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ZOZOの元COOが再エネの新会社、風力+IoT蓄電池で世界に送電

 ZOZOのテクノロジー部門を率いて「ゾゾスーツ(ZOZOSUIT)」や「ゾゾマット(ZOZOMAT)」「ゾゾグラス(ZOZOGLASS)」などを仕掛け、今年6月に退任したZOZO元取締役COOの伊藤正裕氏が渾身の新事業立ち上げを発表した。8月18日にオンライン事業説明会に登壇し、新会社パワーエックス(PowerX)の発足と、再生エネルギー事業に賭ける思いやその可能性について語った。

 「船で電気を輸送。洋上風力発電の爆発的普及を実現する」をミッションに掲げるパワーエックスは、洋上風力でつくられたクリーンな電力を直接バッテリーに蓄電し、電気運搬用に自社開発する船舶「パワー・アーク(Power ARK)」で、海上から世界中の変電設備まで無人で電気を運搬する送電事業を行うもの。それに先駆け、国内に大型電池工場を設け、「電気をつくる、溜める、運ぶ」のサプライチェーンを設計・構築することで、自然エネルギーの爆発的普及を狙う。

 設立の背景について、「世界的な脱炭素の動きや、EV車の急増などを踏まえて、再生エネルギーの普及のためにはは、さまざまな拠点をつなぐ新たな送電問や系統の拡充が重要課題だ。日本のエネルギー拡大促進のために、新しいテクノロジーを開発し、電気の蓄電と送電にイノベーションを起こしたい」「グローバル展開も構想している。送電をさらに遠距離化することで、国境を超えた大陸間のクリーンエネルギー輸送なども実現が可能になる」と伊藤パワーエックス社長兼CEO。

 海洋発電は、有力な再生エネルギーの一つとして注目を集めている。ただし、従来型の海底ケーブル方式では、海底の掘削による環境負荷が大きく、大規模な敷設工事が必要となる。また、洋上風力施設は建設時間やコストなどの観点から海岸から15~20キロメートル程度に設置することが一般的だ。一方、エネルギーをそのまま船舶で運べるようにすることで、「環境や自然に著しく優しくなる」ことや、海洋ケーブルから解放されることで「風力の強い沖合に設置できる」など設置場所の自由度が向上するなどの利点がある。「海で囲まれた日本の豊富な自然エネルギーのポテンシャルをより活かすことが可能となる」。地震や津波、集中豪雨などの自然災害の多い日本において、有事の際に現地に速やかに航行し、「非常用電源としてそのまま使用することで、命を救うことにもつながる」という。

 船舶の自主開発や、エネルギー輸送の実現は10年越しの事業となる。また、電気運搬船には大型蓄電池を大量に、低コストで積載する必要がある。そこで、まずは国内に大型電池自社工場を建設し、船舶用電池、電気自動車(EV)急速充電器用電池、グリッド電池などの大型蓄電池の製造・販売を行う。では、セルを製造するのではなく、電池のパッケージングをオートメーション化する。

 「再生エネルギーには必ずカタリスト(媒介者、促進者)が必要で、サプライチェーンが必要だ」。脱炭素社会、自然エネルギーの普及にともない、大型蓄電池の需要が飛躍的に伸びることも大きなポテンシャルだ。パワーマックス(Pawer MAX)事業で「電池を大量に製造することでコストを下げ、今後拡大する蓄電池需要に対応する。まずはこれを収益源として売り上げを稼ぎ、長期ビジョンの実現を目指したい」。工場には100億円前後を投資予定。来年建築を開始し、23年にはテスト生産、24年に本生産を開始予定だ。

 最近、ガソリンスタンドやコインパーキング、商業施設の駐車場などにEV車用のチャージャーが設置されるケースが増えているが、従来では高圧電線を引いてきて固定チャージャーを作る時間とコストがかかっていた。一方、パワーマックスの再生エネルギー畜電池は軽自動車程度のコンテナ型を想定しており、「スーパーやコンビニ、小売店、レストランの駐車場などにポンと置くだけ。コンビニで買い物をしている10分間で急速充電できる」と、日常生活の導線上での利活用を提案。さらに、「IoTで、すべての使用状況と寿命を把握できる。据え置き型ではないので、使われていない場所のものはすぐに移動させられるため、消費者の欲しいところにかならずある状況が作れる」という。

 共同創業者で取締役会長を務める鍵本忠氏は医師で、再生医療事業を行う東証マザーズ上場企業のヘリオスの創業社長。社外取締役には、ルノーや日産自動車、テスラモーターズ出身で、現在は電池ベンチャー世界大手のノースボルト(Northvolt)の創設者兼 COO のパオロ・セルッティ(Paolo Cerruti)氏や、元 Google 幹部のシーザー・セングプタ(Caesar Sengupta)氏、米国 Goldman Sachs 元パートナーで、2008 年から世界最大規模の環境系 NGO「ザ・ネイチャー・コンサーバンシー」のCEOを務めてきた、金融と環境問題の専門家であるマーク・ターセク(Mark Tercek)氏ら、国内外の大物が就任するなど、世界的なプロフェッショナル人材で固めている。

 具体的な構想からは1年ほどだが、伊藤社長兼CEOは「イノベーションやテクノロジーに挑戦することが大好き」で、長年、「『テクノロジーを通して日本や世界の課題を解決し、社会に貢献したい』と考えてきた。もともと海や船が大好きで、海洋国家である日本で、海洋エネルギーの普及に貢献できると考えた」とも明かす。生涯を賭け、電気の燃料を運ぶ時代から、電気そのものを運ぶ未来へとイノベーションを起こし、クリーンエネルギーの爆発的普及を目指す。

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