2021年9月4日、東京パラリンピックが閉会した。新型コロナウイルス感染拡大による開催延期や厳しい感染対策など、さまざまな関門をくぐり抜けての実施となった。そんな中、パラリンピックの開会式・閉会式は高い評価を受け、SNSでは「デコトラがすごい」「強そう・かっこいい」「ラスボスが出てきた」などのコメントが飛び交った。デコトラ演出でパフォーマーが着用していた、LED付きの衣装も大きな存在感を放った。
この衣装を手がけたのは、ファッションデザイナー小西翔。パーフォーマー約50人の衣装を、全てゼロからデザインした。小西デザイナーは1991年高知県生まれ。東京モード学園を首席で卒業し、パリやニューヨークの大学院でもファッションを学んだ人物だ。現在はニューヨークと東京を行き来し、世界で活躍するアーティストのコスチュームを多数手掛けている。
取材当日の小西デザイナーは、全身ブラックの装いで長い髪を結んでいた。クールな人かと思ったが、満面の笑みで「パラリンピックの衣装に関われたことはデザイナーとして冥利に尽きます。こんなに嬉しいことはない」と話した。彼の愛嬌の良さと熱い信念を感じた。
「障がいというネガティブな要素を
吹き飛ばすビジュアルに挑戦したい」
不安だらけの衣装製作
原動力は
「アスリートと変わらない演者の熱量」
2021年に入り、送られてきた資料に目を通すと演者の病名や身体の状態、注意事項等が明記されていた。しかし、文書だけでは演者の本当の個性がわからないため、「僕はそれぞれの演者さんと直接お話がしたいと提案しました」。演者と対面し、話を聞いていくうちに「どの人もパフォーマーとして芯があり、アスリートと同等の熱量がある」ことを痛感した。「僕も夢を追いかける人のサポーターでいたい」という気持ちが生まれ、「いつのまにか不安はなくなっていました」。武藤氏とは音楽活動の話で盛り上がり、「衣装はできるだけ光らせてください!なんでもやりますから」と答えてくれたという。その後も主要パフォーマーと対面し、それぞれの個性や内面に触れるにつれ、「義足モデルだからといって義足を目立たせたいわけじゃない。車椅子だから車椅子を光らすのも違う。それぞれの伝えたい意志やバックグラウンドが融合し、“個性”が“魅力”へと変貌する。そこに焦点を当ててデザインすることに決めました」。
パラリンピックの衣装は
「服作りの哲学が繋がる機会」
小西デザイナーはパリ美術学校でオートクチュール&テクノロジー学科を専攻し、3Dプリンターとサステナビリティとの関係を論文で発表。その後パーソンズ美術大学に移り、多様な体、人種、性別、肌の色が異なる人々が集まるニューヨークで、“カテゴリーを取っ払った”美しさ”を考えるようになったという。「ニューヨークで”美しさとは何か”を多角的に議論する時間が刺激的だった。例えば美しい=色白と答えてしまうと、差別につながりますよね。男女や人種、障害の有無などカテゴライズを取っ払ったときの美しさとは何か。デザイナーとしてできることはーーこれを考えて、アイデアを練っていたタイミングでパラリンピックの衣装オファーが来ました」。
「マイノリティという枠を取っ払い、
徹底的に個人と向き合う」
身体に障がいを持っている方にとって着せやすい・着させやすいという利便性だけでなく、彼・彼女らとしっかり向き合いデザインで昇華させる小西デザイナー。その姿勢は、当事者がファッションの素晴らしさを感じ取るかけがえのない機会になっただろう。パラリンピック開会式以外にも、身体障がい者がデザイナーと向き合い、特別な一着を着られる機会が増えて欲しい。
小西デザイナーは今年3月、ファッションの教育を取り入れたスタジオスペース「ショウ コニシ デザイン ラボ(SHO KONISHI DESIGN LAB)」を世田谷区に開設した。「開会式の現場を肌で感じた経験を自分よりも若い世代に伝えていきたいです」と、教育者としての夢を語る。