2022年春夏シーズンのコレクションサーキットが本格開幕した。ほぼデジタル発表だった前シーズンから世界の状況は少しずつ好転し始めており、リアルでのショーやプレゼンテーションを開催するブランドも増えた。パンデミックを経て街はどう変化し、ファッション・ウイークはどう進化しているのか。現地からリポートする。
こんにちは!パリコレ3日目は曇り時々雨、最高気温22度。そろそろファッション・ウイークの寝不足が目の下のクマとなって表れ始めております……。コンシーラーの使用量多めですが、コンディションは良好。体温も平熱36.4度を確認したところで、パリコレ3〜4日目も“現突リポ(現地突撃リポート)”元気にいきましょ〜!
6月24日 13:00 クレージュ
まずは、パリメンズ2日目にデジタル形式でコレクションを発表した「クレージュ(COURREGES)」の展示会へ。別記事でお伝えした通り、スクリーン越しで見たコレクションはインパクトのあるルック少なめでした。展示会で実際に見ると、構築的なパターンで作られたミニマルなフォームで、「クレージュ」のDNAを引き継いでいることがよく分かります。ただ、やっぱりコレといって特徴を見つけられませぬ。好みだったのは、やわらかいラムレザーのロングコートです。私が着るとまたしても魔女感が拭えませんが、タイムレスで長く着られるそう。同時に発表したウィメンズのプレ・コレクションは、大胆さとヘルシーなセクシーさがあって好感。ルックで見て気になっていた、存在感のあるロゴの形をしたピアスは重めなので着けるだけで福耳になれそう(笑)。
6月24日 14:00 ショップリサーチ
時間があるので、「クレージュ」の展示会場周辺にあるショップをチェックしに行きました。2019年春にオープンしたシャンゼリゼ通りのギャラリー・ラファイエット(GALERIES LAFAYETTE)には、「ロンシャン(LONGCHAMP)」と「ポケットモンスター(POKEMON)」のピカチュウとのコラボレーション「ロンシャンxポケモンのインスタレーションが!百貨店内には「ジャックムス(JACQUEMUS)」のカフェを構えるなどオープン時こそ話題になりましたが、その後は長く続いたデモ運動(黄色いベスト運動)とロックダウンの影響でシャンゼリゼ通りの人通りも少なく、かなり苦戦している印象です。個人的には、スペースの割に商品を並べすぎているマーチャンダイジングがあまり好みではなく、半年に1回覗く程度でした。ウィメンズのスペースには「ルメール(LEMAIRE)」「マテリアル(MATERIAL)」「1017 アリックス 9SM(1017 ALYX 9SM)」のラックが、メンズには「アー・ペー・セー(A.P.C.)」と「ヘロン・プレストン(HERON PRESTON)」のラックが隣同士になっていて、世界観の異なるブランドを近くに置いちゃう感じがちょっと疑問です。
今年2月にオープンした「キス(KITH)」にも久々に立ち寄ってみました。オープン当初、衛生基準規則に従い、店内の混雑を避けるため来店はオンラインでの事前予約制でしたが、現在は予約無しでも入店可能。メンズとウィメンズウエア共に、オリジナルブランドの割合が増えていました。セレクトブランドは「フィアー オブ ゴッド(FEAR OF GOD)」「メゾン マルジェラ(MAISON MARGIELA)」「モンクレール(MONCLER)」「コム デ ギャルソン・ジュンヤ ワタナベ マン(COMME DES GARCONS JUNYA WATANABE MAN)」で、商品数も減少していました。木曜日のお昼どきでも客入りは上々で、1週間前にオープンしたショップ内併設のレストラン「サデルズ(SADELLE ’S)」のテーブルもほぼ埋まっていました。フランスのショップスタッフって態度が冷たいことがたまにあるのですが、「キス」の販売員さんはいつ行ってもフレンドリー。ちなみに態度が冷たいのは差別ではなく、フランス人は気分屋なので、単純に本人の気分の問題です(笑)。フランスに住んで5年経ちますが、コロナ禍でも私個人は差別的な態度を受けた経験はありません。むしろフランス人は「日本ラブ」って感じで、たまに圧倒されちゃうくらい。
6月24日 17:00 ニース ナイアー
今シーズンはオフスケジュールでリアルなイベントを行うブランドはほとんどありませんでしたが、「ニース ナイアー(NEITH NYER)」のショーだけは参加。「ジバンシィ(GIVENCHY)」や「カルヴェン(CARVEN)」でキャリアを積んだ、ブラジル出身のフランシスコ・テーラ(Francisco Terra)=クリエイティブ ディレクターが2013年に立ち上げたブランドです。2018年にはフランス国立モード芸術開発協会が主催する「ANDAMファッション・アワード(ANDAM Fashion Award)」のファイナリストに選出されました。今季はかなりメルヘンな世界観で、ハート型にカットアウトされたボディーコンシャスなドレスがピンクや赤、レインボーの色彩で登場し、服というより衣装っぽかった(きゃりーぱみゅぱみゅが着てそう)。オフスケジュールのショーは、ブランドがニッチなだけにコミュニティーのつながりが強いんです。ブランドの服を着た個性派な来場者が集い、「ファッションって楽しい!」って感じがめちゃくちゃ伝わってくるので大好き。特に気になった方々の写真を撮らせてもらいました。
