「WWDJAPAN」編集部(以下、WWD):「アマーク マガジン」創刊に至るまでの経緯は?
大草直子ファッションエディター兼スタイリスト(以下、大草):世代的にずっと雑誌で育ってきて、自分のキャリアのスタートも雑誌の編集者でした。遡ると中学時代の文集にも「ファッション誌の編集者になりたい」と書いていたくらい、雑誌が大好きなんです。けれどウェブに関わり始めたのも比較的早くて、人からすすめられるままにブログやインスタグラムを始めました。特にユーザーから寄せられた質問に対し、一つ一つ答えていくことに注力しましたね。そのコミュニケーションが楽しくて、おかげさまでフォローしていただけ
る方が増えました。
WWD:“ヤフー 知恵袋”みたいな感じ?
大草:まさにそうですね。アカデミックにいうと“各論”ですかね。でもここ数年「大人の女性のおしゃれとか、そもそもなぜおしゃれをするのかとか、ある意味哲学的なこと、もっと大きなことを考えなければいけない」と思うようになりました。それまで取り組んできたことが“赤ペン先生”だとすると、今後やるべきことは“哲学書の制作”ですかね。コロナ禍を経て、その思いはますます強くなりました。私は「大人の女性のおしゃれ=自分を好きになるティップス(秘訣)」だと思っているのですが、その部分を伝えるのがすっぽりと抜け落ちていました。私を今まで助けてくれた“おしゃれ”の根本を伝えるには、“枝葉”だけではなく“土の養分”の部分に取り組むことが必要で、それが雑誌だと考えました。
WWD:どういった雑誌を目指した?
大草:例えば2021年の秋冬だけ使える情報とか、そういった刹那的な内容にはしたくなかったですね。トレンドを追い過ぎず、普遍的に、読者にとっての“おしゃれ”の幹になるものを提供したいと思って作りました。その人が本来持つ豊かさや美しさ、朗らかさへの気付き、自分を好きになるヒントといった、かなりベーシックな要素を散りばめました。10年後、大げさに言うと100年後でも読める雑誌になっていればうれしいですね。
WWD:そもそもなぜ“雑誌”にした?
大草:時間をかけて考えてもらうメッセージって、送り手もそれなりの時間と労力とかけないとできない。例えばインスタグラムへの投稿は、私はいつも電車の中で書いていて、一駅移動する間に大体書き終えてアップするので、時間にして3~4分で仕上げています。そうすると、人の記憶にステイするのも3~4分といわれているんです。雑誌ははるかに長い時間をかけて作るので、それだけ長い時間ステイしてくれる。その間に考えてもらう、咀嚼してもらうことができるので、やはり雑誌がいいと思いました。
WWD:“紙”から“デジタル”に移行するメディアが多い中、あえて“紙”の雑誌にこだわった理由は?
大草:行間や余白にメッセージを込めるとか、もう1度読み返してもらうとか、雑誌ならではのことができればと考えました。あと、以前は今のように画集や写真集がオンラインで手軽に購入できる時代ではなかったので、よくスクラッピングをしていました。今はウェブでピン留めもセーブもスクショもできるけれど、ちゃんと空間に残しておくことも大事かな、という思いもありますね。さらに個人的なことをいうと、私はインクが沈んでいく様や、紙の感触や匂いなど、デジタルでは表現できない部分が好きなんです。フォトグラファーなどのスタッフの皆さんも共感してくれて盛り上がりましたね。
WWD:「アマーク」ではデジタル施策にも注力している。
大草:そうですね。今はデジタルがアナログを補完する時代ではないし、アナログがダメな時代でもない。両者が全く違う性質で存在している時代だと思うんです。ですので、双方の良いところを全部使っていくことが、今ならできると考えています。
WWD:コンテンツでこだわったポイントは?
大草:私たちが雑誌を出すと聞いて、私のSNSのように「大草さんがいっぱい載っている」紙面を想像した人も少なくないかと思います。ですが、私は一切出ていません。SNSでは“私のようなリアルな日本人体型の女性が着るとどう見えるか”を示すために登場していますが、雑誌ではリアルを感じてもらうより、イマジネーションを働かせてもらうことに重きをおきました。
WWD:創刊号を作り終えた感想と、今後の発刊計画は?
大草:創刊号を作るにあたり、これまで関わってきたフォトグラファーやライターなど、さまざまな人が協力してくれました。また、最近はリース先を絞っているファッションブランドが多い中で、どのブランドも快くリースしてくれて、本当に“これまで仕事を続けてきたご褒美”的な一冊だと思っています。今後は、年に2回くらい刊行していきたいと考えています。今後は是非、“スナップ”をやりたいですね。