ファッション

ユーチューバーかんだまがユナイテッドアローズとモノ作りに挑んだワケ

 ユナイテッドアローズ(以下、UA)は16日、人気ユーチューバーの“かんだま”こと神田麻衣をディレクターに迎えた新ブランド「マルゥ ユナイテッドアローズ(MARU UNITED ARROWS)以下、マルゥ」を公式サイトとECモール限定で発売した。25〜34歳の女性をターゲットに「消費者目線のリアルクローズ」を提案する。

 神田は、前職のバロックジャパンリミテッド(以下、バロック)に勤めていた2017年に自身のYouTubeチャンネル「かんだま劇場」を立ち上げ、ユーチューバーとしての活動を開始した。プチプラアイテムを組み合わせたコーディネートや着まわし動画が、20〜30代の女性を中心に支持を集め、現在は約32万人の登録者を持つ。神田とUAの池谷啓介営業統括本部プランニングディレクターに同ブランドを立ち上げた狙いやビジョンを聞いた。

WWD:「マルゥ」立ち上げの背景は?

神田麻衣(以下、神田):昨年末に前職のバロックを退社し、今年は少しのんびりしようかなと思っていました。ただ、最近自転車での移動が多く、おしゃれなジャージーが欲しくて、自分の生活雑貨ブランド「白黒商店」でジャージーを製作していたんです。そこで、シルエットや生地のバリエーションなど、改めて服作りの難しさにぶつかりました。困っていた私に、所属事務所から「UAさんが相談に乗ってくれるよ」と話があったんです。

池谷啓介UA営業統括本部プランニングディレクター(以下、池谷):実は僕は神田さんがYouTubeを始めた当初からフォロワーでした。丁寧な商品紹介や共感できるコーディネート提案など、独りよがりでない発信の仕方に感心していました。ちょうどコロナ禍で社としてもECやデジタル上のコミュニケーション力を向上させる施策を考えていて、神田さんのような方と商品開発ができたら面白いのでは、と思い立ったんです。

WWD:ファッションユーチューバーの中でも神田さんの際立っている点は?

池谷:視聴者への愛情のある伝え方だと思います。バズを起こして、一過性の売り上げを立たせるのではなく、神田さんとは本質的なモノづくりに取り組めると思いました。

神田:ありがたいですね。私はバロックに入社以前は全然ファッションに興味がありませんでした。でも、「マウジー(MOUSSY)」に出合ってファッションに目覚め、雑誌の好きなコーディネートを見つけては文字でその要素を書き出してみるなど、コツコツ学んできたタイプです。だからこそファッションの“カッコ良さ”や“可愛さ”を、噛み砕いて伝える力は強みだと自負しています。その手法の一つとして、プチプラアイテムと組み合わせたコーディネート提案があります。

池谷:「マルゥ」でも、着まわしやすさが大きなポイントです。自社ブランドだけで完結した提案はリアルではない。神田さんには是非、他のブランドともどんどん組み合わせて提案してほしい。

WWD:神田さんのUAに対するイメージは?

神田:高級感や大人、優等生。いろいろな意味で距離感が遠い。SNSでのコミュニケーションに対しても距離を感じていたのが正直なところです。

池谷:それは私たちも認識しているところ。だからこそ、神田さんと取り組むことでその距離感を縮めていきたい。神田さんとの会議で印象的だったのは、「スカートはビールっ腹をカバーできるようなシルエットに」といったリアルな意見です。これまでファッションは、カッコ悪い部分を隠して表現していましたが、赤裸々な悩みをベースに提案してくのもありかもしれないと思いました。神田さんを通すことで良い意味で「UAなのに言えること」が増え、社の多様性を高めたい。

悩みの多いアラサーにリアルクローズを提案

WWD:神田さんはこれまで「ファッションを楽しむ消費者側にいること」にこだわっていたと思うが、UAと組むと決めた理由は?

神田:実際に過去に同様の話をもらったことがありましたが、断っていました。でも、UAとなら、モノを見て買ってもらえると思いました。おそらく、バロックからブランドを出せば、すでに私を知っている人が多いので、売れたと思います。だけど、「この人だから買いたい」ではなく、「モノがいいから買いたい」と思ってほしいんです。モノづくりへの圧倒的な安心感があるUAとならば、それができると思いました。

WWD:あえてコミュニティーの枠から出て挑戦したということ?

