帆乃香「リトマス」ショップマネジャー兼バイヤー、マティー(Matty)「ルテンス」ショップマネジャー、新たにオープンする「リトマス」名古屋店の芝有果音(あかね)ショップマネジャーに話を聞いた。
WWD:「リトマス」設立のきっかけは?
川崎吉朗ウートゥ代表(以下、川崎):7年前、神戸・旧居住地のビルの一室でスタートしました。当時は3坪ほどのスペースでビンテージのみを扱っていて、1年後に大阪に移転しました。店名は科学的な用語を使いたくて、リトマス紙から名付けました。リトマス紙は1つの紙の両極に違う反応が出ますよね。例えば白と黒、マスキュリンとフェミニンといった対極の要素を一つにミックスするというストアのテーマを表しています。
WWD:姉妹店「ルテンス」を立ち上げた理由は?
川崎:「リトマス」をよりトレンド寄りにして、それとはまた違う性格の、ずっとそこに留まっている恒久的な存在の店を作りたくて「ルテンス」を2年前にスタートし、独自の色が出てきたマティーにを任せました。店名は、“流転する”から名付けました。両ショップのメインビジュアルなどで意識している3つのキーワード“lumen(光)”、“tendence(風潮)”、“silent(静けさ)”、の頭文字L、T、Sが入る名前を6文字で表現したかったのも、この名前にした理由の一つです。
対極にある両店
WWD:両ショップの買い付けの基準は?
川崎:ブランドのピックアップは自分が行い、アイテムの買い付けはリアルな視点で判断できる綾部やマティーに任せています。僕が抽象的な雰囲気が好きなので、そういうブランドが多いですね。古着の買い付けは創業メンバーが担当しています。
綾部帆乃香「リトマス」ショップマネジャー兼バイヤー(以下、綾部):「リトマス」は色や柄のアイテムを多めに、「ルテンス」はモノトーンやユニホームに近いアイテムを多めに買い付けています。客層は全く異なりますが、オケージョンが豊富な「ルテンス」の方が年齢層高いかもしれません。「リトマス」はトレンドを意識した方が多く、感度高めの人から高校生までさまざま。高校生のお客さまが私たちと一緒に大人になっておしゃれに成長していくのを見るのも楽しいです。
芝有果音「リトマス」名古屋ショップマネジャー(以下、芝):イメージチェンジ目的で来てくれる方もいます。私たち自身のファッションももともとこういうテイストだったわけではなく、入店したころはひどい服装でした(笑)。徐々にファッションに詳しくなり、お客さまと一緒に変化している感覚です。
マティー「ルテンス」ショップマネジャー(以下、マティー):「ルテンス」は“ユニホーム”をキーワードにしていて、オフィスでも使えるセットアップやジャケット、トラウザーをそろえています。ビンテージのウエディングドレスやオリジナルのドレスも用意しているので、遠方から来てくれる夫婦もいます。ブラックのアイテムが多く、たまにスタッフもお客さまもみんな黒いときがあります(笑)。
WWD:「ルテンス」にネイルサロンを設けた理由は?
川崎:統一した女性像を作りたいと思ったのが理由の一つです。満を辞して開いたというより、「リトマス」でネイルが上手いスタッフがいたので、彼女に任せました。1人で運営しているので予約はすぐに埋まってしまうのですが。
WWD:「リトマス」「ルテンス」が描く女性像とは?
川崎:僕が女性像をこれと決めているのではなく、今いるスタッフに合わせています。その方が深く広い世界観ができると思っているので。
マティー:スタッフそれぞれの好みやスタイルが全く違うので自然と女性像は分かれていますね。純粋に自分たちがファッションを楽しむことが個性や世界観を生み出しているのかもしれません。
綾部:無理に女性像を擦り合わせようとはせず、好きなものを好きなように着ています。もちろんどちらも好きでも良いし、強制はしていません。
ショップには“テーマパーク感”が必要
WWD:インスタグラムは公開アカウントと非公開アカウントがあるが理由は?
