ファッション
連載 コレクション日記

蛍光灯付きヘルメットの「リック」に仰天しロマンチックな「ディオール」にうっとり 22-23年秋冬メンズコレ現地突撃リポートVol.6

 ボンジュール!いや、日本でアップされる時間ではボンソワール!でしょうか。欧州通信員の藪野です。最高気温6〜7度のどんよりとした曇りの日ばかりですが、元気に取材を続けています。今シーズン、リアルショーは1日に3ブランドほど。その間に展示会やプレゼンテーションもありますが、夜のイベントやパーティーはほとんどなく、随分ゆったりとしたスケジュールです。そんなパリ・メンズももう中盤戦。今回は、「ルイ・ヴィトン(LOUIS VUITTON)」や「リック・オウエンス(RICK OWENS)」「ディオール(DIOR)」「ジル サンダー(JIL SANDER)」などのショーが行われた3、4日目のダイジェストをお届けします!

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14:30 LOUIS VUITTON

 3日目のメーンイベントは、なんといっても「ルイ・ヴィトン(LOUIS VUITTON)」!14:30と17:00に2回ショーを行い、生前のヴァージル・アブロー(Virgil Abloh)が手掛けた最後のコレクションを発表しました。コロナ禍に入ってから、上海や東京などショーを行ったり、デジタルで発表したりしていたので、パリでのメンズショーは2年ぶりになります。その場にヴァージルがもういないと思うと、やっぱり寂しいですね……。

 コレクションは、彼が大切にしていた“子どものような純粋な視点”を生かした、先入観やルールにとらわれないもの。その自由な発想や遊び心を受け入れ、洗練されたものに仕上げるメゾンの懐の深さと技術を感じました。すでに速報をアップしていますので、詳細はこちらからご覧ください!

16:00 SULVAM

 日本ブランドの「サルバム(SULVAM)」はデジタル発表だけでなく、現地でもプレゼンテーションを開催すると聞き、会場へ。なんとデザイナーの藤田さんも渡仏されていました!聞くと、今回の会場はアトリエとして新たに借りた場所で、フランスの現地法人も設立したそう。パリをコレクション発表の場に選ぶブランドは多いですが、ビッグブランド以外では拠点まで構えているところは多くありません。リスクを背負ってでもフランスで勝負するという姿勢や意気込みは素晴らしく、応援したくなります。初対面だったのですが、その思いに心打たれて色々と聞かせてもらったので、後日、別途記事化します!

 そして、話は前後しますが、「サルバム」のアトリエ前ではティファニー・ゴドイ(Tiffany Godoy)さんとバッタリ。先日、「ヴォーグ ジャパン(VOGUE JAPAN)」のヘッド・オブ・エディトリアル・コンテント就任が発表されて、驚いた方も多いのではないでしょうか?彼女が手掛ける新生「ヴォーグ ジャパン」も楽しみですね!

20:00 RICK OWENS

 一度ホテルに戻り、部屋で晩御飯にカレーうどんを作って食べた後、向かったのは「リック・オウエンス(RICK OWENS)」。”ストロボ(STOROBE)”と題したコレクションは、まさにフラッシュのような眩しい光が点滅し続ける中で披露されました。正直、目眩しにあったようでディテールまでハッキリとは見えませんでしたが(苦笑)、そんな中でも際立ったのはパワフルなフォーム!背中のスリットから被るとポンチョのような丸みのあるシェイプを描くコート、体を覆うボリューミーなパファーアイテム、ゴートヘアのトリミングをあしらったパーカ、肩を極端に誇張したテーラリングなどがそろいます。威嚇的とも見えるそのシルエットですが、プレスリリースには「誇張した肩は男性らしさのパロディとして始めたが、結果的にそれを着ることを楽しんでいる。そして、自分の周りのスペースをより広く取るための口実にもなる。キャンプ(人工的で誇張され、皮肉的で大げさはファッション)は、常に真剣で純粋な衝動を誇張するものだ」と書かれていて、ちょっとお茶目にも感じました。そして、頭には蛍光灯が付いたヘルメット風のヘッドピース。よく見ると、モデルは手にバッテリーを携えていてシュールですが、これは昨年10月に訪れたエジプトの神殿や墓地で見た王冠の形状から着想を得たそう。今季もリック様はワン&オンリーの強さを放っています。