神田:はい。なので正直、毎日めちゃくちゃ不安でいっぱいです。最近、変な夢もたくさん見ます。自分は満足しているけど、自己満足で終わってしまわないかが不安です。ただ、先日YouTubeで「マルゥ」誕生を発表した時には、ファンの方から予想以上に「応援する」といったコメントがもらえてうれしかったです。

WWD:神田さんの想像する“消費者”とはどんな人?

神田:郊外に住んでいるアラサーを想定しています。アラサーは体型やライフスタイルも変化が多く、悩みの尽きない年代です。周りも生活におけるファッションの優先順位が落ちて、服を買わない人も多い。そんな人たちに、「マルゥ」を通してファッションの高揚感を伝えたい。都会に住んでいるとさまざまなアイテムに挑戦しやすいですが、私が以前住んでいた八王子では派手すぎると浮いてしまう。「マルゥ」では、郊外での日常にも馴染むし、おしゃれを頑張りたくない人でも自然におしゃれになるアイテムを提案したい。

WWD:デザインでこだわった点は?

神田:私自身や周りのファッションに関する悩みをベースに考えています。例えば世に出ているパフスリーブ袖は、パフッとしすぎているものが多い。「マルゥ」では、仕事中や洗い物する時など袖をまくっても邪魔にならないボリューム感をパタンナーと相談して作りました。ほかにも、ワンピースは身長によって着こなし方がわからないといった悩みも多い。「マルゥ」のワンピースはサイドにスリットを入れ、段差を生み、高身長の方はパンツやミドルブーツと組み合わせてレイヤードを楽しめるようにしました。同時に159cmの私で長すぎない丈なので、低身長の方はすっぽりロング丈として着られる。切り替え位置を上に持ってくることで、スタイルアップもできます。ハリ感のある素材で体型カバーも叶えています。

池谷:当社のブランドも消費者の課題解決を商品開発の軸に置いていますが、神田さんのように特定少数に向けた開発はめずらしい。でも、神田さんが狙う層のニーズを拾うことで、共感の輪が広がり、マーケットが大きくなることを想定しています。

10年後も商品が消費者の手に渡り続けてほしい

WWD:神田さんのコミュニケーション力はどう生かす?

神田:一方的に世界観を提示するのではなく、消費者と共創する姿勢を「マルゥ」の強みにしたい。公式インスタグラムでは、どんどんコメントしてくださいと呼びかけています。アンケートを実施して、色展開に反映するなど商品を購入する以外の関わり方ができるような施策も考えています。まだ相談中ですが、生産過程も生配信したい。業界にいなければ、服作りの裏側ってなかなか想像できないですよね。あえて、モノ作りの現場を見てもらうことで、ファッションの楽しみ方が変わったり、商品への愛着が湧いたり、何かしらのきっかけになると思います。

WWD:「マルゥ」では、サステナビリティにどう取り組む?

神田:バロックでは廃棄予定の在庫を再販する事業に取り組んでいて、やはり私の問題意識は在庫です。まずは作りすぎず、適正価格で売り切ることに注力します。チームでは、“高みえ正直プライス”と呼んでいます。そして、着回しや商品の良さを私がきちんと伝えることで、長く楽しんでもらいたい。今後は環境配慮型素材も視野に入れて採用したいですし、UAの在庫を活用したモノ作りにも挑戦してみたいです。一つの会社で解決できる問題ではないと思うので、業界がもっとチームになってほしい。

WWD:今後どのようにブランドを成長させていく?

神田:個人的には、10年後もブランドを続けられていたらうれしいです。10年後にも「マルゥ」の商品を着てくれている人がいたり、家族や友人に引き継がれていたりするのが理想です。そのためにもカテゴリーを広げる前に、まずは“ダマベーシック”と呼んでいるシャツやジャケット、セットアップなどを中心にモノ作りに注力します。ただ商品を購入してほしいのではなく、おしゃれをすることの楽しさをさまざまなな角度で表現したい。「マルゥ」をいろんなアイテムと組み合わせて、「この格好している自分が好き」と思える経験を多くの人に提供したいです。

池谷:当社も神田さんの思いに共感しています。安心、安全なイメージだけでなく、改めてファッションの楽しみを発信するブランドとして育てていきたい。具体的な目標数値は非公開ですが、神田さんが持っているコミュニケーションのサークルが壊れないことを最優先させ、規模よりもお客さまとの関係性を深めていくことを重視します。

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