三越伊勢丹が口コミを活用したUGC(User Generated Content)マーケティングに本腰を入れている。企業側が一方通行で仕掛ける広告だけでは消費者に響かない。SNSを通じて個人がメディアになる時代は、影響力を持つ個人が発信する情報が共感を呼び、拡散される。SNS上の口コミの数がウェブでの指名検索にもつながる。集客のために広くマス(大衆)に網をかけるのではなく、熱烈なファンとの関係を深く構築するために何をすべきか。現場では新しい取り組みが相次いで始まっている。 (この記事はWWDジャパン2021年6月28日号からの抜粋です)
テーブルに並べられたアイシャドウパレットを前に会話が弾む。
「光れば光るほどいい。ラメがないと死んでしまう」「私は粉質重視かな」「限定品に弱いんです」
伊勢丹新宿本店近くのビルで同店の公式サポーター「イセタニスタ」の女性4人による座談会が行われていた。各社のアイシャドウパレット、マスカラ、アイライナーを比較して、鋭い意見が交わされる。その模様は近日中に三越伊勢丹のサイトにアップされる。
イセタニスタは同店の熱量の高いファンを組織化したものだ。ファッション、ビューティ、食、インテリアなどに一家言を持ち、インスタなどのSNSで数千から数万のフォロワーを持つ人を対象に募集をかけ、およそ6倍の競争率の中から選ばれた。昨年秋に試験スタートした0期生と、今春の1期生を合わせて91人が活動する。構成は20〜50代の学生から経営者までさまざま。半年で77回の体験会、撮影会、座談会、オフ会などを実施し、時にはバイヤーとの商品会議にも出てもらった。その様子は各自のSNSで拡散される。
同社MD統括部の松岡史育氏は「熱量の高いリアルな声が、お客さまからお客さまに広がることが大切」と強調する。熱心な伊勢丹ファンはこれまでも多く存在した。その人たちにバイヤーや販売員との特別な交流の場を設けることで、伊勢丹の舞台裏まで知ってもらい、さらにロイヤリティーを高める。イセタニスタからは「ずっと片思いだったのが、両思いになれた」「私たちと伊勢丹のスタッフの皆さんは同志だと思う」という感想が届く。そんな熱い思いがSNSで拡散され、新しい顧客の呼び水になる。インスタで紹介された赤ちゃんの布団代わりになるスリーパーや、「ミラブル」のシャワーヘッドには問い合わせが殺到した。
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