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LVMH会長兼CEO、サマリテーヌ再開業の舞台裏を語る 「当社以外では成し遂げられなかった」

 16年間に及ぶ大規模なリノベーションを経て、2021年6月23日に営業を再開したパリの老舗百貨店サマリテーヌ(LA SAMARITAINE)。同百貨店が「ルイ・ヴィトン(LOUIS VUITTON)」や「ディオール(DIOR)」などを擁するLVMHモエ ヘネシー・ルイ ヴィトン(LVMH MOET HENNESSY LOUIS VUITTON以下、LVMH)の完全子会社であることから、オープン前日の落成式にはベルナール・アルノー(Bernard Arnault)LVMH会長兼最高経営責任者(CEO)が出席した。また、来賓としてアンヌ・イダルゴ(Anne Hidalgo)パリ市長に加えて、エマニュエル・マクロン(Emmanuel Macron)仏大統領が出席したことからも、サマリテーヌに対する注目度の高さと、フランスにおけるLVMHの存在感の大きさがうかがえる。コロナ禍の影響で観光客が不在の中オープンした同百貨店に賭ける思いなどについて、アルノー会長兼CEOに米「WWD」が聞いた。

WWD:サマリテーヌの落成式には、マクロン仏大統領が出席した。同百貨店が仏政府にとって重要であることを示しているのでは?

アルノーLVMH会長兼CEO(以下、アルノー):サマリテーヌの営業再開は、3つの点で象徴的だ。まず、サマリテーヌがパリの中心地にある歴史的建造物であること。かつてサマリテーヌの一部だった隣接する建物には、当社が擁する高級ホテルのシュバル ブラン(CHEVAL BLANC)が入っているが、このアールデコ様式の建築も注目に値する。また、リヴォリ通りに面する建物は、日本の建築事務所SANAAが設計した。こうしたことから、サマリテーヌは建築的な観点で象徴的だといえるだろう。

次に、美術的な観点での重要性が挙げられる。店内にある孔雀のフレスコ画は、建物を設計したフランツ・ジュルダン(Frantz Jourdain)の息子である画家のフランシス・ジュルダン(Francis Jourdain)によるもので、現存するアールヌーボー様式の壁画としては世界最大級だ。

最後に、サマリテーヌ、シュバル ブラン、そして関連オフィスなどを含め、パリの中心地におよそ3000人分の雇用を創出したことを挙げておきたい。マクロン大統領がこのプロジェクトに関心を持ったのは、それが大きいのではないか。また、フランスおよび世界中がコロナ禍による危機的な状況に苦しめられてきた中で、事態が落ち着きつつあるこのタイミングで営業を再開したということもあるだろう。同大統領が落成式に参加したのは、人々を応援して力づける意味もあったと受け止めている。事実、同大統領が店内を回った際には各フロアで大きな喝采が起きた。これまでにも当社の施設を訪れた大統領は何人かいるが、あれほど熱狂的に迎えられるところを見たのはこれが初めてだ。

WWD:現在、パリの中でもこのエリアは急激に進化しているが、サマリテーヌは経済的、文化的にどのように貢献すると思うか。

アルノー:さまざまな商品やブランドを取りそろえた、百貨店の手本のような場所であると同時に、喜びや楽しみを象徴する存在にしたい。この比類のない環境が整えられた店舗では、(セーヌ川が眼下に広がる)素晴らしい景色を堪能しながらランチを楽しむことも可能だ。サマリテーヌは、単なる商業施設を超えた“デスティネーション(わざわざ行きたくなる)”ストアだと考えている。

ホテルのシュバル ブランも同様だ。各客室にはセーヌ川を臨むバルコニーがあり、そこで朝食を取ることができる。素晴らしいインテリアの中、騒音に邪魔されることなく、静かに景色と食事を楽しめる。

WWD:改装には16年かかったが、途中で投げ出したくならなかったか?

アルノー:一回もない。私自身にも、LVMHのDNAにも、諦めるという選択肢はない。当社は物事を長期的に計画して実行することに長けているし、困難に直面して周囲が弱気になっても、私は最後までやり遂げるつもりでいた。ルーブル美術館(Musee du Louvre)やジョルジュ・ポンピドゥー国立芸術文化センター (Centre national d'art et de culture Georges Pompidou)に囲まれた、この美しいロケーションに建つ歴史的建築物をリノベーションして再びオープンすることについて、フランスという国、パリという都市が反対するわけはないと信じていたので、常に自信を持ってプロジェクトを進めた。

一方で、これはLVMH以外には成し遂げられなかったのではないかと思う。一族経営で、事業を長期的な目線で考え、15年以上も収益のないプロジェクトに投資し続けられる企業となると、フランスでは当社しかないと自負している。

WWD:観光客不在の中、免税店のDFSなどを運営するセレクティブ・リテール部門の展望は?また、観光客はいつ頃戻ると思うか。

アルノー:短期的には、コロナ禍の影響によって観光客はパリだけでなく世界中でほぼいない状態が続くが、いずれは間違いなく元に戻る。それが6カ月後なのか18カ月後なのかは、各国の対策や医療技術の進化などによるので、予想することは不可能だ。しかし、当社は(サマリテーヌのオープンまで)15年待ったので、あと1年ほど待つことはさほど大きな問題ではない。

WWD:事態が落ち着いた際には、どの程度の客足を見込んでいるか。

アルノー:ぱっと数字は浮かばないが、パリにあるほかの百貨店と同程度、もしくはそれを超えるのではと期待している。観光客の多くはルーブル美術館を訪れるが、そこから徒歩圏内という素晴らしい立地が寄与するだろう。

WWD:サマリテーヌはギャラリー・ラファイエット(GALERIES LAFAYETTE)などより小規模だが、勝算は?

アルノー:小規模であることが有利に働くと思う。売り場が広すぎると、スペースを埋めるのが大変だ。サマリテーヌでは、必要な物をちょうどよくそろえられる。

WWD:イダルゴ=パリ市長は、セーヌ川沿いの道路やリヴォリ通りでの車両通行を禁止したほか、パリ中心部での通行規制を計画している。サマリテーヌなどの売り上げに影響すると思うか。

アルノー:パリ市およびイダルゴ市長は、この開発プロジェクトがパリの中心部に3000人分の雇用を創出したことをよく理解しているし、(その雇用を守るには)競争力が重要であることも理解している。イダルゴ市長は、サマリテーヌがパリのほかの百貨店と比べて経済的に不利になることはないと約束してくれたし、私はその言葉を信じている。

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