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10:30 COURREGES

 「クレージュ(COURREGES)」は、ニコラス・デ・フェリーチェ(Nicolas Di Felice)による2シーズン目となるメンズ、そしてウィメンズのプレ・フォール・コレクションを本社ビルで披露。前回はショーを開催しましたが、今後はウィメンズのメーン・コレクションのみショーで披露するそうです。

 彼が「クレージュ」で描いているは“クラブに集うクールな若者”という印象でしたが、今季はまさに“ナイトライフ”が着想源。昨年9月のウィメンズショー後にクラブイベント“クレージュ・クラブ”を開催したことがきっかけになっているようで、今後も開催を続けていくそうです。公開された映像とルックは、クラブの外のようなグラフィティだらけの壁の前で撮影されたもの。ニコラスの友人やお気に入りのモデルが着こなすルックは、まさにクラバーといった雰囲気です。

 デザインは、ファーストシーズンから一貫しているミニマルでモダンなスタイルに、“スワローシェイプ”というネックラインなどの新たなディテールや、ストレッチサテンとコーティングジャージーを取り入れてアップデート。ニコラスが「メンズもウィメンズも同じアプローチで手掛けている」というコレクションは共通点も多く、コーチジャケットやシアリングの襟を付け外しできるレザージャケットなどジェンダーを問わないアイテムもあります。今季は、彼が「ラベンダー」と呼ぶ青みがかったパステルカラー(いわゆる紫っぽいラベンダーは好きじゃないそう)と、創業者アンドレ・クレージュ(Andre Courreges)が1960代に多用していたことから名付けられたという「ヘリテージレッド」という朱赤が印象的。今回は実際にいくつか試着し、そのシルエットの美しさや意外なほどの動きやすさは、彼が特にこだわるカッティングの賜物だと感じました。

 ニコラスは就任から1年半、アンドレのアーカイブのディテールに着目し、それをいかに現代に向けて再考しながらコレクション制作に取り組んできました。そして今、ブランドのヘリテージやDNAだけでなく、もっと自分の個性やヘリテージを表現する準備ができたと感じているそう。3月2日に予定する次のウィメンズショーは、「とても『クレージュ』らしくありながらも、これまでに見たことないような大胆なコレクションになるよ」と教えてくれました。今後にも期待です!

12:00 HOMME PLISSE ISSEY MIYAKE

 自然の中で過ごすキャンプの人気は年々高まっていますが、「オム プリッセ イッセイ ミヤケ(HOMME PLISSE ISSEY MIYAKE)」のプレゼンテーションでも最初に目に入ったのは、デザインチームがテントを張ってキャンプをする姿やテントそのものの写真でした。というのも、今季はテントのような布と骨組みでできた構造物を研究し、その造形やラインを服に応用。プリーツに弧の要素を加えることで、新たな立体造形を目指したそうです。結果、でき上がったアイテムは、テントのポールのような湾曲するラインを背中から袖口にかけて加えたトップスや、タープに見られる自然なたわみを、プリーツ生地を折り畳むように重ねてボタンで留めることで表現したパンツなど。会場では、コレクションの映像だけでなく、その制作風景の映像も見ることができて、興味をそそられました。ものづくりの過程を見るのって、やっぱり面白いですね。

14:30 DIOR

 お次は「ディオール(DIOR)」です。コンコルド広場に建てられた細長い特設テントの中に入ると、そこにはアレクサンドル3世橋。彫刻や装飾からランプまでがリアルサイズで再現されていて、迫力満点です。その背景に映し出されるのは、早朝のパリの街。少し靄(もや)がかかり、朝日がきらめくその風景は、とても幻想的です。

