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元「キャンディストリッパー」デザイナーの菊地千春が一人一人に合った服を提案する真意

 ファッションが好きな人なら「キャンディストリッパー(CANDY STRIPPER)」を知らない人はいないだろう。“NO RULE, NO GENRE, NO AGE”をコンセプトに1994年に誕生したウィメンズブランドで、年齢に関係なく遊び心を忘れない自由な発想の中に、普段着として着やすいウエアを提案。立ち上げから20年経った今でも若者に愛されている。

 同ブランドの立ち上げメンバーの一人、菊地千春デザイナーは今、リメイクブランド「マザーズメイド(MOTHER’S MADE)」に注力している。“捨てないおしゃれ”をコンセプトに、デッドストックやビンテージアイテム、輸入生地や付属を使って、1点モノを生産・販売。体が不自由な人が着る服にも興味を持ち、車椅子ユーザーであり、約14万のフォロワーを持つTikTokerえまちゃんに洋服作りを自らオファーするなど、既製品ではファッションを楽しみづらい人に向けてもアプローチしている。

 そんな菊地デザイナーにインタビューを行った。トレンドを追う「キャンディストリッパー」を離れて「マザーズメイド」を始めた理由から、障がいを持つ人の服をデザインする真意まで、菊地デザイナーに迫った。

「キャンディストリッパー」から中国移住まで
アパレル全盛時代のデザイナー活動

―どんな経緯で「キャンディストリッパー」を立ち上げたのですか?

菊地:バンタンデザイン研究所(以下、バンタン)に在学中、相方(板橋よしえデザイナー)が定期的にクラブイベントでファッションショーを企画していて、一緒に動いていた私に話を持ちかけてくれたんです。ブランドをやるからにはコレクションが必要だからと、授業が終わったら洋服を制作する期間が続きました。コレクションを発表するときには、彼女が写真家のホンマタカシさんと親しかったこともあり、デビューショーの写真を撮ってくれました。それが宝島社のファッション雑誌「キューティ(CUTiE)」に載って、大きな反響をもらいました。当時はバブルの名残でファッションが元気だったから、バンタンもテレビなどのメディア露出に力を入れてました。私たちも取り上げてもらったり、現在の所属会社の社長に知り合ったりと、あれよあれよという間にブランドが本格的に始動していきました。

 ブランドが始まってからは、彼女と当時気になっているカルチャーを話しながら、年4回新作を作りました。デザインを一緒にやりつつも彼女はとてもアクティブで、広告や営業などの仕事も受けていて、ブランドの顔のような存在になっていました。

 私はデザイナーとして勤める一方で、中国の生産背景や市場に興味が湧いてきちゃって。“世界の台所”と言われるくらい巨大だし、当時(2008年)は北京オリンピックもあって中国が非常に盛り上がっていました。そこでブランドを離れて、単身で中国に移住しました。

―ブランドが好調な最中に中国へ移住したのですか。

菊地:最初は語学の勉強をしつつ、アパレルの仕事に就けたらいいなと思っていました。私のようなフリーのファッションデザイナーって現地に少なかったし、景気が良かったことも追い風になり、百貨店のブランド立ち上げに関わったり、セレクトショップを開いたり、スタイリストやVMDの仕事もしました。それと、ブランド立ち上げの話も頻繁にいただきましたよ。飲食店の社長が「アパレルをやりたい」と勢いで始めた事業とかね(笑)。でも勢いだけだから、毎週プレゼンしたのに商品化されなかったり、実際にローンチできたブランドもあったけど、すぐ撤退しちゃったり。そんな中、女の子を授かったので、17年に日本へ戻りました。

「何百人に向けたデザインを
これからは1人のために」

―その後、なぜ「マザーズメイド」を立ち上ようと思ったのでしょうか?

菊地:きっかけは、19年に通販番組「ショップチャンネル(SHOP CHANNEL)」に出演依頼が来たこと。番組スタッフさんが「キャンディストリッパー」世代で、「一緒に何かやりましょう!」と言ってもらって。当時、夫の仕事の関係で衣類メーカーのデットストックが家に山ほどあったので、「この子たちをもう一度蘇らせたい」という思いで「マザーズメイド」を始めました。でも、いざリメイクしてみると、自分の技術が全然足りないことを痛感して。専門的な知識を学ぶため、お直し屋さんで2年間修行しました。

―お直し屋さんで修行ですか。そこでの経験は今に生きていますか?

