紳士服大手の青山商事は、20〜30代向け業態「ザ・スーツカンパニー(THE SUIT COMPANY、以下TSC)」の店舗・商品戦略を大きく転換する。コロナ禍でビジネススーツ需要が減少する中、デジタルツールの導入で店舗運営を効率化し、面積を縮小。商品面では“量より質”を掲げ、オーダースーツや生活者の声を反映した企画を強化し、多様化・個別化するビジネスウエアニーズの取り込みを図る。
同社は10月、「TSC」新宿本店をブランド複合型業態「TSCスクエア」としてリニューアルオープンした。「大量の在庫を抱え、それを売り減らすという商売は限界。デジタルを駆使し、在庫を多く抱えずとも、お客さまに不自由なくお買い物を楽しんでいただける仕組みを作る」と河野克彦TSC事業本部長。
売り場は、改装前の約250坪から約140坪へ。店舗面積を縮小することで、出店のハードルが下がり、運営効率も改善する。「TSCスクエア」はこの考えを反映した改装第1号案件となる。これをモデルケースに、都心店から段階的に店舗の中身を入れ替える。全店の平均売り場面積は約150坪だが、これを60〜100坪程度まで圧縮する。
売り場を縮小した分はデジタルで補完する。「TSCスクエア」で導入する「デジラボ試着室」では、サイネージを操作してEC含む全店在庫から商品を選択し、その場でサンプルを試着することでサイズ確認が可能。購入した商品は自宅に配送されるため、取りに行く手間も不要だ。
オーダースーツ業態の「ユニバーサルランゲージ メジャーズ(UNIVERSAL LANGUAGE MEASURE’S)」の売り場も設けた。2016年のスタート以来、30〜50代が支持層だったが、「コロナ禍でスーツを着る機会が減った分、若いビジネスパーソンの間でもハレ着としてオーダースーツ需要が高まっている」という。「TSCスクエア」のオープンと合わせてウィメンズスーツのオーダーも新たにスタートした。
価格は4万2900円〜。「クオリティーを勘案すれば(同業他社と比較しても)かなりリーズナブルに抑えている。スーツ量販で培ってきた生地の調達網や、お客さまの声をもとに修正を重ねてきたゲージサンプルの精度も高く、品質には一定の評価を頂いている」と手応えを口にする。同業態は「TSCスクエア」を含め全国に22拠点。フィッターを同年代の若手に配置転換することで、世代特有のニーズや悩みに寄り添った接客を強化する。
また、自宅や職場にいながらフィッターの採寸が受けられる「出張オーダーサービス」もコロナ禍でスタートした。出張費など追加料金はかからない。利用は法人が多くを占めるが、今後は個人客の開拓にも力を入れるという。
リアルな声を元にした商品開発
働く男女の声を反映した商品開発にも取り組む。青山商事はこのほど、Tポイント・ジャパン(東京、北村和彦社長)、CCCマーケティング(同)と協業し、オン・オフ兼用ライン“ボーダレススタイル”(ウィメンズ4型、メンズ4型)を企画。「TSCスクエア」のリニューアルと合わせ、同店含む一部店舗で販売している。
商品企画に当たって、CCCグループが運営するコミュニティープラットフォーム「ブラボ(BLABO)」を通じ、ビジネスパーソンの意見を募集した(「ブラボ」は企業の投げ掛けたお題に対して誰でも自由にリアクションができる。JR東日本やキリンなど大手企業も参画している)。そこで吸い上げた「オンライン会議での服装に困る」「オンオフ兼用ウエアがほしい」といったさまざまなニーズを生かした。
ラインアップは女性向けがセットアップ、ワンピース、トレンチコート。セットアップは、カジュアルシーンにも使い回ししたいという要望に応えてジャケット(2万900円)の襟は取り外しが可能で、パンツ(1万790円)の丈はスナップボタンで調整が可能。ワンピース(1万780円)は総柄と無地のリバーシブル仕様。トレンチコート(2万900円)はショートコート、ロングジレ、中綿ベストに分解して使える。男性向けセットアップのジャケットは襟がデタッチャブルで、自転車通勤にも対応できるよう防シワ加工、ウオッシャブル機能を施したものもある(ジャケット2万900〜2万5300円、パンツ1万780〜1万2100円)。
立地戦略だけでは「通用しない」
ビジネスパーソンに歩み寄る
青山商事の「洋服の青山」は1980年代、百貨店の紳士服よりも安価なスーツを武器に「カテゴリーキラー」として郊外ロードサイドに店舗網を広げた。その後若年層のビジネスマンをターゲットとして00年に立ち上げたのが「TSC」。都心の駅近くやショッピングセンターの大型区画などに出店してきた。だが近年は働き方と服装が多様化、EC販売も台頭する中で苦戦を強いられていた。
そこに新型コロナが襲来。「もはや車通りの多いロードサイドであろうが、駅周辺の一等地であろうが、立地の集客力に頼っていては生き残れない。ツープライススーツ(2万円〜3万円台のスーツ)を売るだけの商売もジリ貧だ。お客さまを待ち構えるだけでなく、来店動機となる仕掛けを打ち出し、自らビジネスパーソンに歩み寄っていく必要がある」と河野本部長。「スーツ量販で培ってきた生産背景やスピード感を、新時代のビジネスウエアを作る原動力にしていきたい」。