6月24日 19:00 ドリス ヴァン ノッテン
映像で発表した「ドリス ヴァン ノッテン(DRIES VAN NOTEN)」は“Greetings From Antwerp”がテーマ。映像はデザイナーのドリスから届いたグリーティングカードのような内容で、ブランドの拠点であるベルギー・アントワープの街並みを背景にルックが次々に入れ替わります。全体的にイージーフィットで、ショーツやシャワーサンダルなどのラフなアイテムがリラックスムードを後押し。BGMのプライマル・スクリーム(Primal Scream)“Loaded”ともぴったりの雰囲気で癒されました。全体は落ち着いた色使いで、時折差し込むポップなカラーのグラフィックがエネルギッシュ。ドリスからのグリーティングカードを言葉で表現するなら、「僕はアントワープで元気にやってるよ。離れていてもお互い頑張ろうね!」といったポジティブなメッセージを受け取りました。
6月24日 20:00 アクネ ペーパーのカクテルパーティー
夜は、「アクネ ストゥディオス(ACNE STUDIOS)」が手掛ける雑誌「アクネ ペーパー(Acne Paper)」のリローンチを記念したカクテルパーティーに参加しました。1階には南アフリカ出身のフォトグラファー、クリストファー・スミス(Christopher Smith)の写真が展示され、2階には2005〜14年に年2回発行されていたアーカイブが並びます。586ページにおよぶビジュアル重視のフォトブックは、"印刷物は死んでいない"と強く主張するような面持ち。ファッション関係者が集い、知人との再会を喜ぶ華やかな雰囲気のパーティーで、リアルでのつながりや、人や紙に触れて五感で感じる幸せを改めて実感しました。日本では7月9日に復刊するそうです。
6月25日 12:00 ナマチェコ
パリメンズ4日目はまず「ナマチェコ(NAMACHEKO)」の展示会へ、デジタル発表前日に行ってきました。今季のテーマは童話“みにくいアヒルの子”です。アヒルの群れで育った鳥の雛が、やがて成長して美しい白鳥になる物語に、ディラン・ルー(Dilan Lurr)「ナマチェコ」デザイナーが自身の経験を重ね合わせたようです。ルーは「イラクのクルド地域出身で、スウェーデンの町で唯一の移民として育った僕のバックグラウンドを振り返ったんだ。他者と異なるという事実は、僕のアイデンティティーを形成する過程で大きな影響を与えた。美しさやみにくさとは何なのかを考えて、コレクション制作に取り組んだ」と教えてくれました。
1970年代のワークウエアの要素を取り入れながら、シルエットやデザインによって未来的なムードも盛り込みます。さらに、赤や青といった原色、多彩なグリーンのカラーパレットはこれまでで最もカラフル。「好きではないものを取り入れようと思った。例えば、抹茶ラテみたいなグリーンは本来僕の好みじゃない。でも異なる要素をミックスさせることで、みにくいものが美しく変わるのだと示したかった」とルー。ほかにも彼の好みでないというPVCレザーやコインのディテールも目を引きました。ブランドの主力商品であるニットには、グリーン&ほつれという、(彼が思う)みにくさを盛り込んだそう。私にとってこのグリーンは、吉本新喜劇に出演している全身緑のスーツの中條健一っぽくて、なんか笑っちゃう(関西人にしか伝わらないので気になる方は“新喜劇 緑”でググってみてください)。
6月25日 14:30 ディオール
ついに、今季のパリメンズの注目度ナンバーワンである「ディオール(DIOR)」のショーのお時間です。トラヴィス・スコット(Travis Scott)とのコラボレーションとあって、会場周辺のカメラマンの数や人だかりの大きさはダントツ!「本来のファッション・ウイークの姿が戻ってきた」と強く実感した光景でした。入り口でマスクを受け取りアルコール除菌をして、いざ会場内へ。ゲストは400人ほどで、ソーシャルディスタンスを守って座席が配置されていました。トラヴィスが屈強なボディガード5人に囲まれながら最前席に座ると、約30分遅れでショーが開始(彼はランウエイを挟んで私の向かいに!)。
