ファッション

「振り切った方がオモロイやん」 日本文化を蘇らせる「ヨシオクボ」22-23年秋冬リアルショー

 「ヨシオクボ(YOSHIOKUBO)」は、2022-23年秋冬コレクションを東京・中目黒の本社で発表した。パリ・メンズ・ファッション・ウイークでは、ショー映像を組み込んだデジタルコレクションを公開した。

 今シーズンは「エンターテインメントに振り切った」と語る久保嘉男デザイナー。「周りから『もっと思い切った方がいい』って言われてたし、自分でもその方がオモロイやろなと思ってました。だから、動きのあるフォルムを取り入れたり、ウィメンズのルックを3日で10体作ったり、『おっ!』と思わせる要素を盛り込んでます」。音楽は昨シーズンに続き、DJのLicaxxxが担当。風と太鼓、子どもの遊び声など、古き良き正月を思わせる音とテクノが融合したBGMでショーが開幕した。

凧、メンコ、花札
スポーツ&アウトドアに日本文化を融合

 同ブランドは“忍び”や“僧兵”など、日本を掘り下げたクリエイションを数シーズン続けており、今シーズンのテーマは“いかのぼり”だ。いかのぼりとは、現代でいう“凧揚げ”である。「僕も昔はよくやっていたけど、今はほとんどの人が興味を示さんし、日用品がなんでもそろう百均にさえ売ってない。消えつつある日本の文化やスポーツに目を当てたかったんです」。凧揚げと呼ばれ始めたのは、江戸時代のころ。いかのぼりが大流行して事故が多発し、幕府が禁止令を出したところ、市民が「これは“たこ”だ」と反論したことに由来するという。

 ウエアは、スポーツとアウトドアテイストを軸に、凧やメンコ、花札などの日本文化に着想したデザインを組み込んだ。花札の絵柄をペイズリー風にアレンジしたニットやスカート、凧紐のように動きに合わせてなびくテープをつけたジャケット、メンコの絵柄をイメージした背中の竜のグラフィックなど、ぱっと見で伝わるモチーフを連打した。一方で、西洋で盛んに行われる、色鮮やかで左右対称なデザインが特徴の“スポーツカイト”を生地の切り替えで表現したフリースジャケットや、花札のモチーフとして使われる藤とホトトギスを繰り返した総柄、袖と身頃を複数枚重ねてよろいのような立体感を出したマルチポケットのアウトドアジャケットなど、着想源を読み解く面白さのあるウエアもあった。ベージュやカーキ、ネイビーの定番色に、白と赤の縁起のいいカラーパレットを加え、テーマをストレートに反映した。

 色・柄以上に印象に残ったのが、ボーンで構築したダイナミックなフォルムだ。インナーの裾にボーンを通して円を作ったり、それを両脇に挟んで前後に飛び出たせたりして、リアルクローズにはない形を提案する。「ちっちゃいころ、ワンタッチで大きくなる帽子をオカンが見せてくれて、楽しかったことを思い出したんです。凧の骨組みもインスピレーションになってます」。ワイヤーは手の平サイズに小さく折りたためて、取り外しも可能だ。

ジェンダーに対する心境の変化
これまでは「固定観念でガチガチだった」

 2006年にウィメンズ「ミュラーオブヨシオクボ(MULLER OF YOSHIOKUBO)」を始動し、メンズとウィメンズを分けてきたが、ここ数シーズンでジェンダーの境界線は薄まっている。今シーズンは全30ルックのうち12ルックに女性モデルを起用し、男女どちらも着られるように、着丈やボタンの数、シルエットを調整したという3型のロングシャツなどを用意した。背景には、海外を中心に「ヨシオ クボ」を着る女性客が増えたことと、久保デザイナー自身の心境の変化がある。「以前は“男性向け”“女性向け”っていう仕切りが、着る人のアイデンティティーを確立すると考えてました。でも、メンズ服を女性が着てもええし、スタイルの幅も広がる。若い人に『常識にとらわれるな』と言ってたのに、固定観念でガチガチになっていたのは自分やった」。

 久保デザイナーは「オモロさを追求した」と説明したが、ショーを見て、ただシンプルに「かっこいい」と思った。音楽も含めて、日本文化を現代に蘇らせるコレクションが純粋に心に響いたし、ベテランと呼ばれる今でも自分の考えを見直し、新たな表現に挑み続ける久保デザイナーの姿勢もかっこよかった。次はどんなコレクションを見せてくれるのか、今から楽しみだ。

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