フランス発ジュエラー「ブシュロン(BOUCHERON)」の2021年新作ハイジュエリーのテーマは“ホログラフィック(光と色)”だ。“ホログラフィ”とはギリシャ語で“全てを表現する光の現象”。それは、自然界の虹のようなものだ。同コレクションは9つのグループから構成される全25点。インスピレーション源は、デンマーク人アーティストのオラファー・エリアソン(Olafur Eliason)とメキシコ人建築家のルイス・バラガン(Louis Barragan)の光と色に関する作品だ。新作コレクションでは、全てのジュエリーにこの光の色調が表現されている。ここでは、新作ハイジュエリーおよび、その制作秘話を紹介する。
ブシュロンのエレーヌ・ブリ・デュケン(Helene Poulit Duquesne)最高経営責任者(CEO)とクレール・ショワンヌ(Claire Choisne)=クリエイションディレクターがイギリス・ロンドンでエリアソンの展覧会に訪れたのが、このコレクション制作のきっかけの一つだった。ショワンヌは、「エリアソンの展覧会で感じた色による喜びや驚嘆をジュエリーで表現したいと思った。エリアソンやバラガンの作品、そして自然界の虹やオーロラといった異なる無限の色彩を一つのコレクションで表現したのが“ホログラフィック”だ」と語る。
建築用の技術を用いて描く“ホログラフィック”
このコレクションでは、自然に色調が変化するオパールを使用したものや、「ブシュロン」ならではの革新的なチャレンジから誕生したジュエリーまでさまざまだ。プリ・デュケンCEOは、「『ブシュロン』では、クレールの夢、実現したいものを抒情的に表現するために革新的な技術を開発している」と言う。このコレクションでは、虹色を表現するために、建築用素材企業サンゴバンが持つ飛行機の滑走路や反射板などに使用されるコーティング技術をジュエリーへ応用。高温で溶かした酸化チタンやシルバーなどの金属をロッククリスタルやセラミックに何層もスプレーすることで虹色を実現した。「2019年にコンセプトを作り、イノベーションチームに説明して出合ったのがサンゴバンの技術だった。仕上がりが予測できず、手探りでテストをくりかえして完成させた」とショワンヌ。彼女の一番のお気に入りの“ホログラフィック”ネックレスは、デッサンではなく、アトリエで模型を作り制作したという。この立体的でフューチャリスティックなネックレスには2mmにカットしたクリスタルの板に酸化金属の薄いコーティングを10層施して虹色に仕上げた。ショワンヌは、「私のビジョンを達成できた作品。虹色の効果もそうだが、クリスタルの板を組み合わせてつなぎが表から見えないようにしなやかに仕上げられたのは予想以上だった」と話す。このネックレスは、アトリエに差し込む太陽光が映し出す影を再現している。「まるで、襟元に太陽をまとうイメージね」とプリ・デュケンCEO。
創業者のビジョンをチームワークで実現
「ブシュロン」では、プリ・デュケンCEOとショワンヌが密に話し合いをしてクリエイションをしている。同CEOは、「われわれは幸運なことに、小規模のメゾンなのでクレールやセールスチームとは日常的にコミュニケーションをとるし、クリエイションのプロセスに関わっている。新しくリスクの高いクリエイションにはサポートが必要。それを示すのが私の役割の一つだ」と述べる。メゾンの創業者であるフレデリック・ブシュロン(Frederic Boucheron)の“今まで見たことのない未知のものを作り出す”という革新的なビジョンは、社内のチームワークにより維持されている。「エレーヌも私もハイジュエリーの限界を広げたいという思いでクリエイションしている」とショワンヌ。毎年、革新的なチャレンジから誕生するハイジュエリーはまるでアートピースのようだ。