 キム・ジョーンズ(Kim Jones)はこれまでさまざまなアーティストとのコラボレーションを通してコレクションを制作してきましたが、今季フォーカスしたのは、今は亡き創業者クリスチャン・ディオール(Christian Dior)との対話。今年はメゾンの創設75周年でもあり、「アーカイブを見て、メゾンの初期の純粋さ、当時の衝動を見つめたかった。そして、私たちは当時のコレクションを見て、 その建築的な美しさにフォーカス。クリスチャン・ディオールによる洋服の根底にある“JOIE DE VIVRE (生きる喜び)”のスピリットは常に保ちつつアーカイブの要素を取り入れ、ほぼ直感的に、今日に向けたマスキュリンな形に再解釈した」と述べています。

 そんなコレクションを象徴するのは、キムによるメンズで初めて登場した“バー”ジャケット。しつけ糸のような白いステッチなどラフなディテールをあしらうことで、アイコニックなカーブシルエットを取り入れながらも、男性にふさわしいジャケットやコートに仕上げています。そして、バッグ”レディ ディオール”などに見られる”カナージュ”パターンはパテントのコートやシアリングジャケットに採用。ムッシュがラッキーチャームとして用いたスズランをはじめとする花々が、クチュールメゾンらしい華やかな刺しゅうでセーターやジップアップブルゾンを彩ります。黒から始まり、グレーやパステルといったニュアンスカラーへと変わるカラーパレットは、夜が明け、朝日に照らされるパリの街にリンク。今年同メゾンのハットデザイナーに就任してから25周年になるというスティーブン・ジョーンズ(Stephan Jones)によるベレー帽や、バラの花束を包むバッグもパリジャンのイメージにつながります。

 分かりやすい“派手さ”はないけれど、繊細でロマンチックなコレクションには、うっとり。端正なテーラリングに軸足を置きつつも、ボトムはスエットパンツのようだったり、シャツとポロニットをレイヤードしたり、足元に「ビルケンシュトック(BIRKENSTOCK)」との初のコラボサンダルを合わせたりと、カジュアルや実用的な要素を取り入れて現代的かつエフォートレスに仕上げているのもさすがです。

16:30 JIL SANDER

 「ジル サンダー(JIL SANDER)」は昨年9月にミラノで行ったウィメンズショーに続き、メンズでもついにショーを再開。ウィメンズでは会場は薄いパープルで統一されていましたが、こちらは暖かなオレンジ一色。カーペットの上に同様の起毛素材の椅子が並び、頭上には巨大なバルーンのような球体が浮かんでいます。

 パンダ・ベア (Panda Bear)やアニマル・コレクティブ(Animal Collective)の楽曲が流れる中、足早に歩くモデルがまとうのは、オーバーサイズのボクシーなテーラードジャケットやロングコートを軸にしたスタイル。そこに、今季はウィメンズにも見られるクロシェ(かぎ針編み)の装飾やネックアクセサリーを加えたり、星座モチーフのイラストを取り入れたり。ボトムスのテーラードパンツはウエストからももまでをレザーで切り替えたデザインもあり、シャープなポインテッドトーのアンクルブーツにインするのがポイントになっています。スカーフを細く丸めてベルトとして用いているのも新鮮でした。

 ここまでのメンズを振り返ってみると、テーラリングの新たな着こなし提案する流れは継続。「ジル サンダー」のルークとルーシー・メイヤー(Luke & Lucie Meier)も米「WWD」に「個をたたえたかった」と話していたようですが、ユニフォーム的ではなく個を主張・表現するためのテーラリングが広がっている印象です。

おまけ:本日のワンコ

 20日朝に、元コレットのサラ・アンデルマンが手掛けるプロジェクト「ジャスト アン アイデア ブックス(Just an Idea Books)」のポップアップストアのプレビューで、ワンちゃんを大量に発見!どの子もかわいくて、朝から癒されました〜。

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