「今シーズンはこれがトレンドですよ」。そんなキャッチコピーや接客文句ではもう服は売れないと言われるようになって数年(10数年?)が経ちます。さらにコロナ禍も重なり、「トレンドよりも定番やベーシック重視」というブランドやショップは増えています。「これがトレンドです、というだけではもうダメ」と話すのは「ジーユー(GU)」も同じ。「ジーユー」は定番服に強い同じグループの「ユニクロ(UNIQLO)」とは違って、トレンドアイテムを手頃な価格で仕掛けることで支持を集めてきたブランドです。15年に大ヒットした“ガウチョ”はまさにその典型例でしたが、そんなトレンドの申し子であった「ジーユー」は加速する“消費者のトレンド離れ”とどう向き合っているのか。21-22年秋冬展示会で、ウィメンズ商品を取材しました。
「服に求められる要素がトレンド以外にもすごく増えていて、どれだけ汎用性があるかが大切。『自分のワードローブの中でコレは使える』と思ってもらえないと売れない」とは「ジーユー」の広報担当者。そんな考えのもと、「ジーユー」が21-22年秋冬を通して意識していると話していたのが “調温(温度調節)”です。同時に、客が既に持っているであろうアイテムをいかに新鮮に見せられるかという“着回し”の視点も展示会から強く感じました。
温度調節がしやすいアイテムに注力
そんなふうに書くと、「夏が年々長引いて、暖冬傾向も強い近年は温度調節がしやすい服を他社も意識しているし、着回しについても同様だ」と言われてしまいそうです。実際その通りなんですが、「ジーユー」の展示会はことさらそれが分かりやすかったんですよね。私に分かりやすかったということは、消費者にとっても恐らく分かりやすいんじゃなかろうかと思うわけです。「とりあえず、今はこれを買っておけばいいんだな」というのが分かりやすいというのは、とても消費者フレンドリーです。世の中のみんながみんな、自分の着たいものやほしい服が分かっているわけじゃないですから(むしろそれが分かっているような服に対する熱量の高い人は、今の時代は少数派のように感じます)。
具体的に、“調温”“着回し”アイテムとして「ジーユー」が推していた商品の筆頭はベストです。7月投入分ではノースリーブジャケット風のベストと、キュロットパンツをセットアップでスタイリング。もう少しシーズンが進むと、シャツワンピースやロングスリーブTシャツとのレイヤード用に、さまざまなシルエットのニットベストをそろえていました。「ワンピースやTシャツは元々持っている人が多いので、それをアレンジし、気温変化にも対応できるアイテムとしてベストを打ち出す」といいます。
もう一つ強化アイテムだったのが厚手のニットです。「暖冬でコートなどのアウターを着る期間がどんどん短くなっている。その分、主役級のニットにニーズがあるはず」という考えで、チャンキーなニットカーディガンをはじめ、肉厚ニットを豊富に企画していました。ちなみに、カーディガンは脱ぎ着がしやすい“調温”アイテムとして、昨年秋以降市場でヒットしています。在宅時間が増え、リモートワーク中にキッチンでパパッとランチを作る際などにも、脱ぎ着が簡単なカーディガンは重宝しますよね。
以上が「ジーユー」ウィメンズの21-22年秋冬の商品戦略ですが、ベストとニットはユナイテッドアローズ(UNITED ARROWS)やエストネーション(ESTNATION)など、他社の展示会でも強化アイテムとなっていました。他社もこぞって推しているわけですから、かつてならこれがトレンドアイテムだったんだと思うんですよね。でも、今の時代は「これがトレンドです」から一歩進んで、「買う理由」「なんでコレを持っているといいのか」を客にしっかりプレゼンできないと売れない。そんなふうにロジカル(説明的)な方向に偏り過ぎてもファッションの楽しさが薄れてしまうのではないかと個人的には思いますが、でもやっぱり、ある程度は説明できないとダメ。コスメ業界が配合成分についての化学的知識(ロジカルの極致とでも言えるものです)まで持ったオタク的ファンに支えられて盛り上がっているのを見るにつけ、そんなふうに感じます。