フレグランスを中心に化粧品の輸入販売・開発を行うフィッツコーポレーションはこのほど、香りの機能性に着目した新ライン「フィッツコンディショニング(FITS CONDITIONING)」を立ち上げた。同社が誇る長年のフレグランスのノウハウと研究を生かし、“香りのチカラでコンディションを整える”フレグランスを提供する。第1弾製品は「集中したいときに使いたい香り」「リラックスしたいときに使いたい香り」の2つの香りで、それぞれルームスプレーとディフューザーを販売する。2021年12月25日まで、蔦屋書店スクランブルスクエア店内のシェアラウンジで2つの香りを楽しめるイベントを開催していた。
「ライジングウェーブ(RISINGWAVE)」「レールデュサボン(L’AIR DE SAVON)」「ヴィーナススパ(VENUS SPA)」といったオリジナル商品に加え、「ボディファンタジー(BODY FANTASIES)」「モムチ(MUMCHIT)」「アバクロンビー&フィッチ(ABERCROMBIE & FITCH)」など海外ブランドのライセンス製品や輸入販売を担う同社の込戸やよい「フィッツコンディショニング」企画・開発者に、フレグランスの新業態に挑戦する理由や意気込みについて聞いた。
WWD:「フィッツコンディショニング」とは。
込戸やよい「フィッツコンディショニング」企画・開発者(以下、込戸):われわれは「社会にある課題を香りで解決していく」というミッションを掲げており、コロナ禍で浮上したさまざまな課題を香りで解決すべく、新ラインを立ち上げた。特にリモートワークで1日同じ空間の中でオンとオフ、仕事とプライベートを過ごさなければいけなくなり、気持ちを切り替えるのが難しくなった。もともと4〜5年前から「フィッツスポーツ(FITS SPORTS)」というスポーツ選手のパフォーマンスアップに寄与する機能性香料を開発してきたが、スポーツだけでなく、ビジネスシーンや学習の場でも香りの力を生かせるのでは、と考えた。「フィッツスポーツ」で開発した機能性香料を、リモートワークやライフスタイルに応用したのが「フィッツコンディショニング」だ。古賀良彦・杏林大学医学部精神神経学教室名誉教授兼医学博士に監修してもらい、“コンディションを整える”フレグランスを手掛けた。
きっかけはスポーツ選手との協業
WWD:そもそも4〜5年前に“機能性香料”に着目した理由は。
込戸:男性向けのフレグランス「ライジングウェーブ」で12年前、とある野球選手をキービジュアルに起用させていただいたのだが、そのきっかけが普段から愛用していた弊社のボディークリームだった。とても甘くティーン向けの香りだが、彼は身だしなみにもとてもこだわる人で、1週間に何本も使っていたという。その後別のサッカー選手とも取り組みさせていただくようになったのだが、ゴールをしたときにユニフォームのエンブレムにキスをする仕草が有名で、話を聞いてみると、実はそこに香水を仕込んでいたというエピソードも。それまでは弊社の中のフレグランスはスポーツシーンには需要がないのかと思っていたのだが、香りはスポーツといったパフォーマンス界でも大きな力を持つことに気づき、ただの嗜好品を超えて、機能性を持たせたらもっと可能性は広がるのでは、と考えるようになったのがきっかけだった。
WWD:第1弾製品として、「集中」と「リラックス」の香りのスプレーとディフューザーを作った。
込戸:競馬やゴルフ、野球、マラソンなどさまざまなスポーツで活躍するアスリートに話を聞くと、「パフォーマンス向上」「集中力アップ」といったニーズと、一方で「リラックス」「リカバリー」といったキーワードが共通してたくさん出てきた。ただ、それは普段の日常の中でも絶対にあるニーズ。例えば集中するときに最適な香りがあれば、受験生は勉強がはかどるだろうし、ビジネスマンにも活用いただけると感じた。まずは分かりやすさという点でも、集中とリラックスという2つの香りを出すことにした。「フィッツスポーツ」では鼻に貼る鼻腔拡張テープを開発したが、今回は日常のライフスタイルに寄り添うアイテムとして、使いやすいディフューザータイプを作った。ただディフューザーだとふんわり柔らかく香りたつので、空間を彩るにはいいもののオンとオフの切り替えがしづらいと感じ、即時に香りを広げられるルームスプレーも用意した。単品で購入することももちろん可能だが、個人的にはセットで使うことをオススメしている。
WWD:機能性に着目したフレグランスでこだわったことは。
込戸:日本は欧米諸国に比べて香りの文化が習慣化されていないとよくいわれるが、われわれは日本人が香りに馴染みがないというより、日本人に合った使い方や向き合い方を伝える必要があると感じている。そこで今回の「フィッツコンディショニング」では、「香りにはこんなアプローチもあるんだ」という気づきを与える目的もある。日本ではアロマテラピーはまだ一部の方にしか浸透しておらず、ハードルが高いと感じる人も多い。日常的なシーンで手軽に使っていただくことで、香りの持つ力を身近に感じてもらえるような説明の仕方にこだわった。
WWD:コロナ禍で人々の香りへの意識はどのように変化したと感じるか。
込戸:社会情勢が大きく変わって、人々のライフスタイルが大幅に変化した。おうち時間が伸びて、日常生活における香りの取り入れ方が大きく変わってきている。弊社でもルームディフューザーやファブリックスプレーといったインテリアフレグランス商材が急伸した。またこれまでは対外的に自分を魅力的にみせるためにあった香水が、今はどちらかというと自分自身のリラックスだとか、内面のために使う人が増えている。今後われわれとしては、そういったインテリア商材はもちろん今回の「フィッツコンディショニング」といった新たな香りの楽しみ方を提案し続けたい。
フレグランス企業として
30年以上香りと向き合ってきた実績を強みに
WWD:他社でも機能性フレグランスを開発することが増えている。「フィッツコンディショニング」の強みは。
込戸:やはり30年間、香りと向き合ってきた実績が大きい。今回香りの研究開発を重ねて開発したが、そこのサイエンス的な部分と、嗜好性がしっかり取れるような香りを組み合わせ、掛け算をしているというのは、ポイント。仮にパフォーマンスが向上しても悪い香りだったら誰も手に取らないわけで。そこはしっかりと「ただ、いい香りでしょ?」というわけではなくて、脳と香りの関係性を研究されている古賀先生にも協力いただいたことで、この両方の掛け算がしっかりできている。
WWD:今後はモノ以外のサービスにも事業を広げるのか。
込戸:今後は1日に大きな時間を占めるレスト(睡眠)タイムに、香りを利用したソリューションを提供できないか考えている。スプレーといった商品だけでなく、AIなどのテクノロジーを活用できないか、今開発を進めている。「フィッツコンディショニング」は企業名を冠しているだけに、強いこだわりと思いを込めており、弊社の中でも今後の成長の柱と捉えている。既存のブランドの枠を越えて香りの新たな市場を開拓するパイオニアでありたいし、「社会の課題を香りの力で解決する」と銘打っている。香りは目に見えないからこその難しさと、面白さがある。嗅覚は五感の中で唯一本能に直結して感じられる器官でありながら、まだまだ未開拓な分野でもある。だからこそ可能性はあるし、香りの世界を広げていきたい。