ファッション
連載 辻愛沙子と語り合う新しい教養

業界は、「画一的な美しさ」から解放されたのか!? WWDJAPAN記者がルッキズムの現在地を語る座談会

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 見た目を彩ってきたファッション&ビューティ業界は、最近まで画一的な美しさにとらわれてきたかもしれない。しかし社会の変化に呼応して、人種・年齢・性別・体形・嗜好などの多様性を受容・発信し、今はさまざまな美しさを表現しようと試みている。社会と、ファッション&ビューティ業界、そして消費者の見た目にまつわる美しさに関する考えの現在地は?WWDJAPANの4人の記者が、ここ数年の業界の事例を踏まえて対話した。(この記事はWWDジャパン2021年6月14日号からの抜粋に加筆をしています)

 大杉(ファッション担当):ボディーポジティビティー(求められがちな美の基準から自由になって、自分の体形をありのままに受け入れようというムーブメント)については、日本では2013年にぽっちゃり女子のおしゃれ応援マガジン「ラ・ファーファ(la farfa)」(ムック、文友舎刊)が創刊。翌年には定期刊行が始まり、表紙を飾っていた渡辺直美さんによるサイズが豊富なブランド「プニュズ(PUNYUS)」のデビューはセンセーショナルでした。アメリカでは、16年にプラスサイズモデル(スリムが当たり前だったモデル業界の美の価値観に一石を投じ、より多くの体形の肯定につなげる等身大のふくよかなモデル)の先駆けとなったアシュリー・グラハム(Ashley Graham)がランウエイデビューし、彼女は17年に米「ヴォーグ(VOGUE)」の表紙を飾りました。

浅野(ソーシャルエディター):藤井美穂さん(女優やコメディアン、プラスサイズモデルとしてロサンゼルスで活動)もSNSで話題になりました。

大杉:「痩せ過ぎ」モデルに対する規制も大きかったと思います。きっかけは15年、エディ・スリマン(Hedi Slimane)時代の「サンローラン(SAINT LAURENT)」の広告に痩せ過ぎモデルが登場したことです。まずはイギリス、次いでフランスが、「モデルのあばらが浮き出ており、太ももと膝も同じ細さであるため、非常に低体重に見える。このような広告を発表することは無責任である」と掲載を認めず、業界人は衝撃を受けました。以来、モデル業界も基準を設けるなど状況を改善。19年のケリング(KERING)とLVMH モエ ヘネシー・ルイ ヴィトン(LVMH MOET HENNESSY LOUIS VUITTON以下、LVMH)による「18歳未満のモデルは起用しない」というスタンスの発表は、若手モデルのウェルビーイング(身体的、精神的、社会的に良好で幸福な状態)確保のための対応策でしたが、「若いことが美しい」という概念を改めるきっかけにもなりました。

浅野:インフルエンサーやメディアがボディーポジティビティーの発信に積極的な一方、SNSではスタイル至上主義の思想が根強いんです。ハッキリ言えば加工された写真も多いのに、「こんな風になりたい!」なんてリアクションは今も多く、問題視されています。この傾向は特に10〜20代前半の若年層で強く、もっと伝えなければって思います。

北坂(ビューティ担当):ティックトック(TIKTOK)では、A4サイズの紙でおなかを隠す“A4チャレンジ”がトレンドになったことも。鎖骨にコインを並べるスタイル自慢もあるし、画一的な理想像が刷り込まれないといいけれど……。

大杉:先日ユーチューブで、胸が小さいから不倫された妻やニキビ顔だから好きな人に相手にされない男性が登場する動画がコマーシャルとして流れてきました。マズいんじゃないの?って思いました。体・容姿が魅力的かどうかという基準が根底にある差別によって、自分を含め醜いとされるものへ恐怖や憎悪が生まれる、カコフォビアをあおる危険性があります。

ソーン(翻訳担当):ヤフーは、コンプレックスをあおる広告の規制を始めましたよね。

浅野:今年、自身のブランド「アンミックス(UNMIX)」を立ち上げた吉川(康雄)さんはずーっと「『マイナス5歳』など、ビューティ業界はコンプレックス訴求で商売している。傷つけるのではなく、人を楽しませる美容を発信しないと」っておっしゃっています。何かが、根本的に変わる必要があるのかもしれません。

北坂:ニューヨーク・コレクションでは、シミやシワ、そばかすがあってもファンデを塗らないとか、一人一人に違うメイクを施すブランドが増えています。ヒジャブ姿のムスリムモデルは、昔なら「ランウエイに出せない」だったけれど、最近は髪の毛はそのままにランウエイモデルに起用し始めています。アンチキャスティング(容姿や年齢、サイズを一切問わないモデルの採用方法)も模索し始めていますね。

大杉:ただ白人至上主義やホワイトウオッシング(ファッションでは、白人至上主義な美の価値観に縛られ、写真などで人物の肌の色を明るめに調整などすることをさす)は、今もまだ根強いですね。日本でもまだ、「美の象徴」といえば白人モデルかもしれません。以前、東京コレクションの取材で来日した海外ジャーナリストが白人モデルばかりのランウエイを見て、「どこのファッションウイークに来たのか、分からなくなりそう」と話していました。「本当にそうだよな」って思ったんです。まだ意識のどこかで、「白人が美しい」という感覚はありますね。

北坂:ビューティ業界ではBLM運動以降、組織における人種別の従業員や要職の構成比率を見直す動きが始まりました。あれから、ちょうど1年。組織内の従業員や経営幹部の黒人比率を公表するように呼び掛けたシャロン・シューター(​Sharon Chuter)は最近、状況の進展について問い掛けました。各社から、進展の報告はありません。ビューティ企業も、いまだに白人モデルを使うことが多いですね。日本でも白人モデルを起用することが多いですが、肌にフォーカスするビューティの広告では、黒人モデルはメラニン色素の少ないアジア人と肌色に違いがあるので共感しづらいという考えがあるのかもしれません。

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