バーチャルリアリティー(VR)空間上でさまざまな展示や体験、3Dアイテムやリアル商品の売買ができるイベント「バーチャルマーケット2021」が2021年12月4〜19日に開催された。個人が3Dアイテムを売買する場として18年にスタートした「バーチャルマーケット(以下、Vケット)」は、3DクリエイターやVRを楽しむ世界中の人々が集まる祭典となっており、今回も100万人以上が来場したという。「Vケット」を主催するHIKKYの舟越靖代表取締役に成果と展望を聞いた。
WWD:毎回現実ではありえない世界を舞台を3Dで表現してきたが、今回の企業出展ワールドは秋葉原と渋谷というリアルな街を再現した。なぜ現実にある“街”だったのか。
舟越:クリエーターが作り出すものを皆さんに見に来てほしいというのが大前提で、毎回ワールドを用意してきましたが、常設化や商業性を求める出展企業が増えてきました。そこに対応するモデルケースが、“街”です。でも、リアルの再現では面白くない。街は人が血液のように循環して、まるで生きているかのように変わっていきます。その変化が面白いと、人は「また行こう」という気になるでしょう。その変化を“見える化”できたら非常にいいなと思って、今回は来場者数に比例して、ビルが高くなるようにしました。
WWD:それは、気付かなかった。
舟越:裏テーマというか、テストだったので(笑)。「なんか大きくなってない?」と気付いたコアな人たちの間では、すごく盛り上がっていました。巨大なエヴァンゲリオンは前回も秋葉原駅前にいましたが、今回はそれが動くようにしました。それからリアルの天気と連動させました。渋谷が雨なら、バーチャルの渋谷も雨。でも、時々雪を降らせて盛り上げたり。現実とバーチャルの境目をなくして、参加する人たちの手によって変化するような世界を作ることを試みたのが、今回の一番の挑戦でした。
WWD:秋葉原と渋谷を常設化していく?
舟越:今回体現したように、リアルな街では味わえないような新しいものが組み合わさった世界、それを僕らは「パラリアル」と呼んでいますが、その「パラリアル」の世界観を広げていければと考えています。そこに人が来て、お金がもうかり始めたら、名実共にそこが“本物”になる。来る人が心から楽しめたり、現地の人たちがちゃんと恩恵を受けたりできるものにしていきたいです。
WWD:現実と違うところにバーチャルの面白みがあると思う。
舟越:その通りです。でも、何が面白いかという定義って、別に誰も決められないじゃないですか。逆に言うと、僕らが「これが面白い!」と思うものをやるしかない。バーチャルと現実をちゃんと交ぜた、僕らなりの最高の楽しさを「パラリアル」で実現していきます。
WWD:SMBC日興証券の“株価連動ジェットコースター”はすごくユニークで面白かった。
舟越:面白さでは圧倒的でしたね。株価を体感するって、現実ではないですよね。こういう今までなかったものが、バーチャルの世界では生まれています。発明ですし、これが実はまだ価値が一番高いです。こうした広告クリエイティブ事業は、企画と実現力があれば他社でもできる部分なので、市場が拡大している分野だと思います。
WWD:他に「Vケット2021」の成果は?
舟越:出展社は宣伝よりも商売を基軸に活動する企業がすごく増えました。僕らにも知見がたまってきているので、バーチャル空間上でのeコマース的なものが確立し始めているという実感を皆さんが持ち始めていると思います。それから、「Vケット」の盛り上がりによって、出展していないクリエイターたちのショップであっても期間中にキャンペーン的なことを行うと売り上げが上がるというようなことが起き始めました。こういう余波が生まれているのはうれしいです。
WWD:「Vケット」の課題は?
舟越:まだ一般化できていないことです。一般の人がまだまだアクセスしづらいというのも課題ですが、もっといろんな人が楽しめるものにならなくてはいけないと考えています。「Vケット」は、クリエイターと企業と、そして何よりも来場してくれる人がいないと成り立ちません。街が変わっていくというコンセプトを成立させるには、誰もが「Vケット」を使えるようにして、僕らの“楽しい”を一緒に作れるようにしていかなければと考えています。地方の商店街や小さい個人商店もそうだし、障がいのある人や会社で働くことが難しい人たちなど、みんながの恩恵を得られるようにしたいし、そのために“街”を作っています。とにかく“簡単さ”が大事だと思っています。
WWD:ファッションとビューティについては?
舟越:主に「Vケット クラウド」(スマートフォンおよびPCブラウザ上で動くVRコンテンツ開発エンジン)の方で、簡単にアバターにメイクや着替えができる機能を今年中に実装します。スマホで楽しめるので、一般のユーザーが楽しめるものになります。
ドコモから調達した65億円の使い道
WWD:それはすごく楽しみだ。11月にNTTドコモを引受先とした第三者割当増資により、65億円を調達を発表したが、多額の資金は何に使う?
舟越:僕ら、なぜこれまで資金調達してこなかったかというと、黒字でやってこれていたからというのと、戦略的にユニコーンレベルの資金調達をしないと世界で戦えないと考えていたからです。使途は主に3つです。まずは国際化。各国への支店や、そこでのコミュニティーを作るために使います。すでに上海に支店がありますが、ユーザーの多いアメリカにも構えたいです。あとは韓国やインド。そういうところにどうチームを作れるかは、正直、人の出会いによって変わるじゃないですか。現地で社長任せられるレベルの人がいかに見つかるかなので、それによって優先度は変わります。もう一つは、サービスのコンテンツを作るための内部のリソースの確保です。つまり、「Vケット クラウド」を含めたサービス開発の強化ですね。そして、多く寄せられる要望に応えられる体制作りも急務です。「一緒にやりたい」といってくださる企業が多いのですが、僕らが受け付けられる量をはるかに超えています。問い合わせの相談窓口を社内だけでなく、社外でも開拓したいです。
WWD:「メタバース」がにわかに話題になってきているが?
舟越:クリエイターと共にやってきて、その頃から市場と呼べるものが生まれてきましたが、それがさらに加速する状況になっています。メディアからの取材は前回に比べて3倍になりましたし、資金調達もあって、世界中のブロックチェーンやNFT関連の事業者の大手から連絡が来るなど、全く違うアプローチが来るようになりました。また次の展望につながる第一歩の話につながりそうですし、ものすごく可能性が広がっています。
WWD:企業として最終的な目標は?
舟越:僕らは「クリエイティブ・ファースト」でありたいです。例えば、うつ病になってしまって働けなくなったサラリーマンが、バーチャル空間で全く素人から始めて、今うちの役員になっていますし、半年前まで工場で働いていたシングルマザーがトップクリエイターとして活躍しています。皆んな“作りたい”という欲求はあると思うんです。でも、40代だからとか、周りが認めてくれないからとかで、諦めてしまっている。本当は誰しもがかなえられる可能性は十分にあるんです。「Vケット」に来て、個人クリエイターが作るものを見て、刺激を受けて、クリエイターになる人がとても多いんです。同じようにバーチャル空間で働くとか、バーチャル空間でだったらクリエイターになれる、なっていいっていう状態、例えば、家族5人を養うために日夜働いてるお父さんが、明日からクリエイターになっていい時代を作りたいんです。これが目指すべき目標です。