「ジュンヤ ワタナベ(JUNYA WATANABE)」の2022年春夏は、メンズ(「ジュンヤ マン」が若き写真家の作品から再び自由に旅を楽しむ希望を表現)同様、イギリス人写真家のジェイミー・ホークスワース(Jamie Hawkesworth)がブータンで撮影した写真にインスピレーションを得て、日本の現代美術家の田名網敬一をはじめ、さまざまな画家たちのアートワークを多用した。
渡辺淳弥がメンズとウィメンズの双方で、同じ着想源から、同じムードのコレクションを提案するのは珍しい。いつもならメンズはオーセンティックなブランドとのコラボレーションも駆使して、トレンドに流されない王道のスタイルを提案。一方のウィメンズは実験の舞台に近く、常々モードの可能性を押し広げている。こうしたアプローチの違いは、ムードは同じでも、今回のウィメンズ・コレクションでも健在だ。フォーマルやワークと組み合わせたメンズが夏の旅、若き写真家のジェイミーがブータンを旅する姿のイメージだったとしたら、ウィメンズは彼が現地で出会った女性、そして彼女たちの神秘性や崇高な精神性を突き詰めたようだ。
田名網敬一らのアートワークは、ウィメンズでもふんだんに用いた。メンズ同様、Tシャツ地などにプリントしているが、その生地をたっぷり使い僧侶の袈裟のようにドレープが効いたドレスに仕上げている。ドレープやプリーツを駆使しつつ、一方で洋服の構造自体は極力シンプルに仕上げた。頭からかぶって生地を少し手繰り寄せるだけで完成するスタイルは、時流のリラックスムードとも合致している。中盤以降、舞台はブータンから中国に移ったようだ。スタイルはシノワズリの要素を強め、伝統的なオリエンタル柄や文様、色合いのアイテムが増加。そこにデニムパンツやレザーのライダースなどを掛け合わせ、東洋と西洋の文化の融合を図る。郷愁を感じさせる序盤、メンズとのコントラストがハッキリした。
そして終盤は、ブータンやインド、カシミールに住む人々の清い心をゴールドで表現しようと試みる。錦糸を織り込んだ贅沢な素材をたっぷり使い、プリーツを刻みながら、ゆったりしたフォームのケープやドレスを提案した。総ゴールドのスタイルは、現地の金剛仏像のよう、もしくは現地の人々の汚れなき心のように神々しい。ノスタルジックだったメンズから、さらに現地、そして精神世界を探求し、スピリチュアルの領域にたどり着いた。