菊地:もちろんです。対面してお客さまと話をすることで、多様な方々の悩みや細かなニーズを知ることができました。長年アパレルのデザイナーをやってきて、“何百人に向けた洋服”を企画してきましたが、お直しは一人のために作るので、考え方が全く違うんです。

―「マザーズメイド」のさらなる成長のため、21年10月にクラウドファンディングを実施しましたが、反響はいかがでしたか?

菊地:クラウドファンディングを行ったのは、まずは「マザーズメイド」を知ってもらいたかったから。それと、デザイナーが企画を考えオーダーメイドでリメイクできるサービスがほかになくて、「そんなサービスがあったら自分も利用したい」と構想しました。 お直しってパンツの裾上げ以外利用したことがない人が多数だと思うんです。でも、お洋服がどんどん安くなって簡単に捨ててしまったり、逆に、捨てられないお洋服もあったり、誰にでも悩みはある。あと、新しいお洋服を買うのも良いですが、古いお洋服をリメイクするという選択肢を増やしてもらい、気軽にリメイクをみんなに楽しんでもらいたくて。そこで、「オンラインを通してお直しやリメイクの考えが広めたらいいじゃん」って考えました。

 もう一つの理由は、障がいを持っている方とつながるきっかけがほしかったこと。 実は母が末期ガンで他界し、生前は毎日お見舞いに行っていたのですが、「キャンディストリッパー」の服をいつも着てくれていました。母との関係は良好とは言えませんでしたが、洋服がそれをつないでくれた。この経験から「ファッションを楽しみづらい環境でも、オシャレをするって大事だな」と思ったんです。お直しを活かせば、障がいを持つ人のニーズにも答えられるはず。試しに、クラウドファンディングの告知ページにTiktokerえまちゃんとのコラボ企画を載せてみたら、当事者やご家族のサポーターも集まり、リターンとしてリメイク洋服をたくさん作ることができました。

―意外なリメイク依頼もあった?

菊地:私の想像を超えてさまざまな境遇の人から連絡をいただきました。中でも忘れられないのは、お子さんを4歳で亡くしたお母さまから「捨てられずにとってある子ども服をリメイクできないか」というご相談。私も4歳の娘がいますので目頭が熱くなり、「身に付けるより家で飾れるものが良いのでは」とカーテンを提案したところ、とても喜んでもらえました。一口に“お直し”といっても、いろんな想いに応えることができる。こんなにやりがいのある仕事だなんて想像できなかったです。

クラウドファンディングに参加した親子の声

 同連載で取材した落合陽一・監修の「TRUE COLOR FASHION」でモデルを務めた五十嵐ここねさんもクラウドファンディングに参加されたそう。そこで、ここねさんの母・純子さんに話を聞いた。

五十嵐純子:私もファッションが大好きなので、元「キャンディストリッパー」の菊地デザイナーにリメイクしてもらえるだけでとても嬉しかった。菊地デザイナーには「ここねは車椅子から落ちないようにベルトをつけているから、せっかくかわいい洋服を着てもベルトで隠れてしまう」と相談すると、「だったらベルト自体を隠せばいいのでは?」と、スタイ(よだれかけ)を大きく設計し、つけ襟風の大人っぽいデザインを考案してくれました。機能とおしゃれを両立した、とても素敵なデザインで、ここねも満足そうでした。カーディガンとワンピースをドッキングさせた服を自分用に作ってもらったのですが、カーディガンは肌触りが合わないと伝えると菊地デザイナーから「裏地をつけましょう」と提案してもらったことで着心地を高めてくれたおかげで、ここねもストレスなく着られる服になっていました。私が着やすいと感じる洋服が、ここねの着やすさにも通じるんだという発見につながりました。


【ライターズ・チェック】

 菊地デザイナーは洋服を着やすくするだけでなく、かわいさも含めて提案している。若者に愛される「キャンディストリッパー」をはじめ、洋服にトキメキを与えてきた菊地デザイナーだからできる提案で、リメイクやお直しの域を超えていると感じた。サステナブルな社会には、可愛さの提案と、お直しの技術を兼ね備えるクリエイターが必要かもしれない。

 クラウドファンディングに参加した五十嵐親子のリメイク相談は、全てオンラインで完結したそう。自宅からデザイナーに相談できるのは、外に出かけることが難しい人やその家族にとってより良いサービスだ。お直しのオンラインサービスが少しでも広まればうれしい。

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