“京都が眼鏡で活性化している!”として、5月26日に新業態「ジ・アイヴァン」を祇園にオープンしたアイヴァン(東京)の山本典之社長や、その京都で約30年眼鏡ビジネスを続ける「オブジェ」の柳島邦門イアラ マーケティング スペシャリティズ社長、「G.B.ガファス」「デコラ」の2業態を擁する竹中太一グラッシーズ社長のインタビューを掲載してきた。最後は2020年6月、エースホテルの上陸で話題となった商業施設、新風館に出店したグローブスペックス(東京)の岡田哲哉社長に話を聞く。
WWD:「グローブスペックス 京都店」にとっては、コロナショックが直撃した1年だった。
岡田哲哉グローブスペックス社長(以下、岡田):確かにその通りなのだが、京都店はグローブスペックス23年の歴史のなかで、月間の単店売り上げで過去最高を記録した。
WWD:勝因は?
岡田:20年1月にNHKで放送された「世界はほしいモノにあふれてる」に、僕が取り上げられたことが大きい。フランスへの買い付けの様子が再放送を含めてこれまで4回放送され、そのたびに大きな反響を得ている。再放送は京都店オープンの直前にもあり、行列ができ、入店まで2時間待ちとなることもあった。密にならぬよう入店制限も行った。行列は20年秋まで続き、結果としてインバウンドは失ったが、国内需要が伸びた。
WWD:コロナ前のグローブスペックスのインバウンド比率は?
岡田:約2割。イタリア・ミラノで開催される世界最大の国際眼鏡展「ミド(MIDO)」が、優秀なアイウエアショップに与える「ベストア・アワード」を17年、18年と2年連続で受賞させてもらい、それに伴い多くの海外メディアにも取り上げられ、東京・渋谷、代官山の店舗には外国人客も多く訪れていた。
WWD:京都店の初年度売上目標は達成できた?
岡田:特にオープン当初の3カ月が予算を大きく上回り、通年でも20%増で着地した。
WWD:来店客の構成は?
岡田:世代は20~50代と幅広く、男女比は半々ほど。
WWD:世界中から1年がかりで集めたというアンティークで構成された店内は“岡田ワールド”そのもので、新風館の話題性とも相まって観光地のように客が訪れている。
岡田:1926年に京都中央電話局として竣工された新風館の特徴を生かすため、建物と同じ100年ほど前の家具や装飾品をアメリカやヨーロッパから買い付けた。そこに、ほんの少し和の要素を加えているのがポイントだ。
WWD:京都店の成功はある程度予想していた?
岡田:いや、当初関西圏でのグローブスペックスの認知度は分からず、またかなりマニアックなラインアップのため、苦戦するかもしれないと思っていた。しかしそれは杞憂で、東は名古屋から西は広島まで多くの方が来店してくれている。驚いたのは、「関西に出店してくれてありがとう」と感謝されることだ。初来店時の期待度が東京より高いのが京都店のお客さまの特徴で、その期待に応えられると、次は友人や家族を連れてリピーターになってくれる。
WWD:コロナが収束してエースホテルが本格稼働すれば、インバウンド客を中心とした第2ブーストにも期待できるはずだ。
岡田:そのために外国語を話すスタッフを育成中だ。また、海外で眼鏡修行をさせていた息子を予定を早めて呼び戻し、京都店の店長代理とした。
WWD:京都店の売れ筋は?
岡田:京都の人には、“お洒落だが派手なものを好まず、シンプルで上質なものを長く使う”イメージがあった。そのため、アンティークフレームのような美しさを持つドイツブランドの「ルノア(LUNOR)」や「ゲルノット・リンドナー(GERNOT LINDNER)」を並べたが、蓋を開けてみると東京でもあまり動かないようなカラフルで突飛なデザインの眼鏡が売れた。
WWD:困難な状況下でECを始めた企業も多い。グローブスペックスは?
岡田:その意味では、むしろ逆を行っているかもしれない。僕は月に1度、京都店に立っているが、土日は朝から晩まで予約で埋まってしまうほど盛況だ。眼鏡は顔の中心に載せるアイテムで、良し悪しを自分では判断しづらい面がある。お客さまは自分の好みを理解して、見立てを行うコンシェルジュを必要としている。また、EC先進国であるアメリカでも、眼鏡は伸び悩んでいるというデータがある。そこには医療器具ならではの壁があると思う。
WWD:他エリアからの進出組が、京都でビジネスを継続的に成功させるのは難しいとも言われる。また、京都には30年近くビジネスを続ける専門店もある。
岡田:他店を意識することはない。出店地選びで大切なのは、グローブスペックスと相性がいいかどうかだ。京都は世界トップクラスの観光地であり、長い歴史がありながらも新しいものを巧みに取り入れている。京都の方のこだわりの強さも、当社にとっては追い風になった。
WWD:今後も京都のように、発信力の高い都市への出店を検討している?
岡田:可能性はもちろんある。詳細は差し控えるが、海外でもグローブスペックスに合いそうな街はいくつもある。ただし、店舗数を増やすことには意味を感じておらず、僕が求めるサービスのあり方を実現したい。
WWD:眼鏡ビジネスにおいて最も大事なことは?
岡田:楽しい“ファッションアイテムとしての眼鏡”と、視力補正など“機能としての眼鏡”、両輪のクオリティーを落とさないことだ。“デザインが良ければ、多少見えなくてもいい”とは誰も思わず、“よく見えれば、見た目は一切問わない”という人もいない。
藤井たかの(ふじい・たかの)/眼鏡ライター:1976年、大阪府生まれ。大学卒業後、編集プロダクション勤務などを経てフリーランスに。年間1000本以上の眼鏡に触れ、国内外の見本市や工場、商品紹介などのアイウエア記事を担当する。自身のユーチューブチャンネル「メガネ流行通信」でも、世界の眼鏡トレンドやデザイナーインタビューなどを配信中。著書に「ヴィンテージ・アイウェア・スタイル 1920's-1990's」(グラフィック社)がある