綾部:非公開アカウントは、店で買い物した際にカルテのようなものを記入いただき、インスタグラムのアカウントを書いてくれた方をこちらからフォローしています。
川崎:両アカウントは、情報を出すスピードを変えています。新入荷商品のお知らせやイベントの告知を顧客のみのアカウントでは少し早く出しています。先日のポップアップではアトラクションのファストパス的な感覚で一般オープン前に顧客のみが入れる時間帯を設けました。
WWD:DMで通販もを受け付けているが、今後ECを開く予定は?現在の実店舗とDM販売の売り上げ比率は?
綾部:DMの接客と通販はコロナ禍をきっかけに始めたのですが、ゼロからのスタートだったので大変でした。ECを開かないのは、スタッフ全員がお客さまとDMでコミュニケーションする時間をすごく大事にしているからです。ECだとボタン1つで購入できますが、それだけでもさみしいですよね。
川崎:全体の売上比率は実店舗が6割、DM販売が4割くらいです。ECの必要性は特に感じていません。お店は、素敵な洋服とおしゃべりなスタッフがいる、行けば楽しい場所で、ある種のテーマパーク感が必要だと思っています。ただ、ECでそれを表現する手立てが今のところ見つかっていないので、ベストな形が見つかるまで開くつもりはありません。
東京進出やEC開設は慎重に
WWD:東京への出店は考えない?
川崎:地方の人をおしゃれにする方が楽しいのはあるかもしれません。東京は僕たちが勉強しに行く場所です。先日「コム デ ギャルソン(COMME DES GARCONS)」の展示会に行ったのですが、ものすごいパワーを感じました。僕自身もスタッフも地方出身者が多く、地方にこの面白さを広めたいという使命感があります。いずれは東京にも、とは考えますがECと同じく慎重に進めたいです。
WWD:スタッフの共通点は?
川崎:入社した際に皆「どうにか変わりたい」と思っているところが共通点です。
マティー:皆それぞれにコンプレックスがあり、それを生かしたりカバーしたりするために服を選んでいるのではないでしょうか。服について全然知らなかったころに、川崎から「コンプレックスがある人の方がおしゃれになれる」と助言をもらいました。接客する中でも押し付けではなく、その人が何を求めていて、どうなりたいかを意識して寄り添うことを大切にしています。
芝:それぞれに「こうなりたい」という女性像があって、それに向けて自分を磨き続けているところが共通点ですね。
「コンプレックスがある人の方がおしゃれになれる」
WWD:インスタグラムで世界観を表現するコツは?
川崎:まずは、とにかくたくさん写真を撮ることです。スタッフがお互いに写真を撮り合うことがルーティン化しています。
綾部:スタッフ個人のアカウントをお互いにチェックし合い、投稿前に相談したり、褒め合ったり、逆に「消した方がいいかも」とアドバイスしたりすることもあります(笑)。
マティー:「ルテンス」と自分のアカウントは、マガジン感覚で見てもらえるようにアートや映画などの要素も入れています。載せたものを買ってほしいわけではなく、シンプルに楽しいからアカウントを見てもらえるように考えています。世界観が軸というよりも、自分のそのときの感覚を大切にしていますね。映画やコレクションを見た後はその影響が分かる格好になってしまいます。
綾部:それがすごく分かりやすくて、出勤した瞬間に「昨日何か見たでしょ」と(笑)。
WWD:スタイリングで気をつけていることは?
綾部:インスタグラムに投稿するコーディネートはそれが「リトマス」っぽいか、ぽくないかという視点で判断しています。
芝:綾部が「リトマス」を体現するスタイリングをしているので、自分はブラックなども取り入れて少し他の見せ方も意識しています。お客さまも挑戦しやすいスタイリングを提案していきたいです。
WWD:競合と意識している店はある?
川崎:失礼に聞こえてしまうかもしれませんが、ないです。同じブランドを仕入れている店はありますが、さまざまなブランドやスタッフの個性を生かしつつ、一つの世界観にまとめることにフォーカスした結果、ほかにはない店の色が出せている自信があります。
綾部:ただいいブランドを集めるわけではなく、緊張感と責任感を持って提案することを大事にしています。それがインスタグラムでの見せ方につながっているのではないでしょうか。