いや〜〜すごい!!!ヒップホップとエレガンスが協和すると、こんなに美しいルックが生まれるなんて!キム・ジョーンズ(Kim Jones)は想像をはるかに超えてきました。メゾンのコードが拡張され、さらに進化するすごい瞬間を目の当たりにしたような気分!あと印象に残ったのは、トラヴィスが手掛けた音楽が良すぎて、ショーの間ゲストがノリノリでリズムをとっていたことです。ショーの後も興奮冷めやらぬまま、会場の様子やコレクションの内容、そして来場者スナップを記事化したので別記事をチェックしてみてください。私の中でショーが相当印象に残ったのでしょう。この日の夜は、トラヴィス・スコットとセーヌ川沿いを散歩している夢を見ました(笑)。
6月25日 17:00 オフィシン ジェネラーレ
2012年に設立された「オフィシン ジェネラーレ(OFFICINE GENERALE)」のショーはとってもリアルクローズ。会場はドーバー ストリート マーケット パリ(DOVER STREET MARKET PARIS)の店舗としてリノベーション中の、オテル・パティキュリエ(Hotel Particulier)です。今季は仕立て屋だった祖父のスタイルをベースに、ロックダウン中に見かけたパリジャンからインスピレーションを多く受け取ったそうです。テーラードとスラックスにTシャツを合わせたり、かぎ編みニットとショーツのスタイリングなど、パリの高級住宅地16区を歩いていると見かけるパリジャンそのもの!ルックの中で一番パリジャンらしくて“あるある”なのが、テーラードジャケットを腰に巻いちゃうラフなスタイルです。
6月25日 19:30 ヴェトモン
「ヴェトモン(VETEMENTS)」はメンズとウィメンズの129ものルック画像が高速で切り替わる動画を約1カ月前に発表済み。今回のパリメンズの公式スケジュールでは“Secret Project”と題したティザー動画を公開しました。ただし動画だけでは詳しい内容は謎のまま。リリースには「ヴァザリア・ファミリー財団(Gvasalia Family Foundation)は、若い才能のための多次元プラットフォームとなる新しい実験的ラボを開始します。これはいつの日か、コワーキングスペースを再定義し、経験を共同制作することで、従来のコングロマリット構造に取って代わる可能性があります」と記されていました。プロジェクトは生産から流通、財政支援を提供するもので、ビッグプロジェクトの第1弾として7月22日に新ブランドをローンチするようです。今のところ情報は以上!とりあえず今は、焦らされながら待ちましょう。
6月25日 20:30 ゲーエムベーハー
パリメンズ4日目の最後は、「ゲーエムベーハー(GMBH)」のデジタル発表です。「なんともコメントしずらいなぁ」と、映像を見た直後にポロッと本音が漏れました。映像の最初にテーマ“White Noise”と表示された瞬間から何かイヤな予感が……。トルコ系ドイツ人のセルハト・イシク(Serhat Isık)とノルウェーとパキスタンにルーツを持つジャミン・A・フゼビー(Benjamin A. Huseby)の中東系のデザイナーデュオが付けたタイトルなので、Whiteは白ではなく“白人”を意味していると容易に分かりました。Noiseの直訳は“雑音”で、白人に対してあまりポジティブな表現ではありません。キャスティングされたのは、茶褐色系の肌の色をしたモデルのみ。ルックはどこかに白を使うか、白で薄めた色(淡いパープル、ピンク、ブルーなど)が用いて“白”を探求したのでしょう。上下デニムやファー、乗馬ブーツなどが登場しましたが、まとまりがないうえに新鮮さもなく、私の頭の中は(???)だらけ。“Free Palestine(パレスチナ解放)”の文字だけが、宗教と政治の問題により中東の国々で衝突が激しさを増す今を象徴するもので、それ以外のデザインは意図が正直分かりません。
怒りなどのネガティブな感情を原動力にして創作に取り組むデザイナーは過去にもいましたし、陰があるから陽が際立つのだと証明してくれた事例も多々ありました。しかし今シーズンの「ゲーエムベーハー」は陰もなければ陽もありません。何より、ある特定の人種に対するネガティブな言葉を私は見たくありませんでした。むしゃくしゃするので、最後に美味しいパンを食べることにしましょう。
本日のパン
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日本でも主流のクロワッサンやパンオショコラを、ぺちゃんこにしたような形のパンが私のお気に入り。それぞれクロワッサン・ザマンド、パンオショコラ・アマンドという名前で、今日はパンオショコラの方にしました。生地にアーモンドクリームを混ぜて焼き上げた進化系のパンで、クロワッサンとパンオショコラよりもしっとりしています。想像通り甘〜〜いのでコーヒーと相性抜群!朝食メニューを23時に食べております(笑)。パリメンズも残すところ後2日、おいしいパンと気合いで乗り